ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 能力者レベルゼロ Liars' feasts ( No.8 )
- 日時: 2011/04/01 22:22
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
「クラウン、もっと現実味のある言い訳できないの? 何これ、自然発火して消滅って……まあ確かに、能力だったらありえるけどさ……ねえ。 滅多にそんなわけのわからない能力を持った能力者とは遭遇しないでしょう」
金の長髪を束ねた少女が、黒い長髪を無造作に掻き乱した少女に青い瞳を向けて言い放つ。
もちろん、二人とも面識があり、同じ家に住み、同じ仕事をする仕事仲間であり、兄弟であり、姉妹であって家族である。 恋人同士、と言うのも嘘にはならない。
だが、その際に生じる矛盾は素通りに出来ない話である。 兄弟で姉妹で、恋人同士。
すなわち、どちらか片方、あるいは両方が男でも女でもあるわけだ。 まあ、今の能力者による殺しが後を絶たないような時代にそのくらいの混乱目的での情報操作はあって当たり前だった。
「無茶を言わないでよ、ボクも結構頑張ったんだから。男相手にこのか弱い華奢な女の子が立ち向かうなんてざらにできる事じゃないよ」
クラウンと呼ばれた彼女は、紅い瞳を文句をたれた彼女に向けて言い放つ。
紅茶が出来上がったのを見て、ミルクを入れて自分の席に戻るついでに、金髪の彼女の机の上にあった書類を適当に一枚拾い上げると、
「しかし……よく、シェリーはこんなつまらない物を眺めてられるよね。ボクはこんな数字の羅列を見ていたら気が狂いそうだ」
シェリーはそれを聞くと、呆れたように微笑み、
「私の数字化能力は貴方が持ち帰った戦利品ですよ。確か、瞬間暗号解読能力を持った能力者を殺したとき……でしたね」
「シェリー、ボクがそんなこと覚えてると思う? ボクの記憶力の悪さは知ってるでしょ?」
クラウンは自分の不得意な分野の指摘に詰まらなさそうに顔をしかめ、それに比例し、シェリーは楽しそうに微笑むと、
「クラウン、貴方は好きな事の記憶力だったら天才的でしょ? それに、私は貴方のそういうところが好きだよ。自己中で我ままでいい加減なところ」
「それ、軽く馬鹿にしてない? まあいいや、次のターゲットは?」
クラウンは再びため息をつくと、手に持っていたマグカップのミルクティーを飲み干してシェリーのパソコン画面を覗き込んだ。
無数の数字羅列のみでクラウンにはさっぱりワケが分からない。 恐らく、クラウンでなくともワケが分からないだろう。
「次のターゲットは、アクレイの 凶悪な連続殺人犯……って言うのはどう? 多分殺し方からして男だし、捕らえるのは楽じゃない?」
シェリーが悪戯っぽく笑うのに対し、クラウンの期待に満ちた顔は残念そうな表情へと変わった。
「ボクがその犯人を殺して反能力を手に入れて戻ってきても、シェリーのスティール能力でその能力を吸い取る時にボクはまた能力を失うよ。 特定の能力じゃないといまいち使い勝手が悪くてさ」
そう言い放ち、クラウンは女の子には似合わない黒いロングコートを羽織ると、表へ出てタクシーを呼び止めると乗り込んだ。
アクレイは、北へ数百キロ。
今日中に戻れるといいな、シェリーの手料理は美味しいから食べたいし……。 そんな事を考えながら、クラウンはタクシーに乗り込んだ。
これが、嘘との最初の接触となることも知らずに。 目の前の任務をこなそうと、バケモノはバケモノとして、バケモノを狩に空港へと向かう。