ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ─異形人形─ ( No.4 )
- 日時: 2011/04/05 08:45
- 名前: スライム (ID: BZFXj35Y)
§第2話§
優太と里早が自宅に戻った同日同時刻_______
夕日に照らされた白い外壁の国会議事堂。
閑散とした中央階段に、赤いメッシュを前髪に入れた黒服の男性が立っていた。
更に、ここを国会議事堂と知ってか知らずか、中央階段に座っている茶髪の男性。
服装は黒いスーツで綺麗に着こなしているが、態度は非常識レベルと思われるほどだ。
「ここは国会議事堂だぞ、聖域でそんな態度をするな。」
「へいへ〜い、分かってるって。ピリピリすんじゃねえよ、人形の分際で五月蠅いぜ。」
チャラい喋り方の男性はワックスで固められた茶髪を両手で整えながら立ち上がり、大きく背伸びをした。
「んにしても、ボスは遅くねえか?」
「すまないね。ホテルで省庁の大臣との会食が長引いたよ。」
茶髪の男性が言った瞬間、階段の下に日本国民なら誰もが知っている人物が立っていた。
「神島総理、お疲れ様です。」と赤いメッシュを前髪に入れた男性はお辞儀をしながら言った。
「アスト君、例の兄妹たちは無事に自宅へと戻ったかね?」
「はい。それで、実験施設から逃げ出した人形の件ですが………」
ストライプ模様のダークスーツを着て、オールバック強面の神島竜神はアストと並んで歩き始める。
その後ろから、茶髪の男性が欠伸をしながらついてくる。
「逃げだしたのは実験体444番。名前は不明です。」
アストの口から出た以外な言葉に、神島は足を止めて聞き返す。
「不明?どういうことだ?」
「こいつの経歴資料が役所も我が世界政府の資料にも存在しません。」
神島は顎を触りながら表情を曇らせると、後ろにいた茶髪の男性の方を振り向いた。
「パラバース君、君の固有能力で実験体444番を探せるかね?」
「都内にいるなら探せますよ。ま、東京から出てたら終わりっすよ。」
日本の総理大臣に向かってこの口調、アストはパラバースを睨みつけた。だが、パラバースは無視である。
「任せていいかね?」
「お安いご用だ。んじゃ!」
パラバースは手をヒラヒラと振りながら、中央階段を降りて行った。
アストは舌打ちをすると、再び話の続きを始める。
「逃げた実験体のことはあいつに任せて、実はもう1つ気になることが………」
「まだあるのか。」
神島はなぜか微笑しながら階段を上がり始める。アストは何に対しての微笑か理解できなかった。
中央階段を上がり、赤いカーペットが敷かれた廊下を歩いていく。
「神崎兄妹の血縁にいくつか不自然な点があります。」
「………何だ、不自然な点とは?」
「長女である里早、もとい優太の妹の血液型です。」
その疑問がなぜ疑問なのか、神島は「なぜ不自然なのだ」と聞き返す。
「優太はA型、父親はA型、母親もA型です。しかし、妹の里早だけはO型なんです。」
「父母のご両親にO型がいるのではないかね?」
「いえ…確認しましたが存在しません。神崎家の家系図にO型の者など存在しません。」
「人間は不思議だな。」
神島はそれだけ言うと、廊下の一番奥にある大きな木製の豪壮としたドアの前で足を止めた。
そこは、議事堂内にある総理専用の部屋だった。
「アスト君、そんな問題はどうでもいい。まずは実験体444番を探すのだ。」
「…分かりました。お疲れ様です。」
「うむ。」
アストは深々と一礼すると、振り向いて元来た廊下を戻り始めた。
神島は一時の間、アストの背中を鋭い目で見つめて部屋の中へと入って行った。
* * * * *
「あのお方は何かを隠している………神崎兄妹について知ってるのか……」
アストが一人呟きながら歩いていると、目の前から黒いスーツの上に白い毛のコートを着た男性が歩いてきた。
アストは男性に気が付くと、大きなため息をついて落胆した。
「相変わらず派手なものを着ているな、メディバーグ。」
「今の内にこの世を謳歌しておいた方が良いぜ、真面目君。」
長髪をゴムで整えたポニーテールに白い毛皮のコート、絶対に議事堂では似あわない格好である。
メディバーグはアストの肩をポンと触ると、ニヤリと笑って耳元で何かを囁いた。
「兄妹に俺の部下向かわせた。色々考えるなら、殺した方が丸く収まるんじゃないか?」
アストはメディバーグの言葉に、思わず「貴様!!」と叫んで後ろをふり向いた。
「気楽に行こうぜ〜ぇ、俺ら人形は
何も考えない方が気楽なんだよ。
力と権力を使いまわして、一緒に輝かしい未来でも
想像しようや。」
大笑いしながら、メディバーグは総理の部屋の手前にある委員長室の中へと入って行った。
「結局は自分のためか。それより、兄妹をどうにかせねば……」
兄妹は死なせてはいけない様な気がする。
彼らは、何か大切な物を隠している、いや、持っている。
特に兄の優太は、5週間ほど前に迎えに行った時から違和感を感じていた。
「絶対に死なせない。」