ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 人間リミット ( No.15 )
- 日時: 2011/05/12 15:49
- 名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: CbXJUujt)
立派なマンションに入り込む。
金髪でキチッとスーツを着こなしたキャリアウーマンさんの影に隠れてついていく。
この状態でマンションの管理人さんらしき人にも会ったが、不審者ではなく彼女の子供くらいにしか思われていないだろう。
彼女がエスカレータに乗り込もうとした隙に私は彼女の背後から離れる。
そして階段の扉を開けると階段に滑り込んだ。
そしてカンカンとリズム良く階段を上っていく。
雀の時もそうだったが、目的としている彼の居場所は勘で分かる。
ゲームの情報もあるからなのだろうが。
彼の部屋は高層ビルの最上階にある。
私は途中まで階段を上ると途中からエレベーターに乗って最上階までいった。
私は部屋の前に立つと、インターホンを押した。
一回目、反応なし。
二回目、反応なし。
三回目、反応なし。
四回目、反応なし。
五回目、反応なぁああああああああもう!!
ついに我慢できなくなって大声を張り上げた。
「火野 凪風さん、いらっしゃいますよねー? 出てきてくださーい!!」
しかもそれに扉を叩くというオプション付きだ。
流石の彼も我慢できなくなったのかバァンと扉を開けて、否、蹴破って出てきた。
「何!? さっきっから五月蝿いよ!?」
苛立ちを隠せない様子の彼、火野 凪風。
彼もまた、唐鏡雀と同じくゲームの登場人物である。
プレイ中に何度「畜生なんで男の癖にそんな美女なんだ女の私の立場ねぇじゃねぇかコノヤロウ!!」と歯噛みしただろうか。
一瞬だけ体力を減らさず無敵状態になることの出来る技が使えるので、よく瀕死に彼を追いやってはこの技を乱用したものだ。
彼の武器は刃物ではなく魔法少女のような杖の巨大版である。
こんなふざけた————そういっては彼に失礼だが実際ふざけているのだから仕方が無い————武器で絶命していくモブを見るのは可哀想である。
無印ではCPUだったがツーで人気によりめでたくPC化を果たした。
表向きは情報通で親の残した遺産で医師を目指して勉強中の高校生だが、実際は両親を殺した殺人犯を追う夜の者である。
「あのー。ちょっとお話があるんです。入っていいですか?」
にっこり笑顔でそういう。
彼は渋々といった様子で中に入れてくれた。
「———君に残された時間は後どのくらいあるのでしょうね。」
「……く……ぁ……!」
ここはで空に限りなく近い彼の部屋だ。助けなんか来ないだろう。
助けを待つな、自分で何とかしないと。
そうだ、まずはこの首にかかる手を払わなくては。
ただ、私の上に乗って首を絞めている彼も心臓病を患っているといっても男、しかも将軍だ。
力で敵うはずは無い。
「———……君と俺は何が違うんですか?」
「……なぎ……かッ……」
ぎりぎりと呼吸器官が絞まって苦しい。
いい加減どうにかしなければ。
彼は一度窓の外を仰ぎ見て私を見下ろした。
「死が近い俺が空に最も近いこの部屋にいるなんて皮肉でしょう?」
自嘲したかのような薄い茶色の瞳が黒縁メガネのレンズの奥でゆらゆらと揺れていた。
ああ、かなしそう。
「————そ……う……して……自分を……ッ……追い詰め……て、……た……のし……?」
声が、掠れる。
「あな、たは……し……ぬのが……こ、わいだけ……よ……」
「っ!」
瞬間、彼は目を大きく見開いて後ろへ飛びのいた。
器官に急激に空気が入ってきて咽く。むせ返りながら、彼を見据えれば何をするでもなく呆然と私を見つめていた。
私の荒い息遣い以外聞こえない静けさをぶち破ったのは、彼。
「そんな、はず」
「『貴方じゃなくて私が死ねばいいのに』と、か『私の時間をあなたにあげたい』とか、……そんな生易しい言葉を貴方は望んでいないでしょ……?」
大分、呼吸も楽になった。
私は立ち上がる。
「残念だけど私は神なんか信じてないし時間が平等だとも思わない。」
「…………」
「ただ、ね」
「…………?」
私から視線を外せないように彼を真っ直ぐに見つめる。
「人に与えられた可能性とできる事は平等だと思う。」
「……可能……せ、い……?」
「その人が、一生にできること。」
だから、と私は言葉を続けた。
「今は凪風がやりたい事をすればいいんだよ。」
人間リミット
(彼に後悔して死んでは欲しくない)