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Re: 森の奥の絶命図書館 ( No.1 )
日時: 2011/06/05 21:06
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: Pmy7uzC3)

森の奥の絶命図書館 〈プロローグ 出会い>
 
 夜の始まりを告げる夕方の太陽が、空をルビー色に染め上げた。どこか遠くで、烏の不吉な鳴き声が響く。そして、太陽を背に大地に根付く針葉樹は、長くしなやかな枝を四方八方に伸ばしていた。
 ——時は、一九九九年、春——。
 後に、一〇〇〇年代最後の日を迎える事となったこの年は、色んな意味を含めて、ゴタゴタしていた年だ。十一歳の少女、梨花も、そんなゴタゴタに巻き込まれた一人だった。

 梨花は、町で一番の美少女として、有名だった。
 肩までのサラリとした黒髪に、長い睫毛が付いた漆黒の目。

ちょっと、修理中です!!

奥の奥の奥の奥にある建物を目の前に、立ち竦んでいた。
この時間、昼間の暖かな日差しは、面影すらも残していなかった。
身の毛が弥立つ様な風が、梨花を追い越して行く。
思わず、自分の身を守るように、羽織った白い花柄のブラウスを握りしめた。
 きぃきぃきぃキィキィ……
冷たい風に乗って、目の前の観音開きの扉が開く音が聞こえた。
梨花は、お気に入りのフレアスカートから目を離し、その観音開きの扉に目を移した。
朱色の扉から、今にも、人が飛び出してきそうだった。
——予想は当たった。
扉から、栗色の髪をした一人の少女が覗いた。
梨花を見ても、驚いた顔さえしなかった。
彼女の名前は、聖螺。
墨を流したように黒い、彼女のその瞳は、真っ直ぐに梨花を見つめていた。
聖螺は、自分と五メートル離れた場所にいる、
梨花に笑い掛けた。
「ねぇ、こっちに来てよぅ?」
驚くほど寂しくて、それでも暖かい声。
彼女の体から出る甘い香りが、此処まで届きそうだ。
その甘い香りに吸い寄せられるかのように、
梨花の体は、意識しなくとも、勝手に動いてしまっていた。