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Re: 能力者レベルゼロ  Liars' feasts ( No.56 )
日時: 2011/04/29 18:18
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 「殺されそうで怖いって? ボクが君を殺すって? 失敬な、君の相手はオウィスちゃんさ。 安心しなよ、彼女は命を奪うまでの攻撃はしないさ。 ね?」

 クロアはなれなれしくオウィスに話しかけると、オウィスは何やら嫌なものでも見るかのような目でクロアを睨み付け、

 「ああ、私は殺しはしない。 覚めなければ、夢は夢とは……言えないだろう?」

 一瞬の出来事だった。 クロアの後ろに居たオウィスの体がゆっくりと空を舞い、童子の額に中指を当てるとそれだけで童子はその場に倒れこんだ。
 ゆっくりとうごいていた。 しかし、早い!
 一体なんだったんだ? 確かに動きは見切れた。 なのになぜ……。

 「不思議そうな顔をしているね、君達。 タネを教えてあげようか? なんてことは無い、君の見ている夢」

 その言葉とともに、クラウンの方へオウィスが舞う。 やはりゆっくりと、見切れる速さ。 にもかかわらず、体が動かない?
 いや、動いている。 だが何故だ? 相手に流れる時間より、クラウンに流れている時間の方が格段に遅い!

 「気づいた? 夢の中では、脳の中では認識の速度や時間は常に変化する。 良くあるだろう? 短い夢を見ただけなのに、朝になっているなんてことくらいさ。 それの極端な状態……今の君は意識を保ったまま夢を見ている」

 オウィスはクラウンの前に立ちはだかり、

 「明晰夢ってやつ。 知らないだろうケドね」

 オウィスはそのままゆっくりとクラウンの額に中指を当てる。

 「最高の悪夢ナイトメアを見せてあげるよ」

 オウィスの言葉とほぼ同時。 クロアの背後に人影が出現し、その人影はそこからオウィスを吹き飛ばす!
 誰だ? そんな顔で、オウィスは攻撃の来た方向を向く。
 次々と、一体何事だ?

 「あれ、ファファニールじゃん。 どうじたの? 闘技場の檻の中に居るはずだけど?」

 「知らないな、私にあの程度の檻が破けないとでも思ったか?」

 クラウンの瞳は、彼女の能力者としてのレベルを映す。 その数値を見て、クラウンはただ、臨戦態勢に入り、逃げること以外、頭からその全ての思考が逃げ出した。
 ファファニールと呼ばれた女の能力者指数。 レベルL。
 有り得ない! いや、有り得てはいけない! レベルはⅤまで! それが常識で、現実だった。
 だが、目の前に居るこの女のレベルがLと言う事は、現実。 しかも、欺くのとは別の能力を扱った。 つまり、嘘はない!
 
 「レベル……50? 嘘だよね……」

 ただ、そんな言葉しか、彼女の口からは出てこない。
 冷汗をかいているなんてレベルではない。 避け様のない絶対的な死が、目の前に立ちはだかっている。 そんな感覚だ。

 「いいや、本当だ」

 ファファニールのその言葉が、クロアをも威圧する!
 召還されていた二人の悪魔は、そのプレッシャーによってクロアの魔力が乱れ、地獄へと帰された。 
 この女、一体……。

 「どういうこと……?」

 「どうもこうも、私はレベルLだ。 能力者のレベルがⅤまでだと思っていたのか? それは勘違いだ。 人間が到達することが今までに可能なレベルがⅤと言うだけ。 探せばレベルⅥ程度なら見つかるだろう。 さらに言えば、レベルとはただ単なるその生物が自らのうちに留めて置ける魔力の総量と純度によって上下する。 そして私は、恐らく人間ではない。 その本質は……」

 ファファニールは背から漆黒の翼を迫出し瞳を紅に変化させ、口からどす黒い炎を吐き出した。 その姿は、半獣半人。
 人間とはとても呼べそうに無い。

 「ドラゴンだ。 まだ、幼体でしか……無いけどね」

 その言葉だけを残し、ファファニールは天井を突き破ると、何処かへ飛んで行ってしまった。 一体、何だったんだ?
 
 「あーあ、逃げられちゃった。 将来有望だったのにな」

 クロアはそう呟くと、

 「今回は逃がしてあげるよ、クラウン。 彼女が居ないと、君は完成させられないからね。 黒薙童子と、シェリーを連れて帰ってくれ。 ボクはこれからここの復旧と警察誤魔化すので一週間くらい多忙だからさ。 まあ、その期間は安心してていいよ」