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Re: 天使の右手〜Angelus=dextram〜4話UP ( No.11 )
日時: 2011/04/01 15:14
名前: EEE (ID: BZFXj35Y)

【Episode1-4 哀れすぎるエゴイスト】

優衣は左手を拳に変え、机の陰から飛び出した。
が、そんな単純すぎる攻撃は蒼空に見切られていた。

「サヴァンともあろう者が、そんな攻撃しかできないなんてな!!!」

蒼空は机を1つ飛び越え、軽快な身のこなしで回し蹴りを優衣の顔面に喰らわした。
「きゃっ!!」
優衣は机、壁、床、化学薬品の並んだ棚の順にぶつかりながらも、どうにか体勢を戻した。
「君みたいな利口な人が裏切るとは、俺は残念すぎて殺したいよ。」
「蒼空……考え直すべきよ………世界再建なんて…で…できない……よ。」
優衣は吐血しながらも、必死の思いで蒼空に訴えた。しかし、蒼空は鼻で笑うだけ。
蒼空は机の上に飛び乗り、息を荒げて頭や口から血を流す優衣を見下ろす。


「我々はなぜ生まれた?サヴァン、ハーミット……まぁ、ロジッカーも含めて、我々は神に選ばれた。」



「喰らえ!!!」



蒼空が喋り始めた瞬間、机の陰から奏太が飛び出し、空瓶が投げられた。
「ちっ!」
舌打ちをしながらも意図も簡単に瓶を避ける。瓶は床にパリンと言う音を鳴らして割れた。

が、それが蒼空の狙いだった。

瓶が割れた瞬間、密室の理科室に鼻を壊すほどの悪臭が漂い始めた。
「なっ!!この匂いは……アンモニア……たかが人間が味なまねを………」
蒼空は目つきを変えて奏太を睨む───が、先程の机の陰に、奏太の姿はなかった。
蒼空が何かを感じて後ろを振り向くと、先程まで吐血していた優衣さえいなかった。
「逃げたか………ちょこまかとゴキブリみたいに………」



          「終わりよ。」



蒼空が暴言を吐いた直後だった。
閃光の左手を持つ優衣が目の前に現れ、蒼空の肩を掴み、後ろには硫酸の瓶を持った奏太も現れた。
「俺も殺すのか?会長やクズどもみたいに。」
「黙って、私は正義のために今から生まれ変わる。」
「正義?………ハハハッ、今更偽善者振るのか?お前は甘いんだ!!!」
蒼空は肩に乗っていた優衣の左手の左手首を持ち、右手を拳に変えた。
「お前なんざ、左手封じれば人間同様だ。くたばれ。」
蒼空は不気味に微笑み、優衣の腹部めがけて右ストレートを咬まそうとした次の瞬間だった。

「わぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!」

後ろにいた奏太は瓶のふたを開け、蒼空に向かって投げ飛ばした。
蒼空が振り向いた瞬間には、硫酸は視界全体を覆うほど範囲が広かった。
更に、右手は拳に変え、左手は優衣を掴んでいるため動けない。
「逃げて!!」
奏太の叫び声で、優衣は蒼空の手を振り払って机の陰に飛び込む。



               ──────バシャァァァァァァァァ



蒼空は硫酸を避けることが出来ず、顔面から直接喰らい、悲鳴にならない声をあげて床に転げ落ちた。





「ッ!!!!」




こんなに、呆気なく終わるなんて、優衣は思ってもいなかった。
「蒼空……」



「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!!顔が!!!顔がぁぁぁぁぁ!!!!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



両手で顔を押さえながら、枯れている声で叫ぶ。
どうにか体勢を戻そうとしているが、硫酸は左足首にも当たり、制服を溶かして皮膚に当たっていた。
「優衣ぃぃぃ、久遠ぉぉ………久遠ぉぉぉぉ!!!!!!!」
蒼空は痛みに耐えて右手を拳に変え、奏太めがけて走り始めた。
「しまった!!久遠君!!逃げて!!!!」
「え?」


叫んだときには遅かった。






「死ね………久遠………ぞうだ…」





硫酸を喉に喰らい、枯れた声で奏太の耳元で呟いた。
強烈な右ストレートは確かに奏太の腹部に、めり込むほどの威力で炸裂した。





       だが、全ては次の瞬間に逆転した──────





『シツボウシタヨ、クロタニ…ソラ……』





      「え!?」





蒼空の頭に響く謎の女性の声。と思った直後、蒼空の右手に今まで感じたことのない痛みが走る。
「うっぐ………次がら次に……なん…だ………あっ?」
蒼空は自分の右手を見た瞬間に言葉を失った。





   ━右手にあった天使の刺繍が消えていた━




「なんだ………能力が消えだ……!?ごれば…なんだ!?いっだいなんだ!?」



蒼空は自分の右手を見ながら、硫酸で溶けた皮膚を引き攣らせて膝から落ちた。
左の眼球は硫酸で使い物にならず、残っていた右の眼球から一滴の涙を流した。
「優衣……そいづをごろぜ…………」
「嫌よ。あなたの命令は聞かない。あなたはただのエゴイスト、幼稚な夢はここまでよ。」

「だのむ……だ……だず…げで………のうりょぐ……もないんだ…………どごにいっだ…」

蒼空は右目で、目の前に立つ奏太を見た。
そういえば、奏太は蒼空の攻撃を喰らったのに死ぬどころか平然としている。
「あ、あの……これなんですか?」
奏太は右肘まで袖を捲りながら、右肩から右手にかけてある‘とんでもない物’を2人に見せた。
「どうじで……お…おまえ……がもっでる…………」





─────奏太の右手には







          笑みを浮かべた天使の刺繍が浮かびあがっていた_______