ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 「無限」∞エンジン  Akt1 Part2 更新 コメ求む! ( No.12 )
日時: 2011/05/10 20:09
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: 4.ooa1lg)
参照: 全力……全力!!全力!!!全力……オー!!YES!!!!

Part2

 市街地の入組んだ道で警察を巻いてラスノード首都カザーロスを南下し1時間程で市街地を出る。 市街地を出て,直ぐに予め用意されていた違う車に乗り換え移動を開始する。 更に,1時間程して,首都外郭を抜ける。 
 急に,風景が変化する。 高層ビル群とむせ返るような人混みに支配された何の面白みもない首都圏になれていた,セリスの目には鮮やか過ぎる程だった。 広がる風景は,美しく鮮やかで自然的だった。 高々と天を突く山々,青く澄んだ空,無限の様に広がる草原。

「目,輝いてますよ?」
「綺麗……都会って本当に汚かったんだ」

「そうですね……だから,俺達は……都会から逃げるんでしょう」

 セリスの瞳は,好奇心旺盛で無邪気な子供の様に輝いていた。 その瞳を見て,ヴァンベルンは気位が高くて天邪鬼な雰囲気だったのにと意外そうな口調で言う。
 そんな嫌味の入った言葉に,セリスは普段より高い声で何時の間にか都会の喧騒で汚れた自分が居たのだと言う事を理解した様に言った。 唯々,その声は感動を物語っていた。
 その彼女の言葉にヴァンベルンは同意する様に頷き遠くを見るような表情で言う。 能力者と知られるだけで批判と嫌悪の対象だ。 人が多くストレスを抱えやすい都会となるとソレは相当の物となる。
 そんな,暴力により正気を失う能力者は山ほど居る。 だから,逃げる事が出来る物は安住の地を求めて人の居ない場所へと,心を癒せる場所へと逃げるのだ。 ファンベルンはそれを良く知っている。

「ねぇ,ファンベルン……後どれ位でアンタの組織のボスとやらの居る場所には着くのかしら?」
「そうですねぇ……後,3時間半って所ですかね?」
 
 一頻り,周りの風景を楽しんで居ると緊張が解けたのかドッと体中を疲れが支配した。 セリスは,久しぶりに6人もの相手と戦ったので無理が祟ったのだと気付く。 
 それと同時に,高々6人の無能力者相手を蹂躙しただけでこれ程疲れるとはと,衰えている事に苛立ちを感じる。 能力を使うのは嫌だ。 否応無く,人を殺す。 しかし,能力者の本当に信頼すべきものは自らの持つアクセルの能力だ。 能力を練磨するならまだしも持続力を低下させる等,言語道断なのだ。
 兎に角,今は疲れた。 頼るに値するだろう仲間が隣に入るし眠る事にした。 恥じるのは悪くはないが無理をするのは良い事ではない。 今まで,利用できる仲間も居なかったから気を抜けなかったのだ。
 今は,仲間に背中を預けて休息を取る事も出来る。 セリスは,目的の場所に付くのに後どれ位掛かるかを問う。 察したのかヴァンベルンは仮眠を取るには十分だから安心して下さいと言う風情で言う。 安心して,セリスは目を瞑る。 ファンベルンは,その安堵に溢れた顔を見て嬉しそうに目を細めた。


「寝かせて……疲れちゃった」
「お嬢のお気のままに」

「何よそれ?」
「昔は,いっつも言ってましたよ?」

「ふふっ,長い長い昔の話ね? あの時は,純粋で綺麗だった」
「……お休みなさい。お嬢」
「うん____」
 
 目を瞑り数10秒後に彼女は,業とらしく彼女は言う。 あぁ,まだ寝ていなかったのかとファンベルンは少し驚いて,屋敷で仕えていた時の記憶を思い出していつも使っていた言葉を言うのだった。
 セリスは,一瞬瞠目する。 その表情が面白くてファンベルンは,過去を懐かしむように言う。 セリスは,今に必死だった。 過去を思い出す余裕が無かった。 過去の夢を見ようと思って夢の世界へと,意識を強める。 あの頃は良かった。
 彼女は,過去の夢へと,戻れない世界へと静かに心を移行していく。 ファンベルンは小さく挨拶をして努めて声を掛けない様にした。 
 
 思い出すのは,遠い過去の栄華を極めたヴェルトレスト家令嬢だった頃。 お金に困る事など無く,欲しいと言えば娘であるセリスを溺愛していた父は,何でも買ってくれた。 
 セリスのエンジンの充填の条件は自らで生きた人間の左目を抉り食べる事と成っていたがあれは誤りだ。 別の人間が,抉った左目を食べる事でも充填は出来る。 
 しかし,今のセリスには,自分の変りに他人の目玉を抉り,恵んでくれる存在など居ないのだ。 かつて,父が生きていた頃は,父が其れを行ってくれた。 だが,その父はもう,居ないのだ。
 彼女は,父を愛していた。 彼女の父親は,セリスに何よりも優しかった。 彼女の父の様な男と結婚するのが幸せだと,そんな風に思っていた。 

 しかし,彼女の父は事業が倒産すると,次第に追詰められ自殺した。 使用人達は,主である彼女の父が死に,何とか与えられていた金も与えられなくなる事を悟り,一目散に逃げ出した。
 冬の入りの目前で,とても寒かった事を思い出す。 あの時から地獄が始まった。 金は枯渇していたので元より屋敷も土地も何も,彼女の元には渡らなかった。 
 それが,この世界の能力者に対する仕打ちなのだ。 その事を温室育ちで世界の本質など,世界の暗い部分など少しも知らなかった彼女には理解できなかった。 だが,理解するのに時間は掛からなかった。
 それを理解できなかったら,セリスは今まで生延びられなかっただろう。 少女だったセリスは,理解すると同時に実家の有った街ケテルから逃げた。 電車に無理矢理,無賃乗車してだ。
 その後も,能力を保つ為に人間の左目を求め続け,命を繋ぐ為に残飯を漁り生きてきた。 そんなホームレス状態でも,両家の生まれのプライドを否,自分の人間としての尊厳を護る為に善人は殺めず,容姿の事は気遣い続けた。 
 服は,高価そうな物を高給取りの身勝手な女から盗んだりしたが,それも,致し方ないと彼女は思っている。 最近までの苦労と遠い過去の追憶がないまぜになる。
 戻りたい。 戻れなくても責めて,寄り添える仲間が欲しい。 誰も助けてくれなくて彼女は,何時しかそんな事すら望まなくなっていた。 しかし,神は,気紛れに手を差し伸べた。
 彼女は,その手を掴んだ。 疑念は有った。 しかし,普通の人間から見てセリスには絶大な力がある。 例え,エージェントの集団でも逃げる事は,可能だと思った。  
 
「お嬢……お嬢! 付きましたぜ?」
「3時間半って意外と短いのね?」

 眠りも深くなったのか,セリスはスースーと寝息をたてていた。 ファンベルンは,その寝音を楽しそうな表情で聞いていた。 そんなファンベルンの前に,大きな古城の様な建物が現れる。
 突然現れた建物に,然も当然と言う様にファンベルンは落ち着き払って居る。 組織の能力者により,姿を隠されていた様だ。 ファンベルンの姿を確認した能力者が能力を解いたのだろう。

 ファンベルンは,車両を古城の門の中に進めて停車させる。 そして,セリスを揺すって起した。 眠たそうに目を擦りながらセリスは起きて,もう,3時間半もたったのかと驚愕する。
 
「言いたい事は分りますよ? お嬢はそんな長い時間,安心して寝れなかったでしょうから」
「ねぇ……アンタ達のボスってどんな人?」

「変態です」
「良く分ったわ。 もう,悲しくなっちゃう」
「お嬢の寝息最高でしたよ?」

 セリスの言葉に対して,良く聞く言葉だとファンベルンは遠くを見るような目をして同情するように言う。 その言葉の中には,もう,夜眠る事に怯える必要はないと言う安心感を感じさせる物があった。
 小さく安堵の息をつくとセリスは,是から会う者がどの様な者なのか気になりファンベルンに問う。 ファンベルンは,それに対して一見適当だが,的を射ている言葉を口にする。
 セリスがボスがどの様な人物か気になったのは元はと言えばファンベルンの変人具合が原因だ。 願いが水泡と帰した事に,セリスは盛大に溜息を吐く。 それを見て,ファンベルンはあっけらかんと眠っていたセリスをじっくり観察していた事を,口外するのだった。 無論,ファンベルンは殴られた。

 ファンベルンに案内され,組織のリーダーの居る部屋へと向かう。 古城内は,相当に整備されており崩れた壁などはない。 至る所に,案内掲示板があった。 途中,何人か組織のメンバーに会ったが,新人に余り興味が無いのか全く,珍しい反応は無かった。
 暫く,歩いていると何も無いところでファンベルンが止る。 何でそんなところで止るのかと訪ねると,「直ぐに分ります」とだけ,言って掌を強く押付けた。 すると壁が突然,光り輝く。

「是は能力による物?」
「そうですよぉ? その人は,他人嫌いだから会ってくれないと思いますけどね?」

 一応の確認と言う風情で,セリスは能力による物かとファンベルンに問う。 ファンベルンは,何の否定も無く肯定する。 庇って欲しいと言う様子のファンベルンの言葉に,その人物には興味がないと一蹴しセリスは速く案内しろと促す。 ファンベルンはバツの悪そうな表情を浮かべて歩き出した。
 壁が消えて現れた通路をファンベルンは歩き出す。 壁の向こうは迷路の様だが,どうやら左伝いに歩いている様だ。 8回程,左に曲がった所で,ファンベルンは,また,何も無い壁に手をかざす。 セリスは少し,怪訝に思ったが今度は,何も言わない事にした。 
ファンベルンが,壁を強く押すと壁は重い音を立てて動き出した。

「よぉ,時間通りだな? セリス・ヴェルトレストさん?」
「私を見付けてくれて有難う御座います変態」

「ん? 俺?」
「見紛う事なき変態ですよボス?」

 その先には,難しそうな分厚い書物に右横と左横を固められた広い部屋があった。 その部屋の真ん中にある机に,1人の男が座っている。 赤い唾突きの帽子をを被った,茶の長髪に翠の瞳の飄々とした雰囲気の美男子だ。 若々しい容貌で,精々20代後半に見える。 恐らく,彼がこの組織のボスなのだろう。
 男は,着用しているジャケットの胸ポケットから懐中時計を出し,時間を確認して誉めるように言う。 それに対してセリスは,一応の苦難を共有できる仲間が彼のお陰で出来た事に感謝する。
 しかし,ファンベルンとの古城の前での会話のしこりがあるのかつい,「変態」と言う言葉が口をついて出る。 それに対して男は瞠目する。 誰の事だか分らないと言う風情でファンベルンに問うが,ファンベルンは笑って男の事を変態だと認める。

「くっ……くはははははは! 良いね,その怖いもの知らずな雰囲気,気に入ったぜ。 
俺の名は,リーブロ・ヴェイン……年の頃,こう見えて35だ。 宜しくな!!」
「…………セッ,セリス・ヴェルトレストよ。 宜しく!」

 男は暫く,手で顔を覆って沈黙して突然くっくと低い声で笑い出す。 そして,顔を上げて馬鹿笑いする。 その瞬間だった。 室内の雰囲気が,急に変ったのは。 
 セリスは,一瞬にして理解する。 目の前の男の圧倒的な実力を。 男は,繁々とセリスを見詰め,名乗りだす。 どうやら,リーブロ・ヴェインと言うらしい。 釣られてセリスも名乗る。
 相手は,彼女の素性を知っていると言う事は彼女自身分っているが,気迫に押されたのだ。

「悪いねぇ……驚かせちまったか? 
えっと,この組織に入る時一番最初にやる事が有るんだが,良いかい?」
「組織のルールの説明とかかしら?」

「そんなのはファンベルンから教われりゃ良いの」
「は?」

 恐怖から来る怯えで体が震えているのを認めたリーブロは,セリスに小さく,しかし,本心で謝る。 そして,本題を話し始める。 セリスは,長い事ならゴメンだという風情で思い当たる節を口にする。
 しかし,セリスの勘は見事に外れた。 それ所か,組織のルールなど自分が教える事ではないと言う始末だ。 リーブロの不可解な言動に胡乱下名表情をセリスは浮かべる。 
 その彼女の表情を楽しそうに観察しながら,リーブロは机の引き出しの中から大きな本を取り出す。
 
「ジャンジャカジャンジャンジャージャンジャ—ン」
「なっ何よ!?」

「紹介するぜ! 俺の友達第一号である本君だ!」
「……やっぱりエージェントって寂しいのね?」

「ぷふふっ!!」

 赤茶色の周りの本と比べると薄い本を立だ。 それを目の前にかざしリーブロは調子外れのハミングをしながら本を開いて見せた。 意味の分らないセリスは一層,怪訝そうな表情で問う。
 リーブロは,質問の根本とはずれた事を言い出す。 リーブロの言葉に,こんな馬鹿みたいな男でも苦労はして来たのかと同情するようにセリスは言うのだった。 
 事情を知っているファンベルンは,噛合わない会話に,笑いを堪えている。 リーブロの能力などセリスは知る由も無いのだからこの光景は当然なのだが。 

「いや! 断じて違う!! 断じて違うぞ!! 俺は,この美貌ゆえ禁じられた恋を幾つも!」

「本題に入れ」
「だせぇ……ボス,だせえぇぇぇぇl!」

 寂しい奴呼ばわりされて,腹が立ったのかリーブロはオーバーリアクションで自分は寂しい奴ではないと主張しだす。 その動きがまた,鬱陶しくてセリスの神経を逆なでする。
 セリスは,遂に我慢の限界を迎えたのかリーブロを殴る。 リーブロは,「へぶち」と訳の分らない悲鳴を上げて椅子後と倒れこんだ。 それを見たファンベルンはとうとう,笑いを堪えきれず爆笑する。
 この後,ファンベルンも殴られたのは言うまでも無い。

「で,結局この本が何なの?」
「……ふぅ,内容を良く読んでみ?」

「是って……エージェントの名前と能力? もしかして貴方」
「そうさ……俺は,能力者の中でも道具を媒介として能力を発動させなければならない稀有な存在なんだ。 そして,俺の能力の媒介はその本君で……能力は,アルティメットライセンス(究極の力)。 
他者の能力を自分で使用する事が出来るって奴だ」

 セリスは倒れたファンベルンとリーブロが復帰するのを待ち,立上ってきたリーブロにセリスは直ぐに質問をした。 気の短いセリスは,話が進まず苛立っているのだ。
 それを,楽しそうな笑みを浮かべてリーブロは見詰ながら,本の内容を読めと自分の目で確かめろと促す。 セリスは,何時も笑っているリーブロに不信感を感じながらも本に目を通す。
 その本に書かれていた内容は,格エージェントの能力と名前,そして,生存履歴だった。 唯のデータブックにも見えるがそれなら何故,エージェントのエンジンについてなどは記載されていないのか。 セリスは唐突に理解する。 リーブロの能力を。
 
 驚愕とした表情でリーブロを見詰め確認する。 すると,リーブロは素直に答える。 ある一定条件を満たしてこの本に他のエージェントの能力を記載させる事によりその能力を得られると言う物。
 無論,幾つかの制限があるのだろうが是は恐ろしく強い事は理解できる。 何せ,普通のエージェントなら1つしか持てない筈の能力を幾つも,有しているのだ。 
 こんな男が,ボスならどんな敵が来ても生延びられる。 助けて貰える。 セリスはそう,思った。

「私は何をすれば?」
「この本の掌の形をした部分に手を……そして,名前は良いから,能力名とランクを言ってくれ」

「分ったわ。 能力名はエンジェルビーツ(一陣の風)。 そして,ランクは5よ」

 今までに無い安堵感,今までは,殺伐としていて努めて心を閉ざしていたが是からしばらくは,例え彼等が偽りの仲間だったとしても以前と比べれば幸福な生活が送れるだろう。 
 長い間,孤独の地獄を経験してきた彼女には,想像するだけで胸が躍るのだった。 先程までとは違う,少し柔和な表情でセリスはリーブロに問う。 するとリーブロは,本を静かに畳み裏表紙を見せる。
 そして,裏表紙の手形に手を当てて能力名とランクを言えと促した。 セリスは言われるままに,本に書かれている手形に手を当て,リーブロに質問された事を言う。
 ちなみに,能力名とは,エージェントが名前をつけるわけではない。 頭の中に,能力が発言した瞬間に,響き渡るものだ。 その能力を如実に現すものから,全く関係無い物まで様々だ。
 ランクと言うのは,エージェントの能力の位階の事を現す物だ。 エージェントを危険視する政府の者達の規定する危険度と大きな差異は無い。 
 ランクは,Lv0からLv8の9段階で評価される。 Lv0が最も低く,無能力者即ち,通常の人間。 Lv1からLv2辺りは,戦闘力と言える戦闘力を有する物は居ない。 Lv3からが攻撃力を有するものでLv3は拳銃程度,Lv4はバズーカ砲級。 セリスの位置する,Lv5は戦車級と言った所だ。 ちなみに,Lv6とLv7の間には大きな差異があり,良くLv6が小組織ならLv7は国家だと言われる程だ。 尚,最高ランクであるLv8は,世界に10人しか居ないと言われている。
 
「記憶したぜよお嬢さん?」 


 言われたとおりに彼女が,能力名とランクを言葉にする。 すると突然,本が喋りだした。 特徴的な喋り方で,脳内に響き渡るような声だった。 恐らくは,この本自体がリーブロの能力の副産物だ。
 エージェントの中には稀に,常に能力の発動現となる武器を具現化した状態で持ち歩くものが居る。 能力により武器及び道具を具現化する能力者は少なくは無い。 しかし,それを随時,外に出した状態に出来る物は少ない。 それは,能力をそれだけ使いこなしエンジンの許容量が大きいと言う事に他ならない。
 詰り,単純にリーブロは強い。 同じ,エージェントして尊敬の念をセリスはリーブロに感じていた。

「本が喋るとか……驚いたろ?」
「えぇ……喋る道具を持つ能力者は始めてよ。 凄いのね貴方?」

「どう致し」

「何!!?」

 しかし,何よりセリスが驚いていたのは,道具と言う媒介に意志が有る事だった。 普通は,道具に能力が付加された物はあっても,道具に意思が有る事は無い。 意志が有るのは道具ではなくてアクセルと言う能力だからだ。 是についての詳しい事は後々,話すだろう。 
 リーブロに賛嘆の念をセリスは述べる。 その瞳は,年不相応の子供の様な純粋な輝きを浮かべていた。 その表情は,リーブロにとってとても魅力的だった。 リーブロにとって先程までのセリスの表情は,何か寂しくて儚かった。 
 そんな表情も,女の持つ表情と嫌っては居なかったが矢張り,陽気な彼にとって何時までも見ていたい物ではなかった様だ。 リーブロは,彼女の言葉に有難うと返答しようとする。

 だが,彼の言葉は突然の巨大な音によって掻き消された。 緊急事態を告げる警報だ。 瞬間,緊張感が走る。 何が起ったのか,事故か,侵入者か……不安が,体中を支配する。


「侵入者……侵入者! 尚,侵入者は1名」

 異常事態の正体は侵入者だった。 次に疑問が湧くのは何者でどれ程の規模かと言う事だが,何と侵入者は1名らしい。 唯の馬鹿か,セリスは大した問題じゃないじゃないかと安堵する。 しかし,1名と聞いた瞬間のリーブロ達の反応が可笑しい。
 たかが1名に対する動揺ではない。 言うなれば,1人で進入して来る強者を知っていると言う様子だ。 不意に,巨大な不安がセリスの脳内を支配する。 それは,たった1人で組織を壊滅させられるような怪物が進入してきたと言う事だ。 少し緊張した声で,アナウンスは続く。
 

「侵入者は,外見的,身体的特徴から世界政府専属異能狩りのリーダー赤沼幽人と目されます!」

 リーブロは,その名前に悪い予想が当った時の様に,しかめ面をする。 セリスにも赤沼と言う存在に対しては,聞き覚えが有った。 能力者ランク8の世界政府の最強の駒,インテルの5人のうちの1人だ。 その5人の中でも最も,残忍で強いと称されている男でもある。 




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