ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.38 )
日時: 2011/04/09 13:33
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 「一つ、殺す前に聞いておくとしよう。 クロア、貴様は一体何だ? 人間にも、能力者にも見えない。 それに、悪魔憑きと言うわけでもない国家の馬鹿どもは一体何を考えている?」

 「さあ、国家のクズの事情なんか知らないな。 ボクだってついこの間世界を見て回った所だからさ。 ああ、一個面白いことは知ってるよ。 ボクとクラウンは、双子さ。 フラスコの中で作られた、男女一対で誕生するホムンクルス。 それがボクたちだ」

 童子の問いに、クロアは高笑いしながら答える。 明らかに、童子を小物と見ている。 だが、小物がこの組織を仕切れるわけが無いし、小物だったら自ら動くと言うような馬鹿げたマネはしない。
 つまり、童子は強い。

 「ホムンクルスだ? 対で作られる奴は6年しか生きられないと聞いたが?」

 「そんな法則、どうとでもできる。 ボクは君と同じ、全知全能。 キミは知識の民であるノリッジ。 ボクはそのノリッジとは違う、全てを思い出すことで知るホムンクルス。 素晴らしい出会いだとはボクも思うけど、殺しあうために出会うのは嬉しくなかったかな」

 「遺言はそれだけか?」

 一瞬。 童子がクロアの視界から消えたと思うと、後ろから短剣をクロアの喉元に添え、両腕を固めていた。 だが、クロアは顔色一つ変えることすらせず、

 「まだボクの話は途中だよ。 純血のノリッジとの高度な会話は楽しいからね。 で、話の——」

 クロアの話を無視し、童子はその場で首を切り落とす。 だが、その切り落とされた首は不敵な笑みを浮かべ、地面へとぶつかるドスッという音とともに、——消えた?
 いや、元に戻っている! 
 この男、能力者か!

 「ほう、そういえば、貴様は肉体を電気変換するのだったな」

 「いやいや、それ間違い。 黒い生命エネルギーに変換するんだよ。 その形質を変えれば電気にもなるし、炎にもなる。 電機は小さくても威力は大きいし、消費も少ないから多用しているけど、やろうと思えば肉体全てを炎と化す事も出来る」

 その言葉を裏付けるかのように、クロアの体は一気に炎上した。 黒い炎を身にまとったその火達磨は、相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

 「ほらね、何でも出来る。 このエネルギーは使い方によっては、生命を作り上げることも可能だ」

 クロアは自らが纏っていた炎を引っ込めると、上着の袖をちぎり、童子へと投げ飛ばした。 するとそれは、空中で白い鳩に変わり、童子目掛けて突っ込む! だが、童子は易々とそれを受け止め、握りつぶした。 眼だけが、サタンの物に変わっている。 大方、憑依10%といった所だろうか。

 「そうか、笑わせる。 いくら何を作ろうが、俺がその全てを壊してやるよ。 いい奴に見えて、俺は悪い奴だからな。 クロア、貴様とは対極の生物だ」

 「そうみたいだね、ボクとしても最近手に入れたバラーの魔眼も試してみたいし、丁度いい実験相手かな」

 なめやがって。 バラーは確かに強力な魔力を持つが、それは使う者の魔力に左右される。 そして、魔力は量と質によってその変換効率も変わる。 
 能力者の魔力変換効率はレベルⅤで50%が良い所だ。 サタンの目の魔力の変換効率は98%とそれを圧倒する。 同時地震の魔力は純度が粗いが、内容量は圧倒的。
 クロアは何を企んでいる?

 「さて、終わらせるよ」

 「戦いは始まったばかりだぞ?」

 凄まじい速さで自らを雷電と化して突っ込んでくるクロアを、童子は真っ向から受け止める! そして、短剣に凍てつくような冷たい青白い炎を灯し、その顔面を切りつける! だが、クロアは不定形生物のようにその肉体を再び雷電へと変換し、その場から霧散した。
 どこへ行った? 霧散できるとは予想外だ!
 クロアを探す童子のすぐ背後。 クロアは再び実体化し、金属製のピアノ線らしき銀色の糸で童子の背を切りつける!
 当たれば、焼ききれる。 さあ、如何する!

 「マジか、見ないなんて……」

 童子はその手の短剣で、クロアのピアノ線をいとも容易く切り裂いてみせた。 そして、そのまま体を後ろへ反らせ、手榴弾にも似たガラス瓶をクロア目掛けて投げつける!

 「テメーは何スパイダーだこの野郎」

 「スパイダー? ボクは蜘蛛じゃないよ、意図を張り巡らせる策士って意味での糸なら合ってない事もないけどさ!」

 それをクロアは素手で弾き飛ばすと童子の首をピアノ線で切り落とす! だが、切断された首を童子は飛んでいく前に押さえ、接着しながらクロアを空いていた左手で殴り飛ばした。 
 風船を殴ったかのように、クロアの体は軽々と吹き飛び、廊下の金属で出来た壁に激突。 吐血するとともに、ニッと笑う。
 その可笑しな笑に、童子は何があったのか一瞬で理解した。
 腕に……爆弾!

 「まずい!」

 取り外そうとするとほぼ同時。 そのブレスレットにも似た爆弾は轟音とともに爆発。 ビルの半分を吹き飛ばし、童子の肉体を細切れにした。 だが、童子は死なない。

 「クソが……」

 このビルは100階建て。 今居るフロアは60階。 上40階全てが、今の爆発で吹き飛ぶってどういうことだよ!
 童子は飛散した自らの肉片と衣服を魔術によって結界に閉じ込め、瞬時に修復するとまだ目に現れたクロアを再び治りきっていない右腕で殴り飛ばす! だが、クロアはまた肉体を電撃変換し、避けると懐にもぐり込むと童子の顎を殴り挙げる! だが、普通の物理攻撃ではダメージが無い。 
 なのに……

 「何故ダメージが……」

 「それはこれの所為じゃないのかな?」

 クロアは自らの両手につけた銀のメリケンサックをチラつかせ、童子に動揺を与える。
 確かに、童子はアンデットで銀の剣や杭が心臓に突き刺さるなどと言う攻撃で死ぬ。 だが、銀のメリケンは予想外。
 ピアノ線は油断させるための布石か……。

 「マジか、まさかのメリケン……。 確かに殺す術がある分お前の方が有利か。 逃げた方がよさそうだ」

 「逃がさないよ」

 その言葉とほぼ同時。 無数の打撃が叩き込まれる! 
 まずい、こいつ、電撃化して確実にダメージを稼ぐつもりだ! 銀のメリケンで殴られるのは、ただの人間がメリケンで殴られるのと同じようにダメージを受ける! 
 考えたな……この野郎!

 「ほら、元気がなくなってきたじゃないか。 嘘吐きには正直者は勝てないんだよ」

 「ほざけ、餓鬼が」

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.39 )
日時: 2011/04/09 14:03
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 「餓鬼が。 俺を本気で殺せるつもりだったか? めでたいな」

 同時は口にたまった血を吐き出すと、空中から黒い大検を取り出した。 ギュンギュンを音を立てて回し、クロアへ向けて構える。

 「こいつはよぉ、俺の仲間の形見だ。 まあ、俺が殺したんだけどな。 全く、口の悪い女だった。 自分外にそうなのに俺のこと罵ってまで生かそうとしやがって。 まったく、今思えば腹が立つ。 さあ、来いよ。 俺がそう簡単に殺せるタマだと思うな」

 クロアを挑発し、童子はクロアの攻撃を狙う。

 「昔話は聞くつもりは無いよ。 国家のため。 ボクの計画にはキミが邪魔なんだ。 何が何でも今すぐに死んでもらうよ」

 クロアはメリケンを構え、童子の攻撃を掻い潜るとそこから無数の打撃を叩き込む! だが、実体が……無い?
 いや、この男! 電撃化した!?

 「お前なぁ、俺なめるなよ。 人類始まって以来の天才だぞ? 俺は……人間の特性を色濃く残して、学習して、使って、応用することに長けている。 つまり、同じ攻撃がそう何度も効くと……思うな!」

 童子はクロアが自分の目の前に実体で居ることを確認し、自分の肉体もろともクロアのことを切り付ける! 童子は、死にはしない。
 廃ビルで使った銀の剣、白銀と違って、今使っているのは黒金。 アンデットを殺す能力は無い。

 「まずい!」

 いいや、まだ逃がさねえぞ。 このクソ餓鬼が、なめた真似しやがって!

 「逃がしてもらえるとは……思うなよ!」

 童子は再び、バランスを崩したクロアに手榴弾にも似たガラス瓶をクロアに投げつけると、クロアは今度は弾き飛ばさず、電撃化して避ける!
 
 「掛かったな」

 電撃化したとたん、クロアは瓶に吸い込まれる!

 「何だこれッ!」

 「充電池。 大容量のな。 お前が電気化するんなら、その対所は簡単だ。 特定の電気エネルギーを蓄えるものに閉じ込めれば良い。 最初その考えで瓶を投げたんだが、弾き飛ばしてくれたからな。 今度は避けるには電気化するしかない状況を作らせて貰った」

 瓶の口から吸い込まれるクロアを眺め、童子は吸い込まれたことを確認すると蓋を閉じた。 だが、ここに来ていたのは……クロアだけではない。

 「久しぶりだな、シグマ。 怪我はもういいのか?」

 「お蔭様で、回復しましたよ」

 クロアの部下。 シグマ……!

 「また、俺を殺しに来たのか? 今の俺ならお前の腰にあるその豆鉄砲でも殺せるぞ?」

 「その通りですよ。 ですが、クロア様から指令がありましてね……そのまま伝えさせていただきます。 “黒薙童子君、キミ、僕たちの仲間にならないか? 幹部の席で迎えるし、待遇はそんなに悪くないはずだ。 出来れば、3日以内に答えを返してくれると嬉しいな”とのことだ。 それと、クロア様は返してもらいますよ」

 シグマはその場で能力を発動。 金の砂時計で時間を戻し、クロアが瓶に吸い込まれる前の時間までその場の状況をまき戻した。
 シグマとクロア……二人掛かりは流石にきつい……。

 「分かった、好きにしろ。 クラウン達には手を出すなよ……」

 「さあ、それは如何でしょうか? 迎えも来たようですし、お暇させていただきますよ」

 シグマはクロアとともにビルから飛び降りた。 今頃だが、風が強くて少し寒い。
 そして、何だか騒がしい。

 「ゲッ、マジかよ」

 地上を見てびっくり。 警察が押し寄せてきている、どうやって逃げるかな……。

 「流石に、年寄りにはキツ過ぎる運動だな」

 童子は空間に解けるようにその場から消えた。

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.40 )
日時: 2011/04/10 10:47
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 「なあ、全我ちゃん。 童子君はどないしてると思う?」

 金髪碧眼のイケ面が、椅子にふんぞり返ったまま横で資料をまとめている小さな女の子に話しかける。 全我と呼ばれた女の子は、その男の方を向き、

 「さあ、サッパリ理解不能ですわ。 私達とは次元の違うことを考えてますからね、童子君は。 彼は本物の天才ですわよ、私が胸ペッタンコで悔しい思いしていたら、それ以上のペチャパイを送ってきてくれたのでございますから。 純君も見習ってほしいくらいですわ」

 純と呼ばれた男は、苦笑いし、

 「僕が何を見習うのさ。 僕は僕、彼は彼。 クラウンという不思議な女の子をここへ送ってきた時点で、何か大変なことに巻き込まれたのかもね。 東条君を助ける時も、巨大組織を大神さんを相手取って潰しちゃったくらいだし。 まあ確かに、大神さん死んじゃったけど……」

 思い出を語り始めた。 だが、それが面白くないらしく、

 「純君は客観的過ぎるのですわ。 私は未だに思い出しただけで嫌になります!」

 「ああ、ごめんね。 僕も昔はこうじゃなかった——なんて良く言われるよ。 でも、あの後童子君の姉の紅葉さんどこ行っちゃったのかな〜って、時々思うんだよね」

 純が椅子にふんぞり返って座ったまま全我の仕事を傍観しながら意見を述べる。 
 一つ断っておくが純君、全我ちゃんはキミの奴隷でも下僕でもないぞ。 仕事仲間の間関係で何故そんなご主人様と奴隷のような関係が成立しているのかは知らないが、もう少し労わってあげたまえ。

 「純君手が空いてるなら私を手伝ってくださいませんことで?」

 「だが断る」

 「ボク手伝うよ」

 見かねたクラウンが仕事に参戦。 だが、その仕事の量は膨大だった。 見るだけでも既に相当量の書類が整理され、エベレストを築き上げているのだが、残りの書類は片付け終わったものをエベレストというのならまだロッキー山脈三つ分くらい残っている。

 「じゃあ、クラウンさんはこっちの書類を整理してくださいません? この書類は特に分類が複雑ではないので始めての方でも整理しやすいものですよ」

 そう言われ、渡された書類を見てびっくり。 何だ、この量は……。 軽く1000枚以上の資料が積み重なっている。
 見た限り、相当な量であることは明白だった。 そんな中、不意に部屋の扉が開く。 入ってきたのは筋肉率の大男。

 「やッ! 東条君、任務終わった?」

 純が挨拶をする。

 「ああ、終わった。 国家支部潰してそこから賞金首根こそぎ捕まえてきてやった。 公務員が賞金首たぁ、理解に苦しむな」

 「仕方ないよ、国のお偉い連中の脳みそは僕たち天才にとって硬すぎるんやし、まあ、楽しくいこうや」

 「そうだな、ハハハ……」

 東条が苦笑いを純に返し、クラウンの方を向くと

 「全我、また無茶やらせてるのか。 一般人がその量の資料を整理するのは骨だぞ、俺に貸せ、俺がやる」

 クラウンの持っていた資料の山を、東条は半ば強引に奪い取り、空に投げ上げる。

 「あ! ちょっと!」

 飛ばした資料をクラウンが集めようとするが、純が肩に手を当て、それを制止した。 
 その間に、資料は見る見るうちに振り分けられ、その間に東条は詰まらなさそうにタバコを加え、火を灯す。

 「まあ、全我のスピードについていけるのは童子か俺だけだ。 無茶すんな。 童子が迎えに来るまでの間だが、ゆっくりしていけよ」

 東条はその大柄な体には似合わず、クラウンとシェリーに気さくに話しかけてきた。 身長の割に、面倒見がいいのかもしれない。
 東条は適当な壁のフックに分厚い皮ジャケットを掛けると、適当な椅子を選んでドカッと勢い良く腰掛けた。
 座られて椅子が音を立てて軋む……。

 「東条君。 キミが座った椅子さ、今月で3つくらい壊れてんやけど、もう少し普通に座ることは出来へん?」

 「無理」

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.41 )
日時: 2011/04/13 13:59
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 しばらくして、再び今度は別の訪問者が、この部屋へと訪れた。 長い金髪の、双子かと思うような顔の似通った二人組み……。
 この部屋からは、クラウンとシェリーは出ていない。 故に、今どこに居るのかなどは一切分からないが、二人組みの片方からは少し、潮の匂いがする。 海が近いのだろうか?

 「白銀純、話がある。 黒薙童子の件でね」

 床を今にも擦りそうな長い金髪の先を束ねなおし、瞳の青い方が、椅子に踏ん反り反って座る純に話かける。 なにやら、嫌な雰囲気だ。

 「なして? 童子君は生きとるんやろ? だったらなんで悪魔様が出てくるん?」

 「緊急の要件ですよ、私も少し今回の人間の行動には手を焼きそうですから。 童子君の作ったプログラム人格、レインを借りても戦場を鎮めるのは大仕事。 昔の戦闘機を使っていた時代が懐かしく感じる進歩です。 私一人では、人間の魔力を制御できなくなってきた……」 

 彼女は、その言葉とともに吐血する! 一体、何があったのだろうか……。 だが、すぐに調子を取り戻し、

 「相当きついですよ、今の時代は」

 と、報告をくくった。 一体、どんな能力を使ったのだろうか? 能力者レベルは分からなかったし、Sai能力か? いや、Sai能力でも使えばすぐに分かる。
 だが、この女から分かることはクラウンの眼に映った“悪魔”と言う文字だけ。 悪魔は地上で単体行動が出来ないから悪魔憑きとして人間に取り憑いている訳だし、この女が単体で悪魔であるということが既に矛盾している。
 
 「時代の話よりさ、君は一体何なの?」

 クラウンが会話に割ってはいる。 だが、特に気にかけた様子も無く、

 「私は、悪魔ですよ」

 と、そのままの答えを述べる。 だが、そのままの答えでは納得が出来ない。 何故、悪魔が単体で地上に存在できるのか、それが、分からない。 大魔王サタンですら、黒薙童子に憑いてやっと地上を歩くことが出来ている。 つまり、

 「悪魔ってさ、人間に取り憑かないと地上では行動できないんでしょ? だったらなんで、君は単体で行動できてるの?」

 その問いとほぼ同時。 部屋の扉が開かれ、黒薙童子が室内へと乱入した。 慌てた様子で、

 「計画変更だ。 第二拠点へと移り、クラウン、お前の中にある封印を取り壊す」


Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.42 )
日時: 2011/04/17 20:57
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 慌てた様子で、童子はクラウンの手を引くとその部屋の扉に鍵を差し込むと、ダイアルを回して何処かへつなげ、巣穴から這い出した蛇の如くクラウンを扉の向こうへと引きずり込んだ。

 「ちょっと……」

 「話は後だ! 今は早く俺と来い!」

 そのついで、シェリーも扉をくぐるとその扉は自分から閉じた。 

 扉の先は何やら動じた値とさっきまで居たビルにそっくりだが、

 「ここは、敵地のど真ん中だ。 お前の能力のかせを外すのに何やら必要な道具があるらしくてな、探してくる。 あ、そうそう、数名だがここにも偵察で入っている旅団のメンバーが居る。 ここで待ち合わせる予定だったからな。 もう少ししたらここへ来て、匿ってくれるだろ」

 それだけを言い残すと、童子はその場から溶ける様にして消えた。 仲間と言っても、誰が仲間かなど分からない。 警戒しておくべきか……。
 そんな考えで数分間、その通路には誰一人として人間どころか生き物が来る気配すらない。 そして、童子を探しに行こうかと考えていた矢先だった。

 「あ、居た居た! クラウン! シェリー!」

 あ、クロアだ。 仲間ってクロアのことか。

 「ああ、クロアじゃん。 仲間って君のこと?」

 「そうだよ。 匿うから、早くこっちへ来て」

 クラウンとシェリーの手を取ると、クロアは廊下を駆け抜け、人通りの一切無い廊下に足音を響かせる。 だが、誰一人として反応してこない所を見ると、冗談抜きでここの廊下どころか、このビル自体に誰も居ない。
 そして、クロアは不意に黒い扉の前で立ち止まり、

 「ここだ、クラウン、シェリーも入った入った!」

クロアは二人を扉の向こうへと押し込むと、自らもその部屋へと踏み込んだ。 その瞬間!
 周囲の足場と言う足場が崩れ、床が崩れきったと思えばクラウンとシェリーはその場から息に下へ落ち続ける!

 「クロア! まさか!」

 「そうさ、そのまさかだ!」

 ここでクロアが能力を発動し、クラウンとシェリーを捕らえると言うことは、クロアは敵! この能力の概要は良く分からないが、足止めとか、そう言ういうそれだ!

 「ボクの『メリーさんの夢見せ羊』に捕らえられなかった奴なんて今まで居ないんだ。 しばらく、君たちはボクの夢の中で眠っていてもらうよ。 君たちが起きるには、『メリーさんの夢喰い獏』でボクが君たちを起こしてあげた時さ。 君たちはそれまでずっと、生きて眠り続けるんだ。 例え、世界の終わりが来たとしてもね!」

 その落ちて行くだけの何も無い世界に、クロアの高笑いが響く。