ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: L I N Q ( No.3 )
日時: 2011/04/12 18:01
名前: ライダー (ID: BZFXj35Y)
参照: http://修正バージョン コメント待ってます

舗装された山中の道をカインとラヴは並んで歩いていた。
心地良い風がラヴの髪と純白のワンピースを靡かせ、カインの鼻にフルーティーな香水が臭う。
「ラヴ、香水してるの?」
「そうだよ。私のマスターが香水は‘女の必須アイテム’って言ってた。配給物の中にあればいいけど……」
ラヴは山のふもとにある港を見ながら言った。港には現在、停泊している船は一隻もない。
船が港に停泊するのは月の初めと終わり、後は政府の役人が視察に来る時ぐらいだ。

「お〜す。カインにラヴ、港に向かってんのか?」

2人が歩いていると、後ろから橙色の派手な短パンに無地の黒いTシャツを着た青年が声をかけてきた。
青年はツンツン髪を金色に染めている。Linq-11のイーズは、今日もハイテンションのようである。
「やぁイーズ。そうだよ、鉄さんの所に向かってるんだ。」

「ん?鉄さん……って、今日の朝方に島から出て行ったらしいぜ。」

「え?」

カインとラヴはイーズの言葉を聞いて足を止めた。そして、2人同時にイーズの方を振り向く。
イーズは平然とした表情で話しを続けた。
「施設員の姉ちゃんから聞いた話だけどよ、なんか政府に呼び出されて戻ってくるかどうかとか。」
「せ、政府に呼び出されたって、鉄さん何かしたの?」
「知らねえ。聞いたけど詳しくは教えてもらえなかった。」
イーズは2人を追い越し、足早に港の方へと向かって行った。
カインとラヴは未だに足が止まっており、ほぼ放心状態である。沈黙が続いたが、カインが沈黙を破った。
「とりあえず港に行こう。鉄さんの家に行こうよ。」
「……うん。」
今にも泣き出しそうなラヴの表情を見て、カインは優しく頭を撫でた。ラヴは顔をあげ、ニッコリと微笑む。
「ありがとう。ごめんね、能力のせいで悲しさが増して……」


ラヴの固有能力は「激情」であり、感情が誰よりも何倍も感じやすい。


それは近くにいる人間、Linqにも影響を及ぼす能力だ。
ラヴは綺麗な白い手で涙を拭き取ると、カインの目を見つめながら再び優しい笑みを浮かべた。
「行こう。」
「うん。」
2人は顔を合わせて微笑むと、港の方へと足を進め始めた。


  *  *  *  *  *  *


豪壮に防波堤の先の方に建っている灯台は、Linq達にとってはとても不思議な物に見えていた。
いや、港にあるコンテナや船、海でさえLinq達にとっては触れたことのない万物である。

港に到着したカインとラヴは、鉄さんが家として使っている灯台に向かった。
いつもの通り鍵の掛かっていないドアを開け、螺旋状の階段をカンカンと音を鳴らして上がっていく。
上がっていくと、“鉄元 茂”と彫られた木製のドアに着いた。カインがノックするが、中から返事はない。
「やっぱり、いないんだ……。」
一瞬だけ不気味なほど静まり返り、ラヴがため息をついて階段に座り込んだ。
カインはもう一度ノックをしたが、やはり返事はない。ふと、ドアノブを回してみる。

ガチャガチャ   ガチャガチャ………──────

鍵はかかっている。カインもため息をつき、目線を下に落とした。
「ん?」
ドアと床の僅かな隙間に、一枚の紙が落ちていた、いや、置かれていた。
カインが紙を拾い上げると、そこには殴り書きの様な汚い字で文章が書かれていた。



    カイン、ラヴ、イーズへ

       俺は恐らく、もう島には戻って来ることはできない。
       理由は時間がないから書けないが、君達には助かってほしい。生きてほしいと願っている。
       近いうちに施設に政府の人間がやってくる。
       夕方頃には、そいつを迎えに港の方に政府専用の船が来る筈だ。
       それに乗り込んで本土へ逃げるんだ。
       3人で逃げろ。ほかのLinqには絶対に言うな。特に、イーズには口を酸っぱくして言っとけ。
       俺は、お前らを信じている。
       俺の部屋に入って1人1つずつ鞄も持って行け。それに必要な物が入っている。
       じゃあな。お前達の幸せを願う。精一杯、生きろ。
       


手紙を読んでも、カインには意味が全く分からなかった。
助かってほしい? 生きてほしい?
鉄の残した手紙を読んでいると、それに気付いたラヴが覗き込んできた。
「何それ!?鉄さんの手紙!?」
ラヴは笑みを浮かべて手紙に書かれた文を目で追いながら読む。
しかし、その笑みは段々と悲しい表情に変わっていき、文を読み終えた時には涙を流し始めた。
「…まるで、遺言書じゃん………」
ラヴは歯を食いしばって涙を堪えるが、涙は次々と溢れ出てくる。
カインは読みなおし、

━俺の部屋に入って1人1つずつ鞄も持って行け。それに必要な物が入っている━

という文に疑問を抱いた。なぜなら、鍵が閉まっているからだ。
「カインの能力で……鍵を壊せば………いいんじゃない?」
ラヴが呟くように言う。カインに迷いはなかった。



カインの固有能力は「硬質化」、つまり体をダイヤモンドよりも硬く変化できるのだ。



カインが右腕に力を込めると、右手の指先から肌の色が黒茶色に徐々に変わっていく。
「危ないから離れて。」
カインはラヴに警告し、ラブは階段を数段下る。
そして、カインは右手を拳に変えて構え、特に大声も出さずに拳をドアの中心めがけて放った。
木製のドアはメキメキと音をあげて中央から横に真っ二つに割れ、木の破片が辺りに飛び散る。
カインとラヴは鉄の部屋に入ると、そこにはすでに見慣れた家具や鉄の私物は無くなっていた。
「ラヴ、これだ。」
部屋の床には唯一、リュックサックが3つだけ置かれている。
これが鉄さんの残した手紙に書いてあった鞄だ。
リュックサックの上には一枚の紙が置かれており、‘カイン’、‘ラヴ’、‘イーズ’と書かれている。
2人は自分のリュックサックを手に取り、ラヴがイーズのリュックサックを持つ。


「イーズを探しに行こう。事情を説明して考え直そう。」