ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: —月光の中のclairvoyance— ( No.3 )
日時: 2011/03/21 21:48
名前: 陽風 (ID: vVNipMyd)

第一話 「日常と絶望」

*01

——クラスで目立たない子とは、私みたいな子だろうか?
 朝も昼休みも読書をして友達はひとりもいない。いつも隅で読書。みんなはそれを最初から知っているように自分の友達とくだらない話を始める。
 一か月前に私が転校してきても、興味があるのは最初だけ。つまらない奴だと見たら空気のようにあしらわれる。
 まぁ、そのほうが私的には気楽なのだが。
 その理由は、私が人と接するのが嫌いだからだ。

「あー、リップ〜!」
「なにやってんの〜香奈!」
 私の机の下にリップが転がって、止まった。 
 どうやらリップの取り合いをしていた女子が、何を間違ったのか私の方に飛ばしてしまったようだ。
「杠さん、取ってくれる?」
 私は無言で机の下のリップをとった。
「……はい」
「ありがとう。杠さん」
 明るい声につい反応して、私は“香奈”の目を見てしまった。
 その時聞こえてしまった。明るい声に反して気味悪がる声が。
『この転校生、メッチャ暗いなー。あんま近寄りたくないかも』
(………ッ!)
 また聞いてしまった。いや、聞こえた。
(注意してたのに。やっぱ下見ないとだめだ)
 さっきの声にショックを抱きながら、もう一回本に目線を戻す。
——そう。私は心の声が聞ける。
 私が聞こうとしてなくても聞こうとしてても関係なく、相手と目を合わせてしまうと聞こえてしまう。
 友達とケンカして仲直りしようと謝っても「気にしてないから」の言葉に反して、相手から聞こえるのは怒っている心の声で。
 友達と遊ぶ約束の時間に遅れて謝っても「大丈夫だよ」の言葉に反して、相手から聞こえるのは不満な心の声で。
 私は心の声をきくたび、他の人のことを信じられなくなってしまった。
 だから私は人と接するのが嫌いだ。
 信じたらまた裏切られるような気がして———

(もう、誰も信じられない)

 繰り返したくない、“あの苦しみ”を———。


               ☆

「杠さん、ちょっと付き合ってくれる?」
「……は?」
 目の前にいるのはクラスの中でもハデなグループのリーダー、倉本絢。いつもバッサバッサのつけまつげをつけて、濃いメイクが特徴。自分でかわいいと思ってるかわからないが、はっきりいってかわいいとは私は思わない。
「なんでですか?」
「聞きたいことがあってさー。少しくらい付き合ってくれてもいいでしょ?」
 そうやってガシッと腕を掴まれた。
(痛ッ……)
 倉本絢の顔からはありえないほどの力の強さ。本当は柔道とかしてるんじゃないか?
(誰か……)
 私は他の人の顔を見たが、目をあわしてくる人もいない。みんな下を向いてこの場を過ごそうとしている。
(やっぱ、駄目か…)
 それはそうかもしれない。私には友達もいないし、みんなとよくしゃべったこともないのだから。余計なことに関わりたくない——そんな顔をみんなはしている。
「早くッ!」
 私は倉本絢とその取り巻きに腕を掴まれ、教室から連れて行かれた。
さっき読んでいた本を残して——。

               ☆

「ねぇ、あんたさ。はっきりいって暗いよね。自覚してる?」
 倉本絢のドスが聞いた声が響いた。
 ここは渡り廊下——。人があんまり来ない一階の渡り廊下。よく三年の男子が調子に乗った一年や二年の男子をリンチに使う場所らしい。
「……だからなに?」
「“だからなに?”だってさ〜」
 倉本絢の取り巻きが笑った。
「だったらさ、なんでしゃべろうとしないの? そういうツンとしたトコ、ムカつくんだよね。しゃべる時も下向くし。そんなにあたしたちの顔汚い?」
(なんにもわかってない……)
 私の苦しみも全部。
 だから人って嫌いだ。
 自分のことしか考えていない自己中なヤツ。
 人ってそんなヤツばっかだ。
「…い」
「は?」
「うざいっつってんの!!」
 それが精いっぱいの抵抗だった。目も合わさない。絢の心の声をきいてしまうと自分に歯止めが効かなくなりそうだから。
「な…」
 絢は私が抵抗すると思っていなかったのか、口をパクパクして言葉に迷っていた。
「ねぇ、絢。やっちゃおうよ! コイツしゃべらしたらうるさいし」
「…そうだね。おさえて!!」
(ッ!?)
 取り巻きに手を掴まれ、壁に押し付けられた。そして絢が殴る体制に入った。
「心の準備しとけよ」
(殴られる!?)
 ブンッという摩擦音がした。バシッと殴られた…気がした。
(いた……痛くない?)
 目を開けた途端、そこには———絢の拳があった。
(!?)
「どういう…こと?」
 渡り廊下の時計が秒針もとまっている。さっきは窓から風の音がかすかにしたのになんにも聞こえない。廊下を下りる音も渡り廊下にも聞こえてくるはずのうるさい男子の声も何もかも聞こえない。
「おかしい…」
 全てがおかしい。私が心の声を聞こえるのと同じくらいおかしいはずだ。
(誰か……)
 周りを見渡しても誰も動かない。
(嘘でしょ!?)
 私はその場にへたり込んだ。
(もう、嫌だ——)
 そう思った瞬間。
ドォォォォォォォォォォォン———
 砂埃と大きな音が渡り廊下に響いた。私は耳をふさぐ。
(なに…?)
 砂埃が散る中、大きな影が見えた。それは、なんともいえない漆黒の色で——。
 私の心の中には不安と絶望が心の中で入り混じっていた。
 
    
           続く