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Re: if[接] ( No.3 )
日時: 2011/03/19 10:44
名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: QiHeJRe.)

story.01 —出会いの朝と一羽の雀

「——や……。灯夜!! 早く起きろっての!! お前、新学期早々遅刻する気か」

なんとも言えない夢から覚めて、真っ先に目に入ったのは友人の姿だった。
しかも男。
普通、此処は幼馴染の可愛い女の子が起こしてくれるところじゃないだろうか?
なんて馬鹿らしいことを考えながら、灯夜は起き上がった。
「なんで汐が俺の部屋にいんだよ……」
「お前が言ったんだろ!? 明日はさすがに遅刻出来ないから起こしに来てくれって」
確かそんなことを言ったような気がしないこともない。
そう思いながら視線を時計に向ければ、針は信じられない時刻を示していた。
「え、八時半って……後数分で始業式始まるじゃねぇか!! なんで早く起こしてくれなかった!?」
「何度も起こしたわ!! いいから早く着替えて準備!! 本当に遅刻するぞ」
灯夜は布団を跳ね除け、ギネスに載れるんじゃないかと思う程のスピードで着替え始めた。
使用時間、わずか十五秒。

   *

「間に合ってよかったな」
「あぁ。おかげで俺は腹ペコだけどな」
無事、遅刻せずに済んだ二人は新しいクラスが表示された掲示板を見つめていた。
一組、二組と順々に貼られていく紙の中に汐は自分の名前を見つけた。
「あった!! 俺、五組。灯夜は?」
灯夜はゆっくりと顔を汐に向け、いかにも嫌そうに「五組」と呟いた。
「そんなあからさまに嫌そうな顔すんなよー。傷つくだろ?」
「お前の鋼の心はこんなんじゃ傷つかねぇよ。幼稚園、小学校、中学、高校……お前とクラス別になったことねぇなんて……おかしいだろ!?」
そのことに関しては、汐も考えていた。
「ホント不思議だよな。ここまで一緒だと、運命感じちゃう?」
「気味悪いこと言ってんな馬鹿!! そういうのは、可愛い女の子に言ってやれ」
どこにでもあるそんな会話を交わしながら、二人は教室へと足を進めた。

「二年五組、って此処か……」
教室のドアを開けて中に入れば、見知った顔が幾つかあった。
「よぉ……って灯夜に汐、お前等また同じクラスかよ!? 怖っ気持ち悪っ!!」
初っ端から失礼なことを言っているのは、内海玲次。
高校一年生の頃、同じクラスになり仲良くなった人物の一人だ。
「玲次、お前ホンット失礼な奴だな……」
灯夜の溜息と同時に教室のドアが開いた。
どうやら担任の教師のようだ。
「席に着けー。オリエンテーション始めるぞ」
まだ二十前半と思われる、若い男性教師だった。
汐が「先生、彼女はいるんですかー?」とお決まりの質問をすれば、
「ばーか。そういう質問は自分に彼女が出来てからしろや」と若者らしい軽い返事が返ってきた。
このクラスなかなか楽しそうだと、灯夜は小さく笑みを零した。

「っ!!」
そんな時、背中に突き刺さるような視線を感じた。
振り返れば、一番後ろの窓際に座る一人の女子生徒と目が合った。
長い黒髪に、少し鋭くて睫の長い漆黒の瞳。
その容姿は世に言う“美少女”というものだった。
あの突き刺さるような視線の正体は彼女なのか……。
灯夜は目を逸らさずにいたが、彼女はしばらくして窓の外へ視線を向けた。
「俺の……気のせい、か?」
特に痒くもない頭を掻いて、灯夜は自己紹介している生徒に視線を戻した。

「やっと、見つけた……」

黒髪少女の零した小さな呟きを聞いたのは、
窓辺の木にいた、一羽の雀だけ。




出 会 い の 朝 と 一 羽 の 雀
(今思えば、この朝が全ての始まりだったのかもしれない)