ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: …Child's Joking… ( No.1 )
日時: 2011/04/07 18:50
名前: ぷっちょ (ID: BZFXj35Y)

    実際、僕達は心の中で思っていた。
     子供がいずれ、何か大事件を起こすんじゃないかと。
   しかし、そんなことは起きる筈がないと思っている大人達。
    気付いた時にはもう遅い状況。
       全ての始まりは、とある高校からだった。


      *  *  *  *  *


杉原学園高等学校とは、まさに僕が向かっている私立高校のことだ。
ついこの前の春の大会では、野球部が再び勝利を収めた。我が高校の野球部は、日本で2番目に強い。
今日はローカルのテレビ局がインタビューに来るらしい。

「お兄ちゃん、今日の始業式長引きそう?」

「え?あ〜そうだな、野球部のインタビューが長引けば終わるのは遅くなるな。」

今年の春で高校2年生と進級した春見裕は、双子の妹である未来に言った。
僕は生徒会執行部に入部しているため、大体の行事の時間割を知っている。だから、未来は質問したのだ。
裕の答えに未来は大きなため息をつく、裕もつられてため息を吐いた。
4月だが、まだ息が白くなっている。それに少し肌寒い。
「寒いね。」
「うん。」


    「おはよう裕君。未来ちゃん。」


2人が並んで歩いていると、後ろからベージュのトレンチコートに身を包んだ男性が声をかけてきた。
その男性の顔を見た2人は、一礼して「おはようございます」と声をそろえて言う。
ボサボサの髪型に無償髭を生やした杉原高校の職員である安堂満樹は、笑顔で頷いて春見兄妹と並んで歩く。
「いや〜ぁ、朝は冷えるな。」
「そうですね。てか、先生急がないで良いんですか?今日の職員会議、7時半からですよね?」
「え……そうだっけ?8時半じゃないの?」
「いやいや、今日は始業式です。始業式と終業式の日は職員会議が1時間早く始まるじゃないですか。」

    「………しまったな。」

安堂は右手に付けた銀色の腕時計を見ながらボソッと呟いた。
現在の時刻は8時前だ。どうやら、この先生は遅刻したらしい。しかし、表情は平然としている。
「まぁ大丈夫だろ。それより、お前が次の新生徒会長候補なんだろ?」
自身の遅刻に特に関心を持っていない安堂は、違う話題を振ってきた。
「え!?そうなのお兄ちゃん!?凄いじゃん!!」
「まだ分からないよ。結局、決めるのは皆なんだから。」
裕の弱々しい一言に、未来が頬を膨らませて表情を険しくする。
「お兄ちゃんが絶対に次の生徒会長。会長なったら、何かおごってね♪」
「なんでだよ。」
2人のやり取りを隣で見ていた安堂は、おかしくて思わず声に出して笑った。
「はははっ、仲良いな。高校生の兄妹とか姉妹なんて大半が仲悪いのに。」
安堂は自然と出た言葉に『しまった』と心の中で思い、裕と未来を見て軽く頭を下げた。
「悪い……」
「いえ。両親がいないことにはもう慣れてるし、いつまでも悔んでいるわけにはいかないですから。」


 ── 裕と未来の両親は、2年前に強盗に入った男に殺された ──


突然のことで2人はあまり覚えておらず、第1発見者は宅配に来た運送会社の人間だった。
玄関で血まみれの父が母を抱きかかえるように倒れていたらしい。
2人の死因は失血死。母は首を刺され、父は背中を滅多刺しにされていた。
家の中は結構な程荒されており、預金通帳や金品は全て盗まれていた。
それから僕達は、さほど自宅から離れていない祖父母の家に引き取られたのだ。
犯人は男性ということしか分かっておらず、今も捕まっていない。
それから裕と未来の間に大きな絆というのが生まれ、2人で頑張って生きて行くことを誓った。
あの時も今日の様に、肌寒い4月に初旬だった。



  ──────────


5分ぐらい歩いた頃には、大通りの向こう側に立っている杉原高校の校舎が見えてきた。
豪壮と聳え立つ5階建ての「H」の形をした校舎。脇には今年工事が終わったばかりの体育館がある。
杉原高校の体育館は耐震工事で去年から使えず、校長曰く「セキリュティ」の工事もしたと言っていた。
「どうせ、またお金がかかった工事だよ。」
「私立ですもんね。」
3人は信号を待たず、道路に架かった歩道橋を上る。
裕が先頭に歩道橋を渡っていると、前から明らかに挙動不審なサラリーマン風の男性が歩いて来た。

   「痛って!」

         「おふっ…す、すいません!!」

サラリーマン風の男性は裕にぶつかると、頭を深々と下げて走り去って行った。
「なんだあいつ?」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「う、うん。」
3人は顔を合わせて首を傾げると、再び高校に向かって歩き始めた。


      *  *  *  *  *


『盗聴器は設置しました……それで、私はこれからどうすれば?』


先程、裕とぶつかったサラリーマン風の男性は携帯で誰かと話していた。
やけに辺りを見渡し警戒しながら、片手でネクタイとシャツを何度も整える。
『……分かりました。じゃ、じゃあ一旦自宅に戻ります。またあとで………会いましょう。』
男性は携帯の電源を切ると、なぜか左目から一滴の涙を流した。
携帯を強く握り締め、再び開くと待ち受けには笑顔の男性と女の子が写っていた。
「香奈……香奈……お、お父さんは絶対に……成し遂げるからね……」
男性は携帯に向かって呟くと、もう一度強く握り締めて、携帯を道路の溝に落とした。
携帯はポチャンと音を立て、濁った水の中に消えていった。