ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

アイ世クリア ( No.36 )
日時: 2011/05/12 15:58
名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: CbXJUujt)
参照: るりぃ改め華京!心 機 一 転 !

「残月、ってさ。綺麗な、名前だよね。」
「……ああ、そうか。」

隣に座っている彼が微笑んで「そうだな」なんて頷くことを期待してはいなかった。
……いなかった、の、だが……
やはり、こちらを見ずに右目を虚空に向けて返答されるのは、悲しい。
————彼は、使う事が無いキャラだった。
それもそのはず。
彼は、境 残月は、モブキャラだったから。
PC(プレイヤーキャラ)としては全く使いどころの無いキャラである。
残月は、攻撃手段を持っていないからだ。
だが、ストーリーの展開の鍵を握る重要な人物として、ほとんどのPCのストーリーに出ている彼。
『愛』という、感情の欠落者。
彼のファンはPCに勝っていた。
だが、彼がNPCから脱する事は無かった。
彼のファンが求めていたのは、戦う力を持たない彼だったから。
彼には戦う力が与えられないのだろう。
この先も。
そして、彼自身の問題が解決される事も、ないのだろう。
彼は昨日に取り残されたまま。

「残月。」
「……なんだ?」

彼は、私の言葉が聞こえているけど聞いてはいない。
周囲を飛び回る虫も、夜空に光る星も見えてはいても見ようとはしていないのだろう。

「逃げて、あなたが幸せなら、そのまま逃げてればいいよ。」

返答は、なかった。
私は暫く彼の隣に座っていたが、彼がその場を無言で去ったので私は一人その場に取り残された。
もうすぐ朝日が昇るというのに、月はまだ取り残されたままだった。













アイ世クリア
(私じゃ残月を明日へと導けないのだろうか)