ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 神様の人生ゲーム ( No.2 )
- 日時: 2011/03/16 10:27
- 名前: 雨空 ◆wx05aT7Jac (ID: ADlKld9P)
一章-01
真っ暗な闇の中、僕は一人取り残された。
四方八方を見渡しても何も、誰も見ることはできない。
手さぐりで何かを探しても、何にも触れれない。誰の腕も僕の腕を掴んで引っ張ってはくれない。
何も、誰も見えない。 何の音も聞こえない。 誰かが僕を呼ぶ声も聞こえない。
僕は真っ暗闇の中一人震えている。
————それは誰かの見た昔の記憶。
**** 沢村涼太
「意味不明」
学校の休み時間、俺の机に頬杖をついてしかめっ面で携帯を睨めっこをしているのは、長い焦げ茶色の髪の毛の頭のてっぺんで大きいな丸いお団子に結んでいる、少し切れ長な目なのに幼さの残る顔をした、俺の家の隣に住んでいる幼馴染————東條真咲だ。
真咲は休み時間、毎日のように俺の席まで来て携帯と睨めっこをするのが日課になっている。
特に俺に用事があるわけではないのだったら自分の席で携帯と睨み合えば良いと思いながらも、真咲が時々ぽつりと呟く独り言についついツッコんでしまうのも俺の毎日の日課となっている。
そして今日もぽつりと呟いたのだがいつにもましてシュールな台詞を呟きやがった。こっちの方が意味不明だっつーの!っと心の中でツッコんだ後、「今日は何見てるんだ?」と真咲の携帯を覗き込みなら尋ねる。
「勝手に女の携帯を覗くな」とでも言いたそうな鋭い目で睨みながらも、携帯の画面を鼻にぶつかりそうなぐらい顔に近づけてきた。正直、近づけてもらった方が見やすいと思うが、これだけ近いとかなり見辛い。
真咲の手から携帯を引っ手繰り画面を見る。……どうやら有名な動画投稿サイトのようだ。タイトルを見ると……、今俺たちの世代で流行っている男性ユニットの新曲のPVのようだ。
歌詞が俺たちの世代の心に合っていると、女子だけでなく、男子からも人気なユニットで、俺も真咲からCDを借りてよく聞いている。
真咲もこのユニットの大ファンだから、携帯からこの動画を見ている事には納得できたが、何故「意味不明」なのかが理解できなかった。
「これのどこが意味不明なんだよ?このユニット、お前大ファンだろ?」
携帯をヒョイッと返すと、真咲は「何で分からないの?お前はバカか?」と呆れた表情で睨んできた。
「よく見てよ!このコメント!!」
そう言って、画面のコメント欄を指さしてまた画面を近づけてくる。だから見辛いって。指の指されいるコメント欄のコメントを読んでみる。
『この曲って○○のパクリ?』
『歌詞は良いのに、歌ってい人が歌うの下手すぎて残念。』
……なるほど、この曲の中傷コメントに腹を立てているようだ。
「このコメント最低じゃない!?パクリなわけ無いじゃん!しかも歌下手じゃないし。『下手』って言った自分が歌ってみろ!!このド素人が!!」
画面を見た後、苦笑いをした俺の顔を見て熱く語ってくる。このコメントにかなり腹が立っているようで、俺の机をバンバン叩く。……俺の机が壊れるからやめてくれ。
「この曲は、今の私たちにすっごく合ってるじゃん!この曲を聴いて、私のお姉ちゃん号泣したんだからね!!まさに神だよ、神!!」
確かに、今年高校受験を控えている俺たちに凄く合ってる曲だと、少し前にクラスの奴が語り合っていた。
しかも、小説、音楽、映画など多くの感動ものを見たり聞いたりしても目が潤みもしない真咲の姉が号泣するのなら凄い曲なのだろう。しかし、この批判的なコメントに同意するわけでは無いが、この曲に似た曲をこの間コンビニで聞いたような気がする。ボーカルも今回少し歌い方を変えたそうでなんだか違和感があり、下手にも聞こえなくもない。そんなことをコイツの前で言ったら、ベランダから俺の机を落とすに違いないので黙って真咲の放つユニットへの愛を熱く語る様を少し苦笑いしながら眺めることにした。
「も〜……!何でこの曲の良さがわからないのかな〜!!絶対いい曲!絶対神曲!!」
さっきから真咲はやたら『神』という単語を使う。
これは最近俺らの世代で流行っている褒め言葉の一種である。『神曲』、『神ゲーム』、『神絵など……とにかく何にでも付ける。
しかし、『神』とは一体何なのだろう?
俺たちの中に神を見たことがあるのだろうか……?
本当に神の作った曲を聞いたことがあるのだろうか?
本当に神の作ったゲームをプレイしたことがあるのだろうだろうか?
本当に神の描いた絵を見たことがあるのだろうか?
ただやたら何にでも『神』と付けて、楽しんでいるだけなのではないのだろうか?
いや、『神』と付けている自分にただ酔っているだけなのかもしれない。