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Re: 【これが私達の】KATANA-刀-【生き様だ】 ( No.140 )
日時: 2011/08/23 21:28
名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: jklXnNcU)


何でこうなったのかとか、どうしてこんな事にとか思ってたから、余計に信じれなかった。

魔女の館に来てみれば案の定、各国の武将と鉢合わせして勝負し始めて、後は見た感じ火野と久断と大釜……うわ、築茂も居るよ。

どんだけ高名な人たちと付き合ってたのさ。

飽きれ半分に木の上から様子を眺めていると、殺気を感じて慌てて跳んだ。
すると今まで居た木が爆発する。

「……危ないなぁ、挨拶がこれ?」
「五月蝿いわ」

高飛車なお嬢様口調に口端を吊り上げればきつくこちらを睨むアイツの姿。

「何? 僕、今回は何もしてないはずなんだけど?」
「邪魔しないよう言われたからよ」
「……八つ当たり?」
「ッ!!」

容赦なく投げられた爆弾を弾いて仕返しとばかりに短刀を投げた。
大きな舌打ちをして避ける百合原に少し心が踊る。
なんだかんだで自分もこの闇の住人なんだと自覚すると同時に少し哀しくなった。

『——飛曇ちゃんは闇の世界よりこっちのが合ってるよ』

不意にあの人の言葉が聞こえてきて僕は目を細めた。
……正直あの子は外国から来たというが本当は嘘なんじゃないかと思ってる。
外人にしては言葉は上手いし、この国の情勢に詳し過ぎる。

それに、平和を望んでいる。
今、この乱世を生きる全ての者の平和を。

でも、もし平和になったら…僕はどこに生けばいいのだろうか……


「——……ッこの馬鹿共ぉぉおおっ!!」


その声は急にふってきた。
さっきまで考えていた彼女の声に相模と紅月動きを止め、つられるように皆が動きを止めていく。
百合原が「……生きていたのね……」と小さく呟いた。


「あんた達もう、いい加減にして! この場にいる全員が同じ事を望んでることに何故気付かないの!?」


そう言いながら屋根の上にはい上がっていくシズカちゃん。彼女は暗殺者でも、武将でもなく、ただの一般人。身体能力も平均だ。


「神子!」
「神子どん! 危なかとよ!!」
「うるさい!」


火野と、火野と刃を交えていた小山が制止をかけたがうるさいの一言で片付けられた。
彼女は腰が引けながらも立ち上がる。


「私は昔から皆が好きだった! 皆の笑顔が好きだった! 私がこの時代に来た理由——それは私の望んだ世界を創るための、最初で最後の可能性に導かれたから!
あっちの世界では私は、雷次と風浪みたいに心から信頼できる家族はいなかった!
言葉を溜め込んでた私の心は荒んでて、一時どうでもいいと思ってた!
だけど、それでも皆は私に優しくしてくれた!
死ぬな、生きろと私に生を促してくれた!!
だから私は皆を救いたいと思った!
皆が言ったように私も皆に生きてほしい!
それが私の信念!
今、この乱世を生きる私の生きる意味だった!」


誰も動かない中、僕はまた、静かに目を細めた。

『あっちの世界』……? あぁ、なんだ違う世界って事か……やっぱり外人じゃなかったんじゃん。
ま、何となく分かってたけどね。

それより、あの人の思い描く世界はなんて甘いんだろうか。

神子さんがどんな世界で生きてきたのか知らないけど、ここは乱世。
そんな甘ったるい考えなんか通用しないだろう。

理想だけじゃ何も変わりはしないんだよ。考え方が根本的に違うんだから……

「もう一度問う! 何故戦うの!? 何故この国の頂点を狙うの!? 国の長は一人じゃなきゃいけないの!?」

僕は更に眉を寄せた。他人から見れば相当険しい顔だったに違いない。

戦う理由なんて人それぞれだし、何故天下を狙うのかと聞かれても困る。

僕が戦うのは食いぶちを手に入れるためだ。
自分は天下とか正直どうでもいい。

それに国の長が二人も三人もいたら政治はだれがするんだ。


「何をややこしく考えているの?……この国々を統一するのではなくて、このまま一つの国にしてしまえば、誰も戦でひもじくなったりしないし命を落とす必要も無くなるじゃない!」


なにを……が、ふと思った。
国を無くして各地方を現武将達が治めてしまえば良いのではないか。

……そうか。彼女はいつでも自分達を思っていてくれていたのだ。最善の方へ、方へと世が進むよう影を暗躍していた。

知らず知らずに俯いていた視線をゆっくり上げると悲しげに微笑む彼女の向こうに影が一つ揺らぐ。


「ッ!!」


揺らめく姿、それは魔女だ。彼は全身を血に濁らせ、魔女の右手には蒼い馬に乗った騎士が彼女に手を伸ばしていた。
彼女は魔女の姿に気付かない。



「……だから私は……!!」


「神子さん!!」


僕は叫んだ。
石動、火野、大釜が彼女の居る屋根へ乗り移る。

神子さんの瞳が光を失って糸が切れたように倒れこむ。

全て、ゆっくりとした動作だった。

彼女が、小さく何かを呟いて傾く。

それを大釜が支えた。

魔女が 嗤う。


「……ふ、はは、あははは! やった……!! やったわ……!! これで、残月の心を占める邪魔なモノは……ふふ、ふふふふ……あははははは!!」


神子さん越しに上の屋根を見てみれば屋根から滴る紅と茶髪。上向きは武器である数本のナイフは折れ、コンクリートを砕いて突き刺さっていた。
人だったそれは何も言わず無言で月を見上げている。

——……襲撃、失敗ね……



何故この女が襲撃を起こしたのか、とかどうでもいい。

それより魔女だ。
今、大釜の腕の中で血を流し、小さな命の灯を消そうとした男。


魔女の操る蒼騎士の手にかかったとなれば、恐らく生きながらえない。

悲しいという感情は湧いてこなかった。ただ、憎くて堪らない……

大釜は神子さんを支えながら剣を構えた。が、ふと切りかかることをやめた。


無地で緑色のパジャマを着た中性的な誰か……名前は確か築茂青葉。
築茂が現れた部屋から境 残月が魔女を素早く切り付けたからだ。

鈍い悲鳴をあげて魔女は倒れた。瓦を伝って鮮血が流れていく。

その血は彼女のとは全く違う……薄汚い紅だった。














消えたまえ魔女よ
(彼女の救いを断ったことが間違っていたのだろう)