ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕と戸口さんともうひとつ ( No.16 )
日時: 2011/06/19 20:01
名前: 揶揄菟唖 (ID: RjvLVXA1)


僕と戸口さんとゼンマイの鼓動


『我輩は、猫である』

この言葉から始まる有名な小説を僕は読んだことがない。
それが人間にとって、おもしろいのかどうか、判らない。

それも当然だ。
『我輩は猫』なのだから。


今日は、暑い。晴れている。風がない。
一日の価値なんて、それぐらいだ。
面白みがない、一日。

日陰に身を隠すように丸まれば、もう後は今日が終わるのを待つだけだ。

・・・あぁ、そういえばもうひとつあった。
一日の、大事なイベント。

はやくこないかなぁ・・・僕、寝ちゃうよ。
ただでさえ、猫は天気がいいと無性に寝たくなるのに、他にやることがないとなるともう寝るしかないじゃないか。

顔を伏せていても眼はぎょろつかせ、耳も立てておく。

そうすれば、すぐ、来たのがわかるから。

「————っ!」

あ、きた。

声がかすかに聞こえたから、日陰から出てきてあげた。
じゃないと、きっとわからないからね。

「あ!いた!」

僕の元に走ってくるのは、僕の待っていた、大好きな人、戸口さん。

「ただいま!」

おかえり。

心の中で呟いてそっと戸口さんの足に寄り添う。

戸口さんは僕が体をこすりつけて制服が汚れるかもしれないけど、怒らない。
そんなところも、好きだ。

「今日はね〜」

今日も学校であったことを話してくれる。
僕は何もいえないけれど、それでも戸口さんは続ける。

こんな毎日が、もう何年も続いていた。

僕はずっと戸口さんを見てきた。
赤ん坊だった時から、ずっと。

「あ、そうだ」

喋っていた戸口さんが僕のほうに顔を寄せる。

「最近ね、よく野良猫が殺されちゃってるんだって」

少し、悲しそうな色を瞳に浮かべて、戸口さんは僕の鼻を指でつつく。

「だから、キミも気をつけてね。・・・キミが死んじゃったら、淋しいよ」

そっか。そう思ってくれるんだ。
ありがとう。

「・・・そろそろ帰るね。また明日」

ばいばい。

腰を浮かせて歩き出す戸口さんに尻尾を振りながら挨拶をした。

戸口さんが見えなくなったなら、僕ももう出かけなくちゃ。

ゼンマイを巻きに。


満月だった。
僕は、また一匹、仲間を、殺した。

何故だ。

とよく聞かれる。

何故、殺す。

と。

僕は自信満々に答えた。

戸口さんとずっと一緒にいたいから。

僕のような野良猫は、平均的に三年しか生きられない。

ずっと、僕は戸口さんを見てきた。
赤ん坊だったときから、ずっと。
戸口さんは今、高校生だ。

僕は、もう寿命をとっくに過ぎている。

なら、どうして?
どうして、まだ、僕は生きている?

それは、ゼンマイを巻いているから。
仲間を殺して、その命の分、命のゼンマイを巻いている。

ありえない話だけど、
残念ながら、僕はまだ、
戸口さんを見ていたいから。
戸口さんが、死ぬまで、ずっと。


「ただいま!」

戸口さんの声がする。

今日も晴れている。暑くて、風がない。

「昨日、また野良猫が殺されちゃったんだって・・・」

それは、淋しい話だね。
一体、そんな酷いことをするのは、
誰なんだろうねぇ?

「・・・キミも、仲間がいなくなっちゃって、淋しい?」

嗚呼、幸せだなぁ。


〜end〜


六話目です。
はぁ・・・まぁ・・・前回よりは、マシになったんじゃないかな。
『僕』が猫という話ですね。
またなんか非現実的な話になっちゃったけど、いいよね、うん。
じゃあまたいつか会いましょう!
付き合ってくれてどうもです!
七話目がいつかかれるか不明だぜ!イェイ!