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Re: 探偵マル秘事件帳 ( No.3 )
日時: 2011/04/07 10:13
名前: つくね ◆/4d63w6b6Y (ID: PmZsycN0)

File1「痴漢列車での邂逅」①

俺があの変な所長と初めて会ったのは、2年前のことだった。
あの日、俺は彼女である三上莉子(みかみ りこ)とのデートを終え、帰りの電車に乗っていた。
あ、申し遅れたけど、俺の名前は夜峰朔矢。高校2年生だ。
……で、その電車は夕方の帰宅ラッシュということもあって、非常に混雑していた。
車内は押しくらまんじゅう状態。体なんか触れ合うのは当たり前。それが東京という街の特徴と言えなくもない。
が、押しくらまんじゅう状態になると、必ずと言っていいほど起きる事件がある。
それは—





「こっ、この人、痴漢です!!」






そう、痴漢事件だ。ところが今回はいつもと違うところが1つだけあった。
痴漢ですと叫んだ女子高生は、俺の方を指差していたのだ。
「え……? このお兄ちゃんが…?」
後ろにいたホストみたいなイケメンが一歩引いた。
それに連られて、周りの人が一斉に俺と距離を置いてくる。
「うわ、最低…………」
「今はこんな若い人でも痴漢するのね……」
一気に広がる俺は最低人間ムード。
「い、いや、待ってくれ! 俺痴漢なんか…」
「嘘です! 手首が一瞬見えたから間違いないです!」
女子高生は平然と嘘言いやがった。
「ちょ、待て、そんな—」
だが、こういう時立場が強いのは、被害者たる女子高生。
とはいえ、このまま黙って痴漢にされるなんてたまったもんじゃない。
「だから、俺は違うって!!」
俺が反論を開始しようとした時—
「いだっ!?」
誰かが後ろから思い切り肩を掴んできた。
振り向くと、ガタイのいいスーツ姿のオッサンがいた。
「警察だ。お前が近頃噂の痴漢常習犯だな? 観念するんだな」
うわー! 刑事さんキター!! オワタ! 俺オワタ!!
俺が人生の終了フラグを如実に感じた瞬間—





「あのー……その人痴漢じゃないですよ?」





突然、女の声がした。
乗客は一斉に声の主の方を見る。
そこにいたのは、やっぱり女だった。
どこぞのアイドルのような服を着ていて、見た目も結構アイドルっぽい。
一体この人は誰なんだ?
「おい、あんた一体何者だ?」
刑事さんが俺の疑問を代わりに口に出してくれた。
女の人は一歩前に進み出て、胸を張った。
おお、意外と胸あるな、と思った俺は多分普通の神経じゃなかったんだろう。というか、そうであって欲しい。
「私は探偵ですっ!」
女の人はきっぱりと言った。
「はあ………?」
これには刑事さんも呆れ顔。俺だって呆れた顔をしていたに違いない。
だって、どっからどう見ても探偵なんかには見えないから。
いや、探偵ってどういう服装してるのかは知らないけどね。そもそも探偵見たことないし。
とにかく、その人はとても探偵には見えなかった。
が、女の人はそれを意に介することもなかった。
「そこの男の子は痴漢じゃありません。私見てましたから」
「なっ……」
女子高生が焦った表情にになる。
「え、そうなのか?」
刑事さんも顔色を変えた。
自称探偵さんは、「ええ」と言いながら、女子高生の方を向いた。
「あなた、彼の手首を見たといいましたね。何か特徴はありませんでしたか?」
突然質問され、女子高生は戸惑った様子だったが、口を開いた。
「服の色が印象的でした」
「なるほど………ちなみに、彼の手首だけ見えたのですか? それとも、二の腕辺りまで見えてましたか?」
一体こんな質問に何の意味があるんだ?
「手首だけでした」
女子高生が答えると、自称探偵さんはしてやったり、といった顔になった。
そして、一言
「あなたは嘘をついています」と言った
「………!?」
女子高生の表情が硬くなる。
「刑事さん、彼の手首をよく見てください」
「ん? 手首?」
刑事さんは俺の手首を持ち上げた。
その瞬間、俺と刑事さんは同時に「あーーー!!」と叫んだ。
「そういうことです」
自称探偵さんはニッコリ微笑んだ。
そう、今日俺が着ていた服は七部袖。
手首にまで丈が届くわけがなかった。したがって服の色など分かりはしない。
しかも、俺の手首には今日行った遊園地のお土産の、ピンク色のブレスレットがついている。
仮に服の色が見えていたとしても、まずこのブレスレットに目がいくはずだ。
「す………すげえ…」
俺は思わず言葉を漏らしていた。
刑事さんも驚いたように、目を瞬かせている。
対照的に、女子高生は無表情だ。
さっきから思っていたのだが、この女子高生、謎が見破られることを分かっていたかのような落ち着きようだ。
さっきの焦った様子も、どことなく演技くさかったし。
「………私の間違いでした。すみません」
しまいには、人が変わったように、俺に頭を下げてきた。
「あ、ああ………別にいいよ。誰にでも間違いってあるしな」
俺はこの女子高生が気味悪くなって、さっさと話を終わらせることにした。
「む………少年。私からも侘びを言いたい。すまなかった。スケベな顔しているから、つい本物だと……」
「は、はあ………」
俺、そんなスケベな顔してるか?
微妙な空気のまま、こうして俺の嫌疑は晴れたのだった。











が、この時誰も知らなかった。話はまだ終わっていなかったことを。