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- Re: 天使の右手〜Angelus=dextram〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/03/30 18:32
- 名前: EEE (ID: BZFXj35Y)
【Episode1-2 天使の右手、閃光の左手】
─────4月15日
2人の生徒が消えて1週間が経った。
学校には保護者の会や文部科学省、警察に教育委員会と大勢の人間が押し寄せてきた。
しかし、そんなことも1週間経てば勝手に静まる。
大事件や大災害でも同じだ。時が経てば過去の思い出となり、思い出は重なり、古い思い出は消滅する。
人間は、単純なんだ。
「……ぃ…お〜い、蒼空。聞いてるか、ずっと外ばかり見てっけど。」
「あ、すいません。聞いてます。」
校舎3階のフロア奥にある生徒会室。
雲1つない空を眺めていた黒谷蒼空<くろたに そら>は、生徒会長席に座っていた会長に一礼した。
空学の第40期生徒会長である志波竜太郎<しば りゅうたろう>は、席を立って蒼空に歩み寄る。
「なんだ?最近、暗い顔が多いけど悩み事でもあるのか?」
「い、いえ………その、会長や先輩達が今月一杯で止めるのが寂しいな〜って……」
「嘘はいいよ。まっ、言いたくないならいいけどさ!」
志波竜太郎。
爽やかな笑顔にスッキリとした短髪が似合う、後輩思いの生徒会長である。
「優しさ」と「真面目」で大きな支持を受けて、生徒会長に就任した。
蒼空も志波のことは尊敬していた。しっかり者で、失敗した所を見たことがない。
そんな優しい生徒会長も、優しい先輩たちも春には卒業する。
今日は、第40期生徒会最期のミーティングと言うわけだ。だが、集まっているのは蒼空と志波だけ。
「蒼空、お前に話しておきたいことがあってな…他のみんなは、後1時間後に来る。」
「…?話したいこと?」
蒼空は首を傾げ、窓から外を眺めている志波の背中を見た。
「お前、右手に刺青入れてるらしいな。」
「…ないですよ、そんな物騒な。てか、僕生徒会で………」
「見せろ。」
振り向いた志波の表情は、先程の優しさなど微塵も感じることはなかった。
表情は不気味なほど無表情で、目だけがキラリと光り、コツコツと足音を鳴らして蒼空に近づく。
「実はな、お前のことは1週間前の4月8日に見ていた。俺も“タキオン”の住人だから。」
志波はそう言うと、生徒会役員のデスクに腰掛けて、蒼空の右腕を横眼で見つめる。
蒼空は志波の視線を感じていたが、特に動じることなく、ただ一点を見つめていた。
「おまえだろ?1年の不良秋元と鈴木、殺してどこかに隠したんだろ?」
志波はニヤリと笑い、蒼空の肩に手をポンと置く。
「残念だが、お前は警察に捕まるべきだ。素直に自首しろ。」
「サヴァンは法で裁けない。」
蒼空は一言呟き、席を立って生徒会室のドア鍵を内側から閉めた。
志波も立ち上がり、相手がサヴァンと知っているのに怖がらず、退がることなく蒼空を見る。
「そんなの分かってるけど…じゃあ、サヴァンは人殺ししてもいいのか?」
「…フフッ。志波先輩、貴方はやっぱり面白い人です。そこらのゴミと違って、視点が正義ですね。」
「お前がサヴァンなのかは置いて、俺はお前が人を殺したことが許せないんだ。」
「いいですね〜ぇ……貴方とは違う出会い方をしたかったですよ。」
蒼空は生徒会長席の方に視線を向けた。志波は不審に思い、後ろを振り向く。
すると、生徒会長席の上に見慣れた女子生徒が立っていた。
「山本……優衣か………どうして…………」
「彼女もサヴァンです。‘閃光の左手’を持つ僕の仲間ですよ。」
蒼空は右腕の袖を肘まで捲り上げた。そこには、秋元を殺害した時と同様の天使の絵が描かれていた。
天使は悲しげな表情を見せており、黒目のない白目が、志波をずっと見つめている様であった。
「俺も殺す気か?」
「…いえ、貴方は生かしておきたい。でも、それは無理になった。」
「─────死んでください。」
蒼空は秋元を殺した時と同様、何の振りもなく右ストレートを志波の腹部めがけて放つ。
しかし、志波は間一髪のところで避け、デスクの上を転がって再び床に立った。
「さすが、18歳の運動神経は面倒ですね。」
「お前はその能力を何のために使っている!?何が目的だ!?」
「らしくない質問ですね。簡単です、世界の再建ですよ。この腐りきった世界をサヴァンで再建する。」
蒼空は生徒会長席の上に立っている山本優衣(やまもと ゆい)と目を合わせた。
黒髪のショートウエーブヘアーを靡かせながら、優衣は志波に向かって走りながら合掌する。
「山本もサヴァンか………お前ら、一体何の力を持っている……」
「天使の右手と。」
「閃光の左手。」
「そう…説明しておきましょう。」
優衣は合掌した瞬間に志波の目の前から消え、その瞬間に蒼空がデスクをジャンプ台にして飛び上がる。
「北極にでも行って来てください。シロクマと寒さ、自然の恐怖を感じるがいい。」
蒼空は志波の横に着地した。志波は意味が分からず、横に着地した蒼空を見つめる。
「じゃあ、さようなら。」
志波の目の前に消えていた優衣が現れ、優衣は志波の顔面を左手で捕まえた。
その直後、志波は2人の目の前から姿を消した。
鈴木が消えたとき同様、それは風船が割れた瞬間の様に一瞬の出来事だった。
「どこに飛ばした?」
「ん〜っと、太平洋のど真ん中♪特に鮫が多い観光スポットみたいな♪」
「……やり過ぎだよ。」
蒼空は笑いながら言うと、ドアの鍵を開けて優衣と共に生徒会室を後にした。