ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: L I N Q ( No.2 )
- 日時: 2011/04/11 00:21
- 名前: ライダー (ID: BZFXj35Y)
庭から聞こえる小鳥の囀り。窓から見える一面の青い海。そして、その海の真ん中にある日本本土。
LINQ HOUSEの5階から見える景色は絶景だ。
“Room Linq-07”と書かれたドアを開けると、そこには1人の青年が外の景色を見ながら立ち尽くしていた。
「綺麗な…水だな………」
窓から見える‘海’を‘水’と解釈した青年は、微笑みながらベットに腰を下ろした。
壁も床も一面白い部屋には、勉強机に椅子とベットだけというシンプルなものだった。
しかし、天井の隅にある監視カメラを見ると部屋の雰囲気がガラリと変わる。
無地の黒色のパーカーに青いジーンズというラフな格好をしたLinq-07のカインは、白色の天井を見上げる。
「カイン、入るよ。」
ドアをノックする音が聞こえ、1人の小柄な少女がカインの部屋に入ってきた。
ショートカットの黒髪の先はカールがかかり歩く度に揺れ、純白のワンピースもリズミカルに揺れている。
「もうすぐ外出可能時間だよ。一緒に外に行かない?」
Linq-08のラヴは、無邪気な笑顔を見せながらカインに向かって問いかけた。
「いいよ、どこ行く?」
「港にいる‘鉄さん’のとこ行こうよ。また面白い配給物が届いてるかもしれないし。」
「分かった。じゃあ、5分後にエントランス前に集合しよう。」
カインが時間を決めると、ラヴは頷いてスキップしながら部屋を出ていった。
カインは窓から見える山のふもとにある港を見る。
港には多くのコンテナが山積みにされたコンテナターミナル、倉庫や灯台が建てられている。
しかし、働いている人間は100人もいない。せいぜい50人前後程の屈強な人間達だけが働いている。
カインは見た目が高校生だが、その正体は7番目に造られたLINQである。
人工的に造られても歳はとるし、人間同様に喜怒哀楽や夢も持っている。
カインの夢は、LINQ HOUSEから見える日本本土に行く事だった。
生涯をLINQ HOUSEで過ごしてきたカインは、使命を果たす前に本土に行きたい思っている。
なぜなら、「世界終焉」を食い止める使命を果たすか20歳(20年間)生きたらLINQは死ぬのだ。
「夜になれば光に溢れ、その輝きは星よりも月よりも綺麗だ。僕はその正体を知りたい。」
カインは日本本土のことは勉強の日本史で少し習っただけで、詳しい事は何も知らない。
ただ、施設の人やマスターから「人間の住む島」としか言い聞かされていない。
しかし、カインは日本史を勉強していく過程で本土に行くことが夢となった。
LINQという政府の造り出した兵器にだって、感情があるのだから夢も見るし持つこともある。
カインが造られたのは16年前。つまり、後4年ほどしか生きることができない。
カインは残った4年間という短い月日の間に、どうしても夢を叶えたいと思っている。
「………港に行けば、船で行けるかもしれない。」
カインは椅子にかけていた黒いダウンを着ると、ラヴとの待ち合わせであるエントランスへ向かった。
* * * * * *
施設の最上階である8階。赤い絨毯が敷かれ、廊下の天井には小さなシャンデリアが吊り下げられている。
『8階 最上階でございます。』
女性のアナウンサーと共にエレベーターのドアが開き、スーツを着こなした男性が出てくる。
オールバックで強面の男性は廊下を歩き、一番奥にあるドアの前で止まった。
“chief room”
男性はドアをノックして返事を待つ。
「どうぞ。」
ドアの向こうから聞こえた声に「失礼します」と答えて、男性は静かにドアを開けた。
壁一面が窓になっており、最上階のだけに景色は最高級である。海を一面見渡せ、本土も綺麗に見える。
窓の前にある豪壮な主任専用のデスクに腰掛けて立っているストライプのスーツを着た男性は微笑んでいる。
「ようこそLINQ HOUSEへ。私はこの施設の主任である赤城志年だ。よろしく。」
黒髪を後ろで束ねて室内であるにも関わらずにサングラスをかけている赤城を見て、男性は表情を一瞬変えた。
赤城はその一瞬の表情の変化を見逃さなかった。
「どうしました?」
「い、いえ……その…どうしてサングラスをお掛けになっているのかと………」
「歳に似合わない光視症という目の病気です。」
赤城は微笑みながら男性に説明した。しかし、その笑みが本物なのかはサングラスのせいで分からない。
「政府のLINQ専門指導員であります工藤優一郎です。今後とも、宜しくお願いします。」
工藤は内ポケットから指名を取り出し赤城に渡す。赤城は指名を受け取り、見もせずにデスクの上に置いた。
「それで、どうして指導員がこんな辺鄙な所に?」
「上層部から連絡を預かっており、私は赤城主任に伝言を伝える様にお願いされました。」
「伝言?」と呟き、赤城はソファーに指さして工藤を座らせた。赤城も続いて座る。
「LINQ達はそろそろ思春期に入り面倒を起こす可能性がある。彼らは自身の能力を悪用しかねない。
もし問題が起こり、世間の生活に支障が出るような状況になれば、あなたを失脚させる。
例の計画を成功させるためにも、なるべくは穏便に事を進めたい。
今後も宜しく頼むよ。とのことです。」
工藤は伝言を伝え、赤城の顔をチラリと見る。
「………御苦労だったね。こんな所までありがとう。泊っていくかい?」
「いえ。夕方ごろに迎いが来るので、今回は遠慮させていただきます。」
工藤は頭を下げながら断る。赤城は「そうかい。」といい笑顔を見せて振り向いた。
「では、失礼します。」
「伝言を頼めるかな?」
工藤が振り向こうとした瞬間、赤城は声のトーンを変えて言う。
工藤は赤城の声の変化に驚いて思わず、体をビクリと動かす。
「なんでしょうか?」
「上層部に、私は遠慮しておくと伝えてくれ。言えば分かる。」
「………?分かりました。」
工藤は一礼して、主任室を後にした。