ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.34 )
日時: 2011/04/08 17:29
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 クラウン達が話し合っている間、その星の反対側で相手も動いていた。 
 人攫い、孤児などを戦わせる、賭けが彼等の収入源。 そして、その賭けは一度に何百億という金が動き、組織に入る。 童子のような平和な収入ではなかった。
 そこで、茶髪の小さな少女が今、自分の出番を待っていた。 巨大なスタジアムに四方を有刺鉄線で囲まれ、それには一瞬触れるだけでも死ぬであろう高圧の電流が流れる中、彼は100人以上の大人の能力者を相手に戦うのだ。 だが、その直前になっても彼女は顔色を変えない。
 そして、クレイクロアと言う童子たちの敵組織にとっても、有能な人材でなおかつ裏切られればその損害は計り知れない戦闘能力を誇っていた。 そして、彼女はまだ15歳の餓鬼……。
 控え室から出てくると、複数の対戦相手が蠢くリングの中に彼女は手ぶらで飛び込んだ。

 「ファファニールが出たぞ!」

 「勝てよ! お前に賭けてるんだからな!」

 それに伴って、観客が一気に沸く。 彼女の戦闘名称はファファニール。 正式な名前ではなく、孤児院がクレイクロアに襲撃された際に生き延びるために大人の能力者だらけのデスマッチに10歳の時から参戦している程の天才だ。 そして更に言えば、彼女はこの世界で能力者とは言われていない、未知の力を扱っている。
 試合開始の合図が鳴る。

 「死ねや!」

 まず、一人目。 この咆哮とともに斧を片手に突っ込んできた考え無しの馬鹿能力者。 彼女の指先が触れるか否かのところで、焼死。
 二人目、その男の陰に隠れていた小男。 能力発動を試みるが、手から発するはずの光線が出ず、代わりに発火し、何故か爆発して爆死。 その爆発に、大部分の能力者が巻き込まれ、スタジアムの中の数は一気に半分以下へと減った。 だが、まだ50人以上居る……。
 三人目からは、全員が警戒して彼女には近づかなくなってしまった。

 「……」

 彼女は無言のまま、適当な相手へ近づくと、その能力者は能力を発動。 相手の攻撃を不発に終わらせるはずのものが、暴発。 手をかざし、発動しようとしたが、手が自然発火し、焼死。 
 それを確認する前に、彼女は更なる獲物を確定し、ゆっくりと歩み寄る。 降参したい所だが、全員が全員、負ければ殺される。 負けイコールここでは死に直結するのだ。 
 そして、その場に残っていた全員はほぼ同時に同じことを思いつく。

 「おい! 能力全開放してコイツを殺すぞ! 多対一でも、この餓鬼を殺せれば俺等の勝ちだ!」

 青年が叫ぶ。 そして、全員が各々の攻撃能力を発動しようとしたその刹那。 能力を発動するや否や、全員が自然発火し、その全てが焼死。
 結局この勝負はファファニール一人の圧倒となった。 そして、いつもどおり控え室に戻ると、檻に戻される。
 生きていられるだけで、今は十分だ。 この力は自分で意識して使うことなど出来ないし、能力の分からないここを仕切る一般人には能力者と錯覚させる程度の能力はある。
 もう少し、もう少し力を蓄えて、この力を扱えれば、ここからは逃げ出せる。 それに、まだ力は全て使い切っていない。 手の内を明かせば、不審に思われる。
 今はまだ、準備期間だ。 ここのボスが居ない時期を見計らって、この場から逃げればいい。 追ってきても、並みの能力者など、どうとでもできる。 早まるな、焦るな、慎重に行動しろ。
 少女は自分に言い聞かせ、檻の中で眠りについた。 

 
 同時刻、童子率いるレジスタンスは、総攻撃を受けていた。 理由は簡単、相手に自分達の居場所を知られたからだ。
 奇襲は内部から。 恐らく、裏切り者が居る! が、目星もついているし、想定内のことだ。 瞬間移送系統の能力者にも対処マニュアルを渡してあるし、覚えさせた。 それに、混乱を避けるためにサタンの下の悪魔をこのビルの中に数名放っている。 それに、レジスタンスの能力者は雇われ兵などに殺されるほど柔ではない一枚岩。 
 死者を一人も出すことなく、確実にこのビルから全員を一気に避難させればいい。 

 「落ち着け! ただの敵襲だ、慌てるな、戦闘訓練を思い出せ!」

 童子がビル内での放送とリンクさせた携帯電話に向かって咆える。 その一言の効果は絶大だ、全員が全員、対処しようと動く。
 だが、そう咆える前に既に全員がそう動いている。 主不在でも確実にここが意思を持って動く。 それだけで、強力な軍隊にも勝る行動能力を生む。
 全ては、計算通り。

 「クラウン、シェリーは俺と来い。 クロアとベルフェゴールは敵の迎撃だ、早くしろ!」

 会議室に居る全員に呼びかける。
 そして、扉を出るとすぐに童子は横の部屋へとクラウンとシェリーを先導し、扉を閉じるとポケットからここに来る間に使ったダイアルのついた鍵を取り出し、

 「お前等はこれで逃げろ、番号はかえずにそのまま戸にさして回すだけでいい。 早く行け、恐らく内部に裏切り者が居る。 確実に、俺の仲間だけの場所だ、そこへ行って事情を説明しろ」

 それだけを言い残し、童子はその部屋を後にした。 クラウンとシェリーは、鍵を鍵穴に差し込み、回した。
 一方で、童子は確信を持ってある人物の前を遮った。

 「童子サン、どうしたんですか? 敵は二個下のフロアまで来てますよ、大方避難は終わって童子サンとベルフェゴールサンとボクだけですよ、逃げましょう!」

 童子の目の前に居るのは、さっきまで会議室に居たクロア。 彼以外に、裏切るのはありえない。 
 演技をしている人間特有の、“不自然”で“不可解”な行動。 そして、性格の矛盾。 更に言えば、まだこのフロアに居ること事態可笑しな事なのだ。
 クロアは、自らを電撃と化して電流と同じ超スピードで移動が可能。 なのに、未だにここに居る時点で行動が遅すぎる上に、ベルフェゴールが魔界へ帰されている。 恐らく、クロアがベルフェゴールを人間界で殺し魔界へと帰したのだ。

 「見え透いた嘘や芝居はしなくていい。 真実を述べろ、クレイクロアボス、クロア。 偶然かと思ったが、やはり必然だったらしいな。 それに、能力名を組織名に使うとは恐れを知らない大した奴だ。 まさか組織の名称にボスの能力名が使われているとは誰も思うまい」

 その言葉に、クロアは面倒くさそうに頭をボリボリと掻き、着ていた白いスーツを着なおすと、骸骨の仮面をつけた。 
 眼帯を外し、その下にあった魔方陣の描かれえた眼球を露にする。

 「なんだ、バレちゃってたのか。 もう少し騙せてるかと思ったのに」

 「フン、俺は新人から疑う節があってな。 それに、あの行動、性格その時発した言葉、表情と全くあっていないだろう。 矛盾を抱えた人間ほど、本来の人格を隠している傾向に……いや、本来の人格を無理に隠している」

 「その通りだよ、黒薙童子。 やはりキミは頭がいい。 うちの部下に欲しいくらいだ。 じゃあ、改めて自己紹介しよう。 ボクはクロア。 最上位機密国家能力兵だよ。 まだ、僕の存在は国の上のほうの人間しか知らない」