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Re: The grave of princess_姫ノ墓_ ( No.1 )
日時: 2011/03/24 00:42
名前: あおと。 ◆7Mz777RO6k (ID: 38xu/37K)

**prologue


崩れた墓石、折れた墓標。
日付のまわった時間の墓地に、人などはいるはずもなく、暗闇に息が詰まる。

とある墓地の一角で、少女は考える。

人は、二回死ぬ。
一回は、魂が肉体から離れた時。
もう一回は、誰の心からもその存在が消えた時。

ここもまた、そんな「二回死んだ」者たちのある場所なのだろう。

少女は近くの墓石に、小さな小瓶をおき、適当に花を挿した。
小さな石だから、きっと子供の墓だろう。

——コツ

「?」

少女は、聞こえるはずのない音が聞こえた気がして振り向いた。
後ろには、墓石しかない。

「……気のせいか」
少女は前に向き直り、墓地の出口に向かって歩き出した。

——コツ、コツ

いや、違う

——コツ、コツ、コツ

足音は、ついてきていた。
少女はゆっくりと歩みを止めた。そして、前を向いたまま答えた。

「——誰なの?」

遠くで、墓石ががらりと崩れた。
足音は、答えた。

「さあ」

その声は、鈴のように澄んでいて、そして鐘のように、少女の内臓を振動させた。

「私を、連れていくつもり?」
「そう思うの?」

足音は、くすくすと笑っていた。
足音は続けた。

「私がだれか、あなたが知りたいと望むなら」

足音は、ふふ、と笑った。

「いずれ、知ることになる」

それ以上は、何も言わなかった。
少女は、振り返ることをせず、墓地を後にした。