ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ─異形人形─※作り直しました ( No.2 )
日時: 2011/04/04 14:01
名前: スライム (ID: BZFXj35Y)

§第1話§


「お兄ちゃん!!お家、見えてきたよ!!!」


ツインテールと制服のスカートをパタパタと揺らしながら、僕の妹である里早は飛び跳ねた。
5週間ぶりに見る家は、外から見ていると閑散としている感じを漂わしていた。
しかし誰が何を言おうと、あの2階建ては神崎家の自宅だった。
中性的で女の子らしい顔つきの優太は、自宅を見た瞬間に思わず笑みがこぼれた。
それもその筈、今から5週間前の出来事に遡る──────


 ━5週間前━

        ピンポーン♪

神崎家に1本のチャイムが鳴り響いた。チャイム音と同時に、優太の父と母は肩をビクリと動かす。
そして2人は顔を見合わせて、父が無言で頷いて立ち上がる。
玄関に向かいドアを開けると、前髪に赤いメッシュを入れた黒服の男性が立っていた。
「先日招待状は届いておりますよね。息子さんと娘さんを引き取りに参りました。」
「………何の話だ、招待状など届いておらんぞ。」
父はあくまで怪しまれない様に無表情且つ同じ声のトーンで喋る。
「そのような芝居は何十回と見てきました。お2人を出さなければ力尽くで引っ張りだしますよ。」
黒服の男性は首を傾げながら父に言った。しかし、父は未だに玄関から動こうとしない。
男性は何度か頷くと、着ていたスーツの中を見せた。見えない様に、腰に拳銃が隠されていた。

「‘死ぬ’か‘息子さんと娘さんを出す’、どっちかお選びください。」


「‘死ぬ’を選ぶに決まってるだろう。」


父は悩む間もなく、男性の冷徹な目をしっかりと見ながら言い放った。
すると、男性はフフッと笑いながらスーツを着直した。
「こんなことしても意味はないですね。失礼しました。」
「……………」
「あなたも政府の役人なら今は従っておくべきです。反抗すれば、奥様にも命の危険が迫りますよ。」
男性の一言で父の眉がピクリと動く。ふと、後ろを振り向くと2階から優太と里早が父を見ていた。
父は2人と目が合うと、優しい笑顔で微笑んだ。
「……分かった。しかし、本当に命の危険はないのか?あの子達に何かあれば………私は……」
「大丈夫です。ご兄妹は本当に運が良いですよ。」
「どういうことだ?」
「いえいえ、こちらの話です。安心してください。1週間で戻ってきますよ。」
男性は笑顔で父に言った。しかし、父はその笑顔が偽物だとすぐに気付いた。


     「君も例の“人形”………とかなのか?」


 「えぇ、御覧の通りです。私は5番目に創られた“人形”です。」


男性は左手の甲に痛々しく押された黒いスリーダイヤの焼き印を父に見せた。
更に、スリーダイヤの真ん中には「5」と小さく焼き印の上に焼き印が押されている。
「それでは、息子さんと娘さんはお預かりします。」


男性は父にそう言って、我が神崎家に足を踏み入れたのだった

  ━━━━━


そうだ。本当は男の言葉通り、1週間後には帰れる筈だった。
それが5週間も延びたのには理由がある。

実験施設で、実験途中の「人形」が1体逃げだしたのだ。

逃げだした「人形」は実験施設の厳重なセキリュティを1人で破壊しながら進み、結局逃げたらしい。
その事故ともいえる出来事は、世間で大きく報道されて施設は一時閉鎖。
無論、僕と里早は巻き添えを喰らい、施設に閉じ込められて4週間もの期間を施設で過ごした。
そしてつい先ほど、僕達は施設から出て来れたのだ。



「お兄ちゃん!!早く早く!!!」



すでに自宅の玄関前にいる里早は、手を大きく振りながら僕に向かって叫んだ。
「え〜っと……確か鍵は………あった!」
ジーンズのポケットにあった自宅の鍵を取り出し、玄関まで小走りで向かう。
「パパとママ、元気かな?私、色々話したいことがあるんだよね〜ぇ。」
里早は笑みを浮かべながら鼻歌を歌っている。
玄関のカギを開けると、里早が元気よく家の中に入って行った。

「ただいまぁぁぁ…………あれ………え………?」

家の中は不気味なほど静まり返っており、家の中に人の気配がなかった。
「ママー、パパー。」
里早は靴を脱ぎすて、キッチン、リビング、風呂場、そして2階へと向かった。
探すまでもなく両親は家にいなかった。
埃まみれの床は歩くたび埃が空に舞い、見慣れたリビングに行けば、畳にカビが生えていた。
「きたな……どうなってる?」
家の中はまるで、誰も住んでいない空き家の様な状態だ。数分後に、里早が2階から戻ってきた。
「めっちゃ埃が舞ってるし………ねぇ、パパとママどこに行ったんだろう。買い物かな?」

「………もう、ここには誰も住んでいないよ。」

里早に言うと、言うまでもなく里早は僕に聞き返した。
「な、なんで………どうして、そんなことを言えるの?」
「この埃の量は尋常じゃない。多分、僕達が施設に連れて行かれてすぐに引っ越したのかも……」
「待ってよ!!私とお兄ちゃん置いて引っ越したの!?おかしいじゃん!!」
里早の言う通りである。そんなことを、あの優しい母さんと父さんがする筈がない。
僕はふと、右手の甲にある黒いスリーダイヤの焼き印を見た。



こんな出来事はまだ始まりでもなかった。



僕達は今から、事態の重大さに気付き始めるのである。