ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: L I N Q  ( No.8 )
日時: 2011/04/17 13:18
名前: ライダー (ID: BZFXj35Y)

LINQが住む島を夕日が橙色に染め始めてきた。
港の横にある綺麗な白色の砂浜に、1体のLINQが海を眺めながら微笑していた。
「…………綺麗だな。」
ブラウンの短パンに無地の黒シャツ、ストレートのショートヘアーが似合うLinq-14のティミッド。
ティミッドは浜の上をチョコチョコと歩く家族連れの赤いカニを見つけると、満面の笑みを見せて心が和む。

「やぁ、君。」

不意に後ろから聞こえた男性の声にティミッドは肩をビクリとさせ、恐る恐る後ろを振り向く。
後ろに立っていたの、先程、赤城と話していた工藤であった。
工藤はスーツの上を脱いでカッターシャツとなり、ネクタイも外して手に持っている。
「……政府の方ですか?」
「そうだよ。君は確か……Linq-14のティミッド君かな?」
「はい。」
工藤はティミッドの造られた人間とは思えないほど純粋な瞳に一瞬だけ見とれてしまう。
ティミッドは不思議そうに首を傾げ、工藤は我に返ってティミッドの横に座り込んだ。
「どうしてこんなところで1人なんだ?皆一緒にいるのに。」
「僕は最後に造られたLINQです。それゆえ、他のLINQと馴染むのが遅れて1人に……なっちゃって……」

「造られたことを、恨んでいるか?」

工藤はつい口から出た質問に、心の中で「やばい!!」と感じた。
ティミッドは一瞬キョトンとした表情となったが、なぜか海を見ながら笑い始めた。
工藤にはなぜ笑えるのか、ティミッドの心情が理解できない。
「政府の人がそんな質問するのは意外です。あなたは政府の人間でも、良い人ですね。」
ティミッドの口から出た褒め言葉に、工藤は思わず照れ笑いをする。
「恨んでいると言えば恨んでます。ここまで繊細に造れるなら、どうせなら人間と同じ様に人生を歩みたい。」
「世界終焉を喰いとめるためだけに造られた………僕は君達に同情するよ。」
工藤は憂える表情を浮かべ、水平線の上にある橙色の夕日を目を細めながら凝視する。


「世界終焉……一体、どういうことが起こるのですか?」


ティミッドの何気ない質問に、工藤は目を閉じて唇を噛み締めた。
「それは俺には分からない。政府の一握りの上層部しか、世界終焉がどういう物なのかを知らない。」
「そうですか………」
ティミッドは立ち上がり、工藤に向かって一礼をする。
「色々話してくれてありがとうございます。楽しかったです。」
「あぁ、俺もだよ。」
「じゃあ、僕は施設の方に戻ります。」
ティミッドは笑顔で工藤に言うと、後ろを振り向き砂浜を歩いて行った。
工藤はティミッドの後ろ姿を見て、なぜか目頭が熱くなるのを感じる。

「後ろから見れば……ただの子供じゃねぇか………ちくしょう……」

工藤は一滴の涙を零して呟くと、腕時計を見てため息を吐いた。
「後5分で到着時間か。そろそろ行くか。」
工藤も立ち上がると、ティミッドとが歩いた方向と反対方向にある港の方へ歩いて行った。


   *   *   *   *   *   *


「おい!!あれ見ろよ!!」


灯台の中にある鉄さんの家にいたカイン、ラヴは、窓から港を見ていたイーズの言葉で顔をあげた。
「政府の船?」
「多分な。船の横に英語で‘Government’って書いてある。あれ確か、政府って意味だろ?」
ラヴは無邪気な笑顔で何度も頷き、窓から港を見下ろす。
一隻の観光船の様な船が港に停泊する所だった。停泊すると、中から2人のスーツ姿の男性が降りてくる。
「さてと、どうやって船の中に入る?あそこに立ってる2人をどうにかしないと…………」
「待って。何か運び出してない?」
ラヴの言葉で、カインとイーズはもう一度船を見る。
確かに船の中から大きな木箱を船員と思わる人たちが、次々と運び出している。

「………配給物か?どうして政府が運んでんだ?」

3人は顔を合わせて首を傾げた。しかし、迷っている暇はない。カインの頭に1つの案が思い浮かんだ。
「あの木箱はまた回収される筈だ。回収する時は空になる……その中に入り込もう。」
「迷ってる暇はなさそうだな。」
「分かった。それで行きましょう。」
カインは頷き、鉄さんの部屋を出ようとした。その時だった。



     「お前ら、ここで何してる?」



壊れた出入り口に、3人が見覚えるのある顔のLINQが立っていた。
フレンチスタイルの赤い髪に左目の下に切り傷があるLinq-03のバミングは、ニヤニヤと不気味な笑みを見せる。
「話は聞いてたぜ。この島から出る様だな。」
「……………」
3人は目を合わせて無言となるが、バミングは特に躊躇せず部屋の中へと入ってくる。
両手を前に出すと、ボコボコと両手から黒煙と真っ赤な炎が入り混じった炎々なものが溢れだした。
「俺の能力は知ってるだろ?爆発だ。お前らと取引がしたい。」
バミングは1人で延々と喋り続け、3人に取引の内容を喋り始めた。


「俺も本土に行きたい。俺がいれば万が一、船で見つかったとしても奴らを制圧できる。どうだ?」


それは取引と言うより、「俺もつれて行け」と言っている様なものだった。
バミングの取引に、イーズ1人が首を横に振る。
「それは無理だぜ爆発野郎。」
「あ?」
バミングはイーズを睨む。その時だった。


     「お前は連れて行けない!!!」


右手を硬質化したカインは、そのままバミングの腹部を殴って後ろに吹き飛ばす。
バミングは「うっ!?」と呻き声をあげて後ろに吹き飛ばされ、ドアのない玄関の外まで飛び出す。
「あ、あぶねぇ!!」
バミングは螺旋状の階段から落ちる寸前に、片手で階段の淵を掴んでどうにか助かる。
「お前には……ここで寝ててもらう。じゃあな。」
「おいおいおいおい!!!待て待て!!待て!!待ってくれ!!!」
バミングを見下ろすイーズの不敵な笑みで、イーズが何をするか確信が付いていた。

「じゃあな。」

イーズはバミングの階段を掴んでいた片手を蹴り飛ばす。
「あ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
筒抜けの螺旋階段の中心を落下していくバミング。
ドンと音が灯台の中に響き、バミングは何十メートルも下の地面に叩きつけられ気絶した。