ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 盲目ダーリン ( No.11 )
- 日時: 2011/05/12 15:48
- 名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: CbXJUujt)
ピーン、ポーンと間延びした音が聞こえて、半分死んだ魚のような赤の瞳に黒曜石のような髪、女性が羨む白い肌を持った男性が現れた。
その背後に庇うように隠されているのは彼の最愛の人形、『リリス』である。
「こんにちは、唐鏡さん。お邪魔していいですか?」
まず最初に向かったのは唐鏡さんの所。
彼は私のお気に入りキャラの一人だった。
相手そっくりの人形を作り出して混乱させる技は使いやすかったし、巨大な鋏や針を基本武器としていて面白かった。
ただし人形を操作している数が多いほど自分の動きが制限されるのがたまにキズだ。
おっと、そんな事をしているうちに扉が閉められかけた。
私はそこに足を捻じ込む。
「ちょっと待ってくださいよ。あなたとお話したいだけなんですから。」
にっこりと笑顔を作って話しかける。
彼は勝手にしろといわんばかりに扉を開けて私が中に入ったのを確認すると扉を閉めた。
なので、私は遠慮なく家にあがる。
改めてみるとリリスの精巧さと美しさにため息が出た。
「あの、」
何だ? といわんばかりに見つめられ……いや、にらまれる。
「雀ってよんでいいですか?」
ため息。
やはり駄目かと思ったその時。
「勝手にしろ。」
彼の声が今はじめて私の鼓膜を震えさせた。
うれしくて飛び上がってしまいそうだ。
————例えばそれはくだらない物語かもしれない。
私からすればこの世界は他人事だし、わざわざ私が世話を焼く事もないはずなのだ。
「ねぇ、雀。」
「なんだ?」
「雀はどうして戦うの?」
そんな私の問いに雀はふふんと鼻を鳴らした。
私は、関係ないはずなのに、
「リリスの為だ。私はリリスを守る為にある。」
「平和、とかじゃなくて?」
「リリスが平和を望むのならば。」
それでも私が彼を救いたいと願うのは彼が一人の人という事が解ないからかもしれない。
彼を真の意味で救うとすれば、それは愛していた人間に裏切られて、そしてそのヒトを殺したのは雀自身で、そして今あなたの隣にいる『リリス』は唯の人形で、あなたの愛にこたえてくれないという事を分からせる事なのだろう。
それで患者(雀)が泣き喚いて前とは比べ物にならないくらいのショックを受けると分かっていても、救わなければならないのだろうか。
ただ今解るのは、きっと彼が死んだら、天国の彼女も泣くだろうに。
それすら解らない彼が可哀相で仕方が無い。
私はそんな彼に一粒の涙を零して、今日のお礼を言うと彼の住むマンションの一室から退室した。
亡人ハニーと盲目ダァリン
(信念と想いは人を盲目にするのね)