ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 怪談話 ( No.53 )
- 日時: 2011/08/12 20:32
- 名前: 秋桜 ◆SVvO/z.cC. (ID: ueXHoJNS)
20「牢の女」(江戸時代編)←しゃべり方が変
ある男が1人、牢の見張りをしていた。
牢の見張りと言うのは、不気味さもあって到底、楽な仕事ではない。
おまけに罪人の叫び声で、眠れもしない。
でも、今回の男は肝が据わっていることで有名だった。
なんせ、一番「出る」と言われるこの牢のそばすら、恐れずにそばにいるのだから。
此処の牢には男が1人、うつむいて座っているだけだった。
何もしゃべらなければ、動きもしない。
死んでると勘違いした者はたくさんいた。
でも、一応、生きている。
呼吸はしてるのだから。
そして、丑三つ時……
男の目にゆっくりゆっくりこちらへ歩いてくる白っぽい着物が見えた。
どうやら女のようだ。
その女は、男が見張っている牢の前までやってきて、男に話しかけた。
「お侍様……主人に……合わせていただけ無いでござろうか?」
消え入りそうな細い声だった。
「牢ごしではダメなのか?」
「主人と近うではなしたい」
「勝手に牢を空けることは禁じられておる。だから、牢越しで頼む」
男が何度そういおうと、女は譲らなかった。
男はしまいには怒り、腰に刺していた刀を抜き、女に振り上げた。
「切り捨て御免!」
女は死んでいた。
女着ている白い着物は所々赤く染まり、ボタンの花のようだ。
美しい……
男はそう一瞬だが思った。
その時、ゆっくり……ゆっくり……立ち上がった。
白い目でさむらいをにらみつけた。
その顔はこの世の何よりも恐ろしい。
血の通わなくなった蝋のような顔。
髪の毛を振り乱し、その隙間から見える白の目。
うっすら口元が笑っているように見えた。
男は一瞬にして、血の気が引き……
出口に向かって走り出した。
もう大丈夫だろう……
そう思い後ろを振り向くと女が……立っていた。
———それっきり侍の消息が途絶えた。
———侍は『何を』きってしまったのでしょう。
———何故女は、牢の男に会いたかったのでしょう。
———本当に話をするためだけだったのか……それとも———