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Re: 【これが私達の】KATANA-刀-【生き様だ】 ( No.137 )
日時: 2011/11/18 18:45
名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: yE.2POpv)

「な、」
「俺は最初見たときから嘘だと思っていた」

でもまさか人形が魔女と手を組んでたとはな、と彼はハンドルを掴んだまま首を回す。
私は彼の元に来たという文を見せて貰っていた。
内容があまりにめちゃくちゃで私は驚愕したのだ。
残月が乗ってきた車は速いらしく他の車は大分離されてしまっている。

「……違う、」
「は?」
「残月は関係ない……!」

だってもし魔女と組んでいたら私をさっさと殺すはずだ。
あんな人にヒントを与えるはずもない。

「きっと残月は……」
「雀!」
「どうした」

私達から見て右側を走るバイクに乗った人が声を張り上げる。
この人は雀に協力してくれた人の親衛隊みたいなものなのだとか。
その人は切羽詰った顔で叫ぶ。

「今、連絡が入りました!





——……魔女の館にて各国の将により戦乱が始まった模様!」




瞬間、世界から音が消えた。





魔女の館で 皆が 戦ってる?




まじょのやかたでみんながたたかってる?




マジョノヤカタデミンナガタタカッテル



私の頭の上で彼がした舌打ちの音で我に帰る。
車が地面の砂利や泥水を巻き上げて、荒い息遣いに重い空気、綺麗な緑に、蒼い空。

遠くで上がる煙は越えた峠から見える魔女の館から。
微かに香る臭いは火薬か。

「いいか」

頭上で元親が声を囁く。

「このままいけば城の裏手に出る、いくらお前でも下からじゃ声は掻き消される。上を目指せ」

そう叫んで彼は私を抱きしめると道を外れてただ、真っ直ぐ進んだ。木の葉が、枝が私達を傷つけていく。
しばらく走って急に視界が開けたかと思えば、体中で重力と風を感じていた。

「ひッ……!!」

息が詰まって引き攣った声が出る。それを聞いてか否か彼は一度強く私を抱きしめた。
瞬間、車が硝子を突き破って館の中へ飛び込む。激しい砂埃と騒音に私は体を強張らせた。

「お前等何者だ!」
「侵入者だぞ! 皆の者! であえ、であえっ!」

車が館の石畳に飛び降りれば巻き上がる男の悲鳴、叫ぶ馬の声……私は抱き抱えられたまま車から飛び降りた。

「行くぞ」
「う、あ、うん!」

その隙に乗じて私達は部屋を飛び出して階段を駆け上がっていく。一段、一段踏み外さないように、でも急いで。
どのぐらい上がっただろう。大分息が上がってきた頃不意に前を行く彼が足を止めた。
彼の背中越しに誰かと見てみれば、灰色の短い髪が見えた。

「———……随分遅かったな」

その姿を捕らえて雀は特に何か感情を込めるでもなく呟く。

「人形……」

「そこをどいて、残月! 私……皆を止めなくちゃ……!」

静かに刀を構えた残月に彼は目を細めて人形を操って大槍を構えさせた。私の背後には階段がある。逃げようと思えば逃げれる距離だ。しかし、雀が呟いた。

「……行け」
「でも……」
「あいつから話を聞きたいのは俺だ」

それに、と彼は首だけ振り返って、ぎこちなく
————微笑んだ。

「アイツ等を止めれんのはお前しかいない」

少し間を空けてから、私は一つ頷くと雀を横切って階段を駆け上がった。
こういう時、どうすればいいか解らないけど私は皆を止めたい。だから、私は行かなきゃいけないんだ!
私は上を目指した。
頬を流れる雫を擦りながら、落ちないように、必死に。










「———……いいのか? アイツを行かせても」
「知れた事。あいつ一人行かせた所で何も変わらない」

リリスを背中にしっかりと背負いながら、雀は階段を駆け上がる女を思った。
たった一人の、しかもまだ大人になったばかりの女はどれだけ大きな使命と思いを抱えているのだろうか。
異国から来たと言う彼女の考えは良くわからないし、何をこの乱世に求めているのも謎だ。
だが、しかしこの百年近く続いたこの国に射した全く違う考えを持った刹那の光のような彼女の考えは若々しく、理想論めいていてあやふやだが、どこか的を射ているのも事実。それで動かされた人間も多い。
だからこそ、雀は賭けてみたいと思ったのだ。
彼女の理想論がどこまで通じるのか、変わり得なかった乱世を変えることが出来るのかに。
結果を出すためにも、彼女には生きて呼び掛けてもらう必要がある。
上っ面の声でなくて、心からの声で、届くか、否か……

「……それに」

ふと紡がれた言葉で現実に引き戻された。目の前でクツクツ笑うこの男に視線を向ければ、彼は愉快そうに笑っている。

「この上では恐らく、神崎と魔女が刃を交えている。……本気の殺し合いをしているとこを乱入すればどうなるだろうな」

階段を振り返ったが、もう既に誰も居ない。雀が僅かに眉を寄せれば刀が近くからとんできて慌てて人形に受け止めさせた。
高い音を立てて大槍と刀が交わる。残月は叫んだ。

「ッお前は変わったな、唐鏡雀。アイツの影響か? お前だけでない、火野も、小山も、あまつさえ師匠すらも変わった。乱世には有り得ない、隙と迷いだ。
アイツに惑わされているのか? 何故叶わぬ理想論に縋るんだ?」

雀はしばらく残月の攻撃を受け流しながら話を聞いていたが、不意にため息を吐いた。

「だが、お前も変わった」
「何……?」
「前はお前はこんなに感情的じゃなかった。いや、感情が無かった。こんな事で"怒ったり"なんてしなかった」

そう言いながら勢い良く残月の刀を弾き飛ばす。残月は顔を苦々しく歪めると、空中で体制を立て直す。

「……今、この乱世でアイツの影響を受けていない奴なんか極僅かだろう」

雀は静かに顔を上げた。
眼に宿るのは闘志。
忘れていた、放棄していた感情。

「アイツならどんな奴が居ようと説得する!」

雀が人形の手から大槍を奪うと、大槍が焔を纏う。
まるで彼の闘志を映したかのような真っ赤な焔だった。












息が切れる、もう進むのを止めてしまいたいぐらい足が痛みと疲労を訴えていた。あとどれくらいあるのかと顔を上げればもう殆どない。
いい加減見飽きていた階段も後少しと駆け上がる。
雀は私を信じてくれた、その期待を裏切らない為にも私は登って戦う彼らを止めなければいけないのだ。
止められる自信などない。今こうして階段を上がっていながらにして不安に潰されそうだ。しかし、私は賭けてみたい。
皆から話を聞いた時に感じたあの気持ちを。

だから、私は前へ行くのだ。









揺篭アンダンテ
(意味の無い戦乱なんて終わらせたい)
(おかえりなさい、感情)
(さようなら、憎悪)