ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.5 )
日時: 2011/04/08 11:21
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 薄暗い裏路地で、今、一人の人間の人生が終わりかかっていた。 いや、正確には終わる直前で一時的に止まっていると言った方がいいだろう。 ボクが触れるだけで相手は即死する。
 今の心情を述べると、非常に不愉快だ。 目の前で、自分の手で、人間がもがき苦しみ冷え切っていく様を見るのは好きじゃない。 それに、そういう趣味じゃない。 

 「止めろ……なんでもする、命だけは……」

 ああ、相手が命乞いを始めると、もう吐き気がする。 どうせ、ボクを探して、殺そうとして、返り討ちにあったんだ。 隙を見てまだボクを殺そうとしている。

 「……嫌だ、隙を見せたらボクを殺そうとする。 今までの奴等は全員そうだった」

 「俺は何も……」

 「じゃあ、袖口に隠してるつもりだろうケド、その手のナイフは? ボクの隙を見て殺すつもり……なんだろう?」

 ボクは、命を狙ってきた殺し屋の頭に手を添えると、相手の表情は恐怖一色に染まり、

 「別にいいんだよ、ボクを殺そうとしてきたことくらい。 罪ではないし何よりボクが世界にとって邪魔な存在だと言うこともよく知ってる。 そうだよね? 僕はレベルゼロ。 君はただの能力者。 今は能力者の天下だけど、それを打ち消す能力を持った能力者ではない能力者だ。 君達にとっては十分な脅威……、殺そうとする理由も、必然的に解る」


 一瞬のうちに、命乞いをしていた相手の体が内側からはじけ飛ぶ! 体内で爆弾を爆発させたわけではない。 相手の能力をそのまま返しただけ。 そう、通常の能力者はこれを脅威と見る。
 相手の能力を正確無比にトレースし、その逆の能力をも扱う能力者はバケモノと言うバケモノだ。 

 「悪いけど、神様と同じくらいボクは……非情なんだよ」

 そうだよ、神様は非情だ。 たった今、家族のいる男が死んだと言うのに、生き返らせもしない。 たった今、雇われた仕事をこなそうとして殺された男を救うことも無い。 暗い路地で、人間一人が死んでいようが、気にも留めず、救うこともしない。
 それに、ボクをレベルゼロと言う人間とは思えないバケモノとしてこの世へ送り出した。 とても、いい奴だとは思えないし、公平な奴だとも思えない。

 「この意味、君にならわかってもらえるかな? ……無理だよね、普通の能力者だし」

 そうだよ、解るわけがない。 “異常”の気持ちなんて……。
 男を葬ったその黒い人影は、紅い瞳で周囲を見渡したかと思うとその場から姿を消した。 そう、……このバケモノのような力を持った能力者の溢れかえる世の中に存在する、バケモノ中のバケモノとでも言うべきバケモノ。
 これが、レベルゼロ能力者。