ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 私と清田くんとあとひとつ【再更新かも】 ( No.37 )
- 日時: 2012/01/03 17:41
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: hj9a4sJB)
私と清田くんと夜の奇行
あれ、と思い握っていた物を落としてしまった。
フローリングの床にペットボトルが落ちて中身が散乱する。
ベコっと変な音がした。
きっとペットボトルが凹んだんだろう。
どこにいったんだろう。
確かにここにいたのに。
そう、さっきまでは。
待っててって言ったのに。
どうして、私の言うことを聞いてくれないんだろう。
どうして、どうして。
私のものになってくれないの。
私はこんなに愛しているのに。
私が身体についた血を落としてあげるために水を持ってこようとちょっと離れた時だ。
逃げてしまったのかな。
今日はいつもより優しくしてあげたつもりだったのに。
それに、あれだけ傷だらけなら動けないんじゃないかって思ったのに。
私が間違いだったのか。
私の元を離れてしまうなんて、嫌だ。
ずっと私たちは一緒なんだ。
ずっとずっとずっと、一緒。
足元のペットボトルが吹っ飛ぶのも気にせずに玄関へと走る。
まだ、近くにいるはずだから。
絶対、私の元に返してあげるからね。
安心してね。
玄関に鍵はかけない。
その時間も惜しい。
私が大切なのは一番大切なのは、おにいちゃんだけだから。
おにいちゃんしか要らない。
私の世界にはおにいちゃんだけでいいんだ。
他なんて、要らない。
マンションの階段を駆け下りようとして、足を踏み外して転げ落ちたけどどうでもいい。
右足がズクズク痛む。
おにいちゃん、おにいちゃん。
私の頭の中はいつだっておにいちゃんだけなんだ。
今だって、昔だって、これからも。
だけど、おにいちゃんは違う。
私以外のことも考えるんだって。
考えられない考えられない考えられない考えられない。
私以外のことをおにいちゃんは考えるなんて。
嫌だ。
道路を少し進んだところで人が一人立っていた。
近くに倒れているのも人の様だ。
あ、あぁ、おにいちゃん。
おにいちゃんだ。
良かった。
すぐに近寄りたかった、抱きしめたかった。
でも、様子が変だ。
足元にいる、いや、あるのはアレか、死体だ。
おにいちゃんは必死に身体を揺さぶって起こそうとしているけれどもう無理だ。
アレはもう死んでいる。
殺したの、ねぇ、殺したの、お兄ちゃんが。
どうしてそんな人を殺すの。
私は殺してくれないのに。
おにいちゃんは死体をタクシーのトランクに詰めていく。
隠すつもりなんだね。
自分の罪を認めないんだね。
私は認めたんだよ。
おにいちゃんのことを愛してるってこと、認めたんだよ。
悪い事だって、いけない事だって、分かってたけど、認めたんだよ。
おにいちゃんは殺した人の服に着替えたようだ。
そんなことしたって私に見つかるのは分かってるくせに。
おにいちゃんが乗ったタクシーが走り去るのを確認して狭い路地に足を進める。
しばらく歩くと広い道に出た。
人通りも多い。
心待ちにしているとしばらくしておにいちゃんの乗ったタクシーが走ってきたから右手を上げる。
大人しくおにいちゃんのタクシーが私の前で止まったから乗り込んだ。
おにいちゃんはバックミラーを見ようとしていないから私だと気付いていないようだ。
「+++までお願いします」
「はい」
静かな時間を楽しもうと座席に背を預けるとやはり雑音が気になった。
「ラジオ、消してくださる?」
「はい」
いつもより人間らしいおにいちゃんが嬉しいけれどなんだか嫌だった。
ねぇ、私は何でこんなに苦しい思いをしなくちゃいけないの?
「お仕事は、なにを?」
ようやくおにいちゃんと目が合った。
バックミラーを見つめてくる冷たい瞳に身体がゾクゾクした。
うん、嬉しい。私を見てくれて。
目の下に入った私が目を抉ろうとしてついた傷跡。
あの時の怯えたおにいちゃん、可愛かったなぁ。
「人を、探していたの」
ねぇ、貴方を探していたんだよ。
おにいちゃんを。
私、偉いでしょう?
ほら、転んじゃったの。
でもこんな傷、平気なんだ。全部おにいちゃんのためだから、大丈夫。
「………あなたは、なにを?」
少しだけ意地悪をしたくなって問いかけてもおにいちゃんは眉ひとつ動かさない。
「みたとおり、しがないタクシーの運転手ですよ」
つまんないの。
もっと焦ってよ。
「違うわ。あなたはなにを《していたの》?」
再び問いかけて重要なところを強調してみた。
そうするとやっとおにいちゃんの顔から余裕が消える。
なんか、勝った気分。
「………どういう」
もう少し、遊んでもいいかな。
ちょっと大人ぶって髪を耳にかけた。
たまにはおにいちゃんと遊ぼう。
昔みたいに。
「因みに私はさっき兄を殺されたわ」
丁寧な口調で言ってみる。
ねぇ、昔おにいちゃんにこの口調で話しかけたら似合わないって笑われたんだよ。
覚えてる?結構傷ついたんだよ。
「丁度、三時間ほど前よ」
それは、私がおにいちゃんを見つけたくらいの時間。
ねぇ、おにいちゃんはその頃何していたか、覚えてる?
「現場に大量の血が残されていたのに、なぜか死体だけ見つからないの」
私はその死体がどこに行ったのか、知ってるよ。
見てたんだもの。
「………なぁーんちゃって………」
口元を歪める。
いつも部屋の中でおにいちゃんの身体に傷をつけている私みたいに。
笑う。
だって、楽しいから。
おにいちゃん、そんなに焦って、可愛い。
「おにいちゃんが死ぬわけないよねぇ」
そんなこと、私が許さない。
私以外に私のおにいちゃんが傷つけられるなんて、許すはず無い。
「殺されたのは、タクシーの運転手だよね?」
かわいそうに、なんていってあげない。
だって羨ましい。
おにいちゃんに殺されるなんて。
私だって、私だって。
「あなたが殺したんだよね、」
大好きな、大好きな。
「おにいちゃん」
私がおにいちゃんを呼ぶと顔を真っ青にしてドアを蹴破った。
そんなことして、暴れないでよ。
離れていくおにいちゃんが怖い。
私から離れないで。
「どうして逃げるの?私はこんなに愛しているのに。やっぱり、動けないようにしないとだめなの?」
縛って、部屋にずっと閉じ込めようか。
私以外をみないように、感じないように。
「おにいちゃん」
愛しい人の名前を呼んで車を発進させておにいちゃんの身体のおもいっきりぶつける。
あは、面白いほど吹っ飛んだおにいちゃんの身体。
それに急いで駆け寄った。
真っ赤で、ぐちゃぐちゃで生きているかどうかもわかんないけれど。
まだまだ、大好きで。
「ずぅーーっといっしょだよ、おにいちゃん」
離す気なんて私はないからね。
〜end〜