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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【これが私達の】KATANA-刀-【生き様だ】 ( No.75 )
- 日時: 2011/06/06 06:34
- 名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: ThA8vNRQ)
あの人はまるで鈴だと誰かがぼやく。
あの人はまるで黒風だと誰かが嘆く。
「鈴ちゃん」
「あ……こんにちは」
えへへ、元気に微笑む彼女の足元には積み上がった屍の山。
彼女は石動 鈴。
鈴の音のように可愛らしい子に育つようにと願いを込めて育てられた武術の名門である旧家の出身の娘。
何不自由なく一身に愛を受けて育ってきた。
でも、彼女が11の時に戦争で兄を失い、それに追い討ちをかけるように一年前に姉と、一ヶ月前に両親を亡くしている。
もう亡き家族の意思を継ぐため、石動流の道場を起こそうとしている。
「泣かないで、鈴ちゃん」
その言葉を口にして屍から彼女へ目を向ければ彼女は小さく苦笑していた。
どんな姿でも美しいのは彼女の白さ故に映える赤の所為か、夕日の朱のせいか。
「泣いてなんかないわ」
「ううん、鈴ちゃんは泣いているよ」
「泣いてなんか……」
「気付いて、ないの?」
そう言われて彼女は自分の頬に触れて手についた液体をじっと見つめてからうっすら微笑む。
「こんなのだから家族を守れないんだよね」
いやだなぁ、こういうの。そう呟いて彼女は頬の水滴を拭った。
「いつまでも同情なんかしてられないのに……」
「でも、」
声を発した私を彼女は小首を傾げて見つめる。
「それが、普通だと思います」
全ての感覚が麻痺してしまいそいな世界の中、まだ相手を想える。
それはとても素敵な事。
殺してしまった罪悪感に涙を流せる人なんかほとんどいないだろう。
「弱いんじゃなくて、鈴ちゃんは強いんだよ。自分の意志がまだあるから。きっと。だから泣くのが本当は正しいんだ」
「…………だと、いいのだけれど」
優しい嘘つき
(この乱世で一番優しいのは貴女)
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