ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【これが私達の】KATANA-刀-【生き様だ】 ( No.73 )
- 日時: 2011/06/03 19:32
- 名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: ThA8vNRQ)
「その人の場合は、『現実』に関する全てが無駄であった。
自分が食事をしなければ生きてゆけない不便さにつくづく嫌気がさしていた。
そんなその人の最高の趣味は、詩や美しい風景の世界を暗中模索することであった」
私は青風に揺れる木々に眼を細めながら、木漏れ日の光が与えるまどろみに任せて言葉を紡いでいく。
それは、大木をはさんで背中合わせの人物に向けて?
いいえ、唯私の自己満足ため。
「その人は海と空の境目と同じ色のブルーのインクを持っていた。 透明なコップに水を入れて、それにインクをたらすのが日課であった。
それはインクと水が同じように混ざることが、一日としてないからである。」
一息をおいて乾いた唇を舐める。
私が悩んで口を閉じると、背後から人物の声が聞こえてきた。
「その人はストロベリーキャンディーが好きであった。
なめるのが好きなのではなく地面に落とすのが趣味であった。
キャンディーにアリがたかるまでの過程が好きなのであった
それは一日としてアリが同じようにたかることがなかったからである。
その人は散歩が好きであった。
その人は歩きながら妖精の家の入り口を探していた。
その人には妖精の友達がいた。
しかし妖精は一方的にその人の前に現れるばかりだったので、いつか自分で妖精を訪ねて彼をびっくりさせようと思っていたのだ 。
その人の外見年齢は16歳であったが、本当は、この世にないほど大きな数字歳であるということだ。」
ゆっくりと背後を振り向く。
木漏れ日が白い髪に降り注ぎ、まるで光そのもののようである。
ふ、と、その人物……築茂青葉は僅かに微笑んだ。
青葉には性別が無い。
いや、あったと表現するべきだろうか。
病の為本来ならばあるはずのそれをなくしてしまったのだ。
自我が希薄で、先程のように僅かに微笑んだり悲しんだりはするが、それ以上の感情表現は全く見られない。
それも、病の為である。
これまでの人生の大半を病院で過ごしてきた青葉。
今も病院にいるため、病院の無地のパジャマを着ている。
首元が風で少し肌蹴たそれからは、痛々しい手術痕が覗いている。
青葉も、残月と同じ鍵となるNPCである。
だが、残念なことに青葉には目立ったファンがつかない。
私は青葉の事が好きだったため、残念だった。
「風景写真、好きなんですね」
私は青葉の手元にある風景写真集に視線を落とし、そっと話しかける。
今青葉が見ていた写真は、綺麗な緑色の木々が生い茂る森の写真だった。
青葉はまた少し微笑んで、「うん」と答えた。
「将来此処に行きたい、とか。あるんですか?」
「……あるけど、無いんだ。だってボクは病院から出られないから」
青葉は困ったように笑った。
だけど、その瞳は笑っていなかった。
ああ、この瞳は
「大半の感情を放棄して、諦めてしまったの?」
絶望の色をしている。
気がついたら私はそう口走っていた。
青葉の瞳が一瞬だけ驚きの色を見せる。
でもそれはすぐに先程の色に戻ってしまった。
「仕方が無いんだ。こうしないと」
「…………諦めたらダメですよ」
「え……?」
「希望は、遠い場所にあると思うかもしれませんけど、案外近くにあるものなんですから」
希望グリーン
(「ありがとう」微笑んだその子のパジャマは綺麗な深緑だった)