ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 化物狂詩曲-バケモノラプソディ- ( No.19 )
- 日時: 2011/04/23 10:28
- 名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)
- 参照: 25〜27まで修学旅行ですあ
最初に言っておくが、俺は非日常なんてまっぴらごめんだし、どころか慣れてなんてない。ていうか今までにないよ。非日常とか。
あったとしても、姉さんが突然外へ出たいというなんの非日常の欠片もない日常だろう。
だから——。
だから、自分がこんな奴に出逢って普段のように冷静に振る舞っていられるのは、少しだけ奇跡かと思ったわけで。
「散れ」
……………。
「聞こえているのかそこの下郎。散れ」
「誰が下郎だこんにゃろう!!この死人!!ゾンビ!ゾンビ!気持ち悪い!!血だらけで目玉とか飛び出てる奴のほうが散れや!」
冷静じゃなくなった。
「おいイベリア? こんなガキ殺せ、て。あんたは悪魔かよ」
「何? もしかしてぇ、可哀相だったりするの? この子殺しちゃうのが? うわやっさしぃー!!」
わざとウザい口調でゾンビに問うイベリアとか呼ばれた少女。
「違う!! 断じてそんなことは思ってない」
そう言って——出てきた。
イベリアの影から。
「え……? 普通の人間じゃね?」
そいつを見て、俺は思う。
金髪を横にながしていて、今のこの時期には少し不似合いかもしれないロングコートに、薄紫色の瞳。まるでどっかのイケメン特集雑誌に出て来そうな顔立ちで。俺のことを睨んでいた。
「お前のどこが…ゾンビだよ。もしかしてアレか、此処はドラマの撮影現場か? だとしたら俺はこっから去らなきゃなぁ」
確かにおかしいとは思っていた。
塀の上に座って“ネクロマンサーだ”とか言い張るらへんから、すごく怪しいとは思ってたんだよなぁ。うーん、じゃあせめて握手させてもらってから帰ろう。誰かは知らないけど、まぁモデルと握手くらい減るモンじゃないだろ。
そんなふうに思って、1歩近付く俺。
「そうなんだよ」
と。
ネクロマンサー役の女が言う。
「あたしらドラマの撮影中でねー! んもう、急に部外者が飛び込んでくるからびっくりしたじゃない!!」
あっはっは、と声をあげて笑う。
その姿がまた可愛らしい。
「じゃあ、握手してあげるから帰んなさいね——って、んなわけないでしょうがぁっ!!」
そういきなり叫んで、5メートルはあるであろう塀から、飛び降りたそのイベリアさん。
え? 何? ドラマ撮影じゃない? ってことは………、え!?
「あたし達は、本物の化物よ!
ったく、変なギャグに付き合わせないで!」
付き合ったのはお前だろ、と。
そんなツッコミを入れる間はなかった。
何故?
んなこと訊かないでもわかるだろうが。
「ぐっ…?」
「面倒だ、さっさと殺させてもらう!!」
今まで出番全く無しだったあのイケメンゾンビさんが、俺の腹を思いっ切り殴りつけてきた。
唐突だったというのと、みぞおちにクリーンヒットしたというので、とっさの防御も使えず仕舞いである。派手にアスファルトの上に転げ、塀の角に頭を打つ。
「————ッ!!!」
痛みが言葉にならず、ただ俺は目を見開いて呼吸を荒げる。
此処で立たなきゃ殺(や)られるのに。なのに、立てない。
不幸中の幸いとでも言うんだろうか、骨は折れておらず、あれほど派手に打ちつけたというのに、頭から血1滴も流れていない。 だが、ホッと胸を撫でおろせるような安心感は当たり前だがない。
元々喧嘩なんてガラじゃなかったから、殴り合いだのボコり合いだの1回もやったことはないし、2度も——いや、1度もやらないつもりだった。
けど。
「このままで終われるかよォっ!!」
全身の力を振り絞って立ち上がり、叫ぶ。しかし。
辺りを見渡しても、奴はいない。それどころか、物音1つ、声1つ聞こえない。影だって見当たらない。
「馬鹿者」「え」
後ろ——!! 間に合わないっ!!
声が聞こえたと思った時には既に遅かったようで。
先程塀に打ちつけた頭を、思い切り、また思い切り空手チョップされた。
「ぐぅっ!!」
「馬鹿じゃないのかあんたは。オレ達は化物だぞ。人間には出来ないことだって出来るさ」
俺の上に馬乗りになって、ゾンビは低い声で言う。否、告ぐ。
それからニヤリと笑って——
「それじゃあ。あばよ、不幸な少年」
奴の左腕が剣に変わって——それが、振り下ろされた。