ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 天色の蝴蝶 ( No.5 )
- 日時: 2011/03/17 17:08
- 名前: 出がけのコーヒー (ID: BZFXj35Y)
【1】 〜 天本 蝶也 side 〜
東京私立天明館高等学校。都内ではエリート校とまで呼ばれているほど、賢い人間ばかりがいる学校だ。
白い外壁に5階建ての豪壮な校舎の屋上、俺はここが大好きだ。
周りには大きな建物もないから、風通しも良いのである。景色も絶景だ。
校舎の横を流れる川の音を聞き、青い空を見上げながら、屋上の床に大の字で寝転がる。
これ以上の幸せ、俺には考えられない。
そして、数秒後にやってくる睡魔の攻撃。俺が目を閉じようとしたその時だった。
「あっ!もう、屋上はダメって言ってるじゃん!!」
校舎に繋がるドアから、腕に生徒会の腕章をつけた女子生徒がやってきた。
こいつは、俺の唯一の幼馴染である菊地悠。俺と同じで生徒会の役員だ。
学年トップの成績、空手は黒帯、そして、モデル並みの容姿。
暗黒色のポニーテールで、身長は俺と同じ175センチ。顔は凛とした清楚雰囲気を漂わせている。
「んだよ………うっせぇ……」
「ここは生徒立ち入り禁止!!生徒会が守ってないでどうするの!?」
「お前も入ってんじゃんか。」
「あんたを注意するために入ってんの!!これから予算会議あるんだから、絶対に来なさいよ!!」
悠は俺に厳しい。幼馴染が原因なのか、それ以外なのか、とにかく俺の心配をよくする。
悠は鼻息を荒くしながら、そのまま戻って行った。
俺も行くか。遅れて行けば、また悠の説教が来る。
立ち上がり、ストレッチしながら校舎へ繋がるドアへと向かう。
「へぇ〜♪かっこいいね♪」
「あ?」
後ろを振り向くと、落下防止用の金網の上に女子生徒が座っていた。しかし、制服が天明館高校のではない。
なんだ……こいつ……どうやってここまで来たんだ?
俺は危ない物を見る眼差しで、部外者を睨みつける。
天明館高校の制服とは違う制服を着た女子生徒は、金網から降りると蝶也に近づいてきた。
「ふ〜ん……能力は何?炎扱う系?水?それとも…雷とか♪」
女子生徒は満面の笑みで蝶也の顔を見る。
「誰だお前?部外者なら、すぐに言いつけるぞ。」
「あらら…なら、阻止しないとね。」
女子生徒が右手を空高く上げると、右手から大量の水が溢れだした。
バシャァァァァァァァァ
水は屋上の床を段々と濡らしていく。
俺は目の前にいる非常識なことをしている女子生徒を見ても、特に驚くことはなかった。
だって、俺も“同類”だから。
「私の名前は月谷恋奈。ちょっと理由ありで、あなたを試して来いって言われたから……」
恋奈はショートウエーブヘアーを靡かせながら、蝶也の目を見てニコッと微笑む。
「私の能力は水(ハイドロ)。あなたは何かな?」
恋奈は両手の平に、野球ボールサイズの水の球を創り上げた。透き通った透明の球がプカプカと浮いている。
ったく……面倒だな……
背中に力を入れ、俺の背中から4本の蝶の翅が現れる。
クリア色の翅は煌びやかな鱗紛を撒き散らしながら、風に煽られて靡く。
恋奈は蝶也の背中にある翅を見て、目を丸くして驚いている。
「……飛ぶ気?‘超能力’じゃなくて“蝶能力”?」
「俺には分からないダジャレだな。飛ぶ能力じゃない。」
タン! タン! ダン!!
蝶也はその場でリズミカルに3回ジャンプすると、恋奈の前から煙の様に姿を消した。
「え?」
「遅いな。」
気付いた時には、恋奈の後ろに蝶也が立っていた。
「………瞬間移動?」
「違う。高速移動だ。」
蝶也は足に力を入れ、時速100キロの速さで恋奈に突進する。
しかし、恋奈もそこまで弱くはない。
目の前にやってきた蝶也を避け、両手の平の水の球を次々と飛ばす。
「水の球何か当たって痛くないだろ。」
蝶也は飛んできた水の球を避ける。避けられた水の球は、床に当たった瞬間、
バシュン!! シュゥゥゥゥゥゥ……────
普通の水が、屋上の床を発煙しながら溶かしている。
蝶也はキッと睨みつけた。恋奈は下を出して、右手で軽く自身の頭を小突く。
「ごめんね♪本当の能力は水(ハイドロ)じゃなくて酸(アシッド)。硫酸並みの威力あるから。」
恋奈は言い終えた瞬間、今まで見せたことのない不気味な笑みを浮かべた。
「悠に説教される前に、さっさと終わらせるか。」
