ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 怪談話 ( No.73 )
日時: 2011/08/17 12:55
名前: 秋桜 ◆SVvO/z.cC. (ID: ueXHoJNS)
参照: 元、「かりん」です

26『井戸』

「おじいちゃん!これ、何?」

小さな男の子が古びた煙突のような物を指差した。
それを見たおじいちゃんと呼ばれた人が一言。

「それは古井戸じゃ」

「古井戸?」

「そうじゃぁ。わしが小さかったころ使われよった井戸じゃ」

おじいさんは、遠くを見つめながら言った。
おそらくおじいさんの目には昔の風景が見えてるのだろう。

「何で使われなくなったの?」

男の子が無邪気に訊ねる。
それを聞いたおじいさんは少し悲しげな顔をしたように見えたが、また、いつもの表情に戻り、答えた。

「それは、ある行方不明事件が原因じゃろう」

「行方不明事件?」

「あぁ。そうじゃ。わしがまだ、小学生のころに起きたんじゃ」

「どんな話?」

「それはな……」


「今から……50年も前のことかの……わしに幼馴染がおってな。その子の名は夏子。わしらは、よく「なっちゃん」「なっちゃん」と呼んでいた物だ。そんなある日、なっちゃんがいなくなった。片方だけ、お気に入りの靴を残して。わしらは、探した。神隠しにあったんじゃないかと思い、大人たちは山神様に返してもらえるように祈った。だが、奈ッちゃんは帰ってこなかった。結局大人たちもあきらめ、なッちゃんのことは忘れ去られ様とした。だが、ある日、また、子供がいなくなった。
今度は、古井戸の近くに、その子の大好きだったショルダーバッグと、なっちゃんの靴がそばにあってな。大人たちはなっちゃんの仕業と言い、なっちゃんの両親がその井戸に落とされた。それで終ったのかもしれない」

おじいちゃんは話し終えると、男のこの方を向いた。
其処にはおらず、ただ、なっちゃんがはいていた紅い靴が残されていた。

「おい?正樹?これは……なっちゃんの靴……何故……こんな所に……」

———次郎ちゃん……

消え入りそうな声が聞こえる。

「な、なっちゃん?なっちゃんか?」

———そうよ。わたし……なっちゃん。

「なっちゃん……どうしたんだ?」

———寂しいの。みんななっちゃんに話しかけてくれない。思い出してくれない。でも、次郎ちゃんは覚えてくれていた……一緒に行こう?

おじいさんの体が引っ張られる。
閉まっていたはずの井戸が開く。
其処には4つの骸骨があった。
そして、正樹も。
そして、おじいさんも仲間入り。

これで、なっちゃんの事件を覚えている人はいなくなってしまった。





———え?何故、私が知っているかって?

それは———……