ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ─異形人形─※作り直しました ( No.1 )
日時: 2011/04/03 22:17
名前: スライム (ID: BZFXj35Y)

【Prologue】


「こんな世の中、どうかしてる。」


誰もが一度は思ったことだ。現に僕もそう思う。
2033年の世界は、明らかに理解不能な方向へと足を進めていた。
“世界政府”という半非現実的な言葉がニュースで報道された時、誰もが自分の耳を疑った。
それは3年前の出来事だった─────つまり2030年の時である。


『米国に拠点をおいた世界政府を結成しました。』


朝のニュースで見慣れた女性アナウンサーが、手元に置いてある原稿を読みながら言った。
女性アナウンサーはとんでもない文章を無表情で黙々と読み始めた。


『約20ヶ国の先進国で結成した世界政府は世界未来条約(WFC)を結びました。
    日本総理大臣の神島竜神は、昨日行われたサミットに出席して国々と意思表明を交わし、
     各国の首相と写真撮影を行うなどの
    喜ばしい一面も見せた模様です。
                  続いては…………』


黒髪をオールバックで整えた強面の日本総理大臣の神島竜神。
神島が各国の首相と笑顔で写真を撮影している映像が流れる。
それは我々、日本国民にしてみれば理解することが不可能な映像であった。
いきなりの“世界政府”の結成と“世界未来条約”を他国と結んだというニュースに驚きを隠せなかった。
この時、僕は心の中で感じていた。これから何か始まるのではないかと______。
そして2ヶ月経った頃に、僕の予想は見事的中した。しかし、それは想像を遥かに超えていた出来事だった。


『我々世界政府は来るべき人類の絶滅に備えて、新たな人類を創りだすことを可能とした。』


神島の口から直接発せられた意味深い言動。
それは恐らく、終わりの始まりというステージの幕をあげる合図だったのだろう。
神島の意味深い言動から数日経ち、日本国内で謎の“招待状”が届き始めたのだ。
差出人は一切書かれていない黒い封筒。中には1枚の便箋が封入されていた。
便箋に書かれた短い文章は、届き主の顔色を変えて言葉を奪った。


─ 招待状 ─
   この度、あなたの知性と人間性が認められて選ばれました。
   厳選されて選ばれたあなたは、永遠の命を手にする資格を得たのです。
   後日、あなたの自宅にお迎いが上がります。
   どうか反抗せずに速やかに連いて行って下さい。
   我々と共に、永遠の未来を過ごしましょう。


この便箋は、僕達を「人間」からランクを成り下げる万物だった。
直に黒服を身に纏った政府の人間が、“選ばれし者”を自宅まで迎いにやってきた。
彼らは僕達に何も言わず、耳当てと目隠しをして車に無理やり乗せた。
そして目的地に着いた瞬間、首元にスタンガンが押し付けられて気絶した。



 ─ 次に目を覚ました時は、すでに「人間」ではなかった ─



手の甲に浮かび上がる痛々しいスリーダイヤの焼き印。これこそが、証だった。
そう。

「人形」の証である。

政府曰くの実験施設に連れて行かれ、我々はある物を奪われた。
それは言うまでもなく、「人形」と呼ばれる理由、つまり“感情”を奪われたのだ。
無表情で何も思わない人間 = 人形ということだ。




最愛の人が死んでも、決して悲しむことはない




誰もが見て笑う有名なお笑い芸人のコントを見ても、笑うことはない




人を愛すことなんか、できるわけがない




そう、奴らは奪ったのだ。人間に一番必要な物を。
だけど僕達は違った。
僕と妹だけは、感情を奪われずに焼き印を押されただけで済んだ。
理由は分からない。しかし、これは僕の心に1つの決心をつけてくれた。

「奴らの手で、この焼き印を消さしてやる。」

この焼き印を付けられた「人形」を見る一般市民の目は、最早、ゴミを見る目同然だった。
僕は奴らを許さない。



最愛の家族である妹を守るために_____



自分の人生を取り戻すために_____



「人形」となった「人類」を元に戻すために_____





僕は戦いの道を進む。逃げはしない、後戻りもしない。












          人形でも足はある。自分の足で、真実へと辿りついてみせる。