ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【これが私達の】KATANA-刀-【生き様だ】 ( No.102 )
- 日時: 2011/06/15 16:43
- 名前: 篠鼓 ◆6rD.0ypKNs (ID: 1j9Ea2l5)
目指せドン引きさせて空気を悪化させよう最終回!((
そこの貴方、ドン引きしたら挙手していいのよ?
最終目的は華京さんを失笑させる事です((
※珍しく長いです
※今回は諒の語りがメインです 結構暗め
※いつかメテンとこの話のまとめ書くよ!
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俺が此処に来た理由。 『暇だったから』じゃない。 やっと、思い出した。
急いで懐を探った。 懐には、あの栞以外は入っていなかった。
「…師匠。 貴方に渡せと頼まれていた物です。」
七詩から手渡されていた、あの綺麗な華の栞を師匠の前に差し出した。
師匠は何も言わなかったが、顔色だけが暗い物に変わった。
恐る恐る、割れ物に触れるかのように師匠は栞を受け取った。
「……これ、どうしたの。」
「…俺が、高校を卒業した日に。 カレヤツナナシって人が貴方に渡せと…。」
「…そう。」
師匠は深い溜息と共に煙草の煙を吐き出した。 辺りが、煙で充満する。
「ねぇ、残月。 この栞の華って何か知ってる?」
不意に質問を向けられて、少し驚いた。師匠は俺の答えをも待たずに話を続けた。
「ゴデチアっていって…アカバナ科の耐寒性、または半耐寒性の一年草。
種まきは10月上旬頃で、直根性。大きくなると苗の移動が出来なくなる。」
…何の事だかさっぱり分からなかった。
「…まぁ、そこはどうでもいいとして…この華の花言葉はね…———『変わらぬ愛』なんだ。」
自虐するかのように、師匠は無理に笑っていた。
「…変わらぬ、愛。」
「そう、変わらぬ愛。 …残月は愛とかよく分かんないだろ? 逆に助かる。」
…愛、変わらぬ愛。 意味が、分からない。
愛は一方的に押し付けられる物だと俺は考えている。
それでいて相手の気分次第で『愛』の質量はコロコロ変わっていく物…ではないのだろうか?
師匠は、顔色を悪くしたまま一人で語り始めた。
「…俺は、昔はもっとマシな女だったよ。
家柄は貧相だったけど…ちゃんと女らしくしてたし、身なりももっと綺麗だった。
…けどな…元々治安が悪かったせいか暴力や怪我は日常だったし、両親は酒や愛人に逃げてった。
姉貴は何人もの男誑かした後、富豪の旦那を姫君から盗んで処刑された。…妹は、大麻売りの男と心中さ。
周りがそんなんだったから生きる為に何でもやった。 汚い事も、全部。」
…師匠は、声だけで泣いている気がした。 声だけ、震えていた。
「…だからさ、他の女みたいに愛される価値なんて俺にはないんだと思ってた。
汚れた人間は愛されるなんて幸福、得てはいけないんだと思ってた。
…故に、だ。 俺はこの先も永遠に愛されないと思っていたし、疑わなかった。
……その時かな、七詩に会ったの。」
師匠の顔が再びこちらを向いた。 浮かんだ微笑が、儚く見えた。
「ちょこちょこ顔出してたんだよ、アイツ。
…俺が雑用として働いていた酒場に来ては、女にも手を出さずに、酒も飲まずに去っていった。
最初は普通に変わったヤツ、って思っていたし、それ以外には何もなかった。
ある日、突然酒場の隅で掃除してた俺に話しかけてくる前まではな。
確か…『手伝おうか?』って話しかけてきたのが最初だったと思う。 無論、仕事だし拒否したが。
それ以降は何度か酒場に来ては俺に何かしら話しかけてきたのを覚えている。
…で、俺が酒場解雇された後…身寄りの無い俺を家に住ませてくれたのもアイツだった。
最初は奴隷として売られるとか、殴られるとか、物騒なことしか考えていなかったんだが、
アイツは俺を大切に扱ってくれるだけで、変な事はしてこなかった。…変な、ヤツだった。」
師匠は一人で話を続けた。 俺は、黙って聞いた。
もし師匠が話す事で何か救われるなら…それで、俺はいいと思う。
「…俺は大切にされるべき人間じゃないって考えてたから、それが怖かった。
だから『男』になろうと思ってな。
そうすれば、アイツも俺を嫌ってくれるだろう、アイツも別の女見つけるだろう、って。
…その頃からかな、俺と七詩が年取らなくなったの。」
「…年?」
「…うん、年。 残月にあった頃から変わってないだろ?」
そういえば、そんな気がした。
あの人は出会った頃から20歳ぐらいの外見のままだった。…今は、自分より年下に見える。
「こう見えても実年齢は60代なんだぜ、若く見えるだろ?」
師匠が今までとは違った心からの笑みを浮かべた気がした。 すぐに、戻ってしまったが。
「…でさ、『男』っぽくなるのには成功したんだけど…あんまし意味無くてさ。
ずっと不安なままで過ごしてて…耐え切れなくなって、アイツから逃げた。」
…だから、俺が高校2年生の時に姿を消したのか。
「…残月にコレ渡されて分かったんだけど、俺の思い過ごしだったかな。
あの人は…俺の事を愛してくれてる。 …馬鹿なのは俺だったんだ。
……ねぇ、残月。 頼み事があるんだけどいい?」
俺が黙って頷くと、師匠は三枚の栞を差し出した。
一つは、紫色の細い花弁を持つ花。 一つは仄かに香る小さな白い花。
一つは不思議な形状をした白い花と白で縁取られた紫の花だった。
「紫の花の方は七詩に、白い花の方は…そうだな、七詩の知り合いの『人形師』に。
最後の二つの花が入っているのは…残月、御前に。」
少し、驚いた。 人から物なんて受け取った事はなかったから尚更だった。
「…俺に、ですか?」
「残月以外に誰が居るの。 …あ、花言葉は伝えるの照れくさいから察して。」
察してといわれてもどう察すれば良いのか…。
色々と困り果てて師匠を見やると、吹っ切れたように笑っていた。
…俺は、あの笑顔を愛おしく思う。
ルメッサージュ・フルール
(師匠の想いが込められた栞の花は、とても美しかった)