ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 無限エンジン Ep1 Akt2 Part2執筆中 ( No.41 )
- 日時: 2011/06/23 19:42
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)
Part2
「あのさぁ、思ったんだけど態々、車で行かないでリコイルさんのテレポートで移動したら……」
セリス達は、基地の車庫から車に乗り移動をして居た。 以前、古城から逃げる時に使ったのと同じ車種。 否、同じ車両だ。
ファンベルンが運転手で助手席に、彼女が乗っている。 そして、その後部座席に、リコイルが乗っていた。
彼女は、道程が長い事を予想してボソッと愚痴るように言う。
それは、傍から見れば確かな事だった。 それに対して、後部座席に乗っていた女性が答える。
「そうね、セリスちゃんの言うとおりって言いたい所なんだけどね?」
そう、前置きを述べて彼女は、顎に手を当て思案げな表情で語りだす。
「でも、私のテレポートは、直に、その場に行って確認した場所へじゃないと移動できないのよ。
地図等で座標を知れば、瞬間移動出来る事が出来るタイプも多いのだけれど……私には不可能ね。
唯、私の場合は、目視できる範囲内なら他のテレポート能力者とは比べ物にならない程の速度での空間移動が可能なの。 普通のテレポート能力者は、場所を限定してその座標に移動するのに十数分、時間を要するわ。 短距離でもね? でも、私の場合は、短距離なら一秒以下のタメで連続で移動する事が出来る。
必然、相手の攻撃を回避し易く、そして、後ろを付き易いわ」
彼女は、自分の能力と他のテレポート能力の差異を明瞭に説明していく。
他のテレポート能力と比べ戦闘に特化したタイプと評価できる様だ。
テレポート能力者は、絶対に、能力を発動する時に体の炎の色の濃度が上昇する。
その時間が、長いと言う事は、相手に警戒心を与え反応の時間をやる事になる。
このことから、常識的に考えてテレポート能力は、能力者同士による一対一の正対時での戦闘では、不利になる。
暗殺や移動要因となる事が多いが、彼女の場合は、相手を巧みに翻弄し一対一でも良い戦いが、出来るようだ。
更に、彼女の続ける言葉から察するに、彼女は実は、トランスポート能力も有しているらしい。
詰り、自分は移動せず他人を飛ばしたり、爆弾や岩石を移動させたり出来るらしい。
これもまた、彼女の移動能力者としては、破格の戦闘力の高さに繋がる要素である。
「成程、詰り貴女の能力は、有る程度、敵本拠地の近くに、行かないと効力を発揮できない訳ね」
「そう言う事になりますね?」
彼女の言葉に納得し確認のために、セリスは、聞きなおす。
リコイルは、彼女の言葉に多くは語らず首肯しながら肯定の言葉を述べた。
「ってことで、お嬢? 他に、質問は……?」
「何時間位で着くかしら? その間に、奴隷扱いされている人達が死ぬ可能性は?」
リコイルとセリスの会話が、一応の終了を迎えたことを確認してファンベルンが、今度は、セリスに話しかける。
セリスは、彼女の問いに双眸を細めて抑揚に欠ける声で答える。
彼女の危惧は、最もだったが、ファンベルンは、それに対しては問題ないと答える。
理由は、目的の遂行までは、彼等が生かされることは明確でその目的の遂行の前に、現地に到着できるからだ。
彼女は、更に質問を続ける。
次の質問は、どの様に情報を入手しどうやって労働させられているエージェント達に知らせるかだ。
恐らく、この作戦内で最も重要なことだ。 リコイルのテレポート能力で、敵地に乗り込んだ所で情報が其処に無い可能性だって有るだろう。 そもそも、彼女からすれば利用されれば不利になる情報など直ぐに消されるだろうと思えた。
しかし、運転席に座る彼女の言葉は、それを否定する。
先ず、国家が、世界政府からエージェントを雇っているのなら、間違いなく何の為なのかを提言する映像記録と録音機録が、保管されるからだ。 理由は、幾つか有るが、最も大きな理由は、記録がなされていないと今後の経営などに支障がでるからだ。
エージェントを使った不正事業は必ずばれる。
だが、エージェントの家族が彼らを、売ったことが証明されれば、法律上それは、不正とはされない。
それは、一重にエージェントが、一般人の所有物として扱われている事の証明だった。
多くの家庭を持つエージェントは、それでも国家の気紛れの低所得者への慰みを受け取られずにはいれれない。 彼等の家計は、基本的に火の車だ。 当然だ。 多くの会社は、エージェントを恐れエージェントを弾圧する。 エージェントと言うことを隠し通すことは不可能だ。 だから、多少怪しかろうが、国家の安全案に従うしかない。
本当に、払われるかどうかも分らない資金を目指して。 払われる可能性が零では無いから。
「成程、絶対に、情報は近場に保管されているって訳ね?」
そして、大概のエージェントへの抑止のための慰安行為は、一部著で行われる。
エージェントを監視するために部著は、多くの場合、エージェントが活動をしている場所の近くに設置される。
それらの既成証拠から間違えなく情報はあり、その情報を争奪する手順が目的になるとの事だった。
リーブロの政府が、労働者達の弱みを握っていない云々は実は、どうでも言い話の様だ。
自分達、エージェントとしては一応のエージェントに厳しい政治に従った計画よりも完全な糾弾行為の方が、腹立たしく、炊き付け易いと言うだけの話だった。 彼女自身、彼の話を聞いていた時は、苛立ちを隠せなかった。
その目的もファンベルン曰くリコイルが居れば容易いとの事だ。
多少の安堵感を覚えたのか、彼女は、押し黙り周りの風景を見回した。
そこには、万年雪を被る高い峰々が並んでいて美しかった。 都会では淀んでいた空が、澄み渡っていて美しい。
「お嬢! まだまだ、安全地帯ですし格好良い音楽でも聴きながら夢の旅をしてみませんか?」
「気が利くわね? じゃぁ、シャンソンなんて有るかしら?」
安どの表情が前面に出るセリスの顔をファンベルンは確認する。
そして、彼女は、今の間は、リラックスしていて良いとセリスに言う。
彼女は、ファンベルンの好意にあやかり、聞きたい歌を注文する。
彼女は、ハンドルから片手を離し慣れた手つきでCDを取り、投入する。
心地良い音楽が、車内を包み込む。 セリスは、目を細め長い間、無縁だった安息に身を任せる。
そんな頃、ザオの国境線では過酷な労働に喘ぐ能力者達が多数、居た。
茶色の短髪の若者が、不満を漏らす。 それを聞いた見回りの男が鞭をふるう。
能力を使えば、容易く回避或いは、反撃できるが回りにエージェントが居るため反撃も出来ず唯、その一撃を受ける。
痛撃が、彼の体中を走る。
茶髪の若者は、倒れこみ叫び声を上げるが、そんな彼に容赦なく男は、更に鞭を振るう。
周りの人間達は、助けたくても助けられない。 己が、家族が大事だから。
彼等は、自分だけなら死ぬ覚悟が有る。
しかし、エージェントを妻、或いは夫に持った物は異端として扱われると彼等は認識していてそれは、詰り、能力者と言う蔑視される存在を包み込んでくれた存在が、人質に取られるように彼らには映った。
すなわち、彼等は、不確定な見返りと確実な人質を取られている感覚を持っているのだ。
「くそっ……本当の力を発揮できれば」
「諦めろ……拠所を確実に失う」
鞭を持った男が立ち去ると域を荒げながら短髪の青年は立ち上がる。
そして、舌打ちをして彼は、悲嘆の念の篭った声で、怒りを口にする。
近くに居た壮年の角刈りの男が、彼の肩に手をあて折角手に入れた平穏を手放したいのかと諭す。
怪物扱いされ長い間、排斥され孤独の人生を送ってきた彼らにとって結婚を承諾した相手は稀有な存在だ。 彼等は、気付けない。 利用されているとしても。
「孤独よりは、マシだ……」
彼等は、知らない。 貧窮に倦怠感を感じだ愛した者達が自ら達を売ったと言う事実を。
そんな事は知らずに、将来への探訪のために不確かな資金源を目指し戦うしかない。
それは、セリスの所属する組織のボスにとって何とも許しがたく滑稽な姿だった。
そんな、行動を制限された彼らを救うべく彼女達は、戦いの舞台へと自らの体を進める。
彼等の体は、痛め付けられるが殺されはしない。 彼らは召集されたからには、事業の終了まで働かされる。
一人でも欠けたら大きな痛手だ。
しかし、体に一生残る傷を造るものも居れば大きな心身の損傷を来す者も居るだろう。
時間は有るが、決してモタモタしていて良い訳ではない。
だが、幾ら急いでも限界は有る。 運転手である燕尾服の女は、安全運転を心掛けながらも最短ルートを走る。
高速道路に乗り、ギアを五速へと入れ替え彼女は、速度を一気に上げる。
前に居た、遅めの車両を一瞬にして追い越していく。
後ろを見れば、見る見るうちに抜かされた車は、引き離され小さくなっていった。
高速道路だ。 周りだって遅く走っているわけでは無い。 速度を出せる場所で出せる限りの速度を出している。
それは、この任務に、運転手であるファンベルン自身が真面目で出来る限り速く移動しようと心掛けている証拠だ。
高速道路の脇は、人家はほとんどなく、大自然が広がっていた。
青々と生い茂る林と草原、草原の中にポツリポツリと色取り取りの花が咲き乱れる。
任務では、恐らくは血を見ることになるだろうとセリスは考える。 せめて、今の間でも痛みから目を背け英気を養おう。
彼女は、出足を鈍らせないために、おな時世界に翻弄されるエージェント達を少しでも確実に救いたいがために心を休める。 車を運転する相棒の選んだシャンソンに耳を傾けながら。
「お嬢! 起きてください! お腹ヘリヘリでしょう?」
そんな、彼女の耳に聞きなれた声。
何時の間にか、眠っていた様だと彼女は実感し目を覚ます。 すると、ファンベルンは、ドアを開け外に出た。
どうやら、パーキングエリアの様だ。 車両に設置されている電子時計を見ると時間は、十二時を周っていた。
取敢えずは、此処には、食堂も設置されているようなのでここで、食事を取るつもりだろう。
三人は、夫々、近場の席に座り食事を取る。
リコイルもファンベルンもイグライアスの中では、幹部級だがなぜか、顔写真などは公開されておらず自由に、普通の食堂で食事を取れる。
夫々、好きな物を選ぶが、セリスだけは、新人だからと自分を律して安価な物を注文する。
彼女の注文品が来ると同時に、ファンベルンが遠慮しなくても良いのに、と微笑する。
そんな彼女に対しセリスは、ツンケンした態度で別に遠慮した訳じゃないと応じた。
一通り、食事を済ませトイレに行き休憩して一時位に彼女等は、車に戻る。 中は、外気の影響もあって相当に暑くなっていた。 暑いのが特に苦手らしいリコイルが、ファンベルンに早くエアコン入れてと命令口調で言う。
命令された彼女は、憎まれ口を叩きながらエンジンを掛けエアコンを全開にした。
クリーンな限界まで騒音を抑えた音と同時に、心地よい風が、吹き始める。
彼女は、皆がシートベルトを着用したのを確認すると車を発進させる。
車が発進してパーキングに設置されているガソリンスタンドで燃料を供給した後のこと。
後部座席に乗っていた女性が、奇怪な行動を取るのがミラーに映る。
彼女は、自分の膝に洗面器を置き胸ポケットから、ナイフを取り出した。
取り出したそれを彼女は、流麗な手つきで自らの右手首へと近付ける。
それを見ているセリスは、固唾を呑んで何をする気かを見守る。 予想は出来た。 しかし、覚悟が足りなかった。
彼女は、何の躊躇いもなく自分の右手首に切り傷をつけた。 良く見ると大量の切り傷が有るのが分る。
手首からは言うまでもなく夥しい量の血が出血していた。 セリスは、手で口を覆った。
その行動を傍目から見ていた運転手の女が、思慮深い表情を造り弁明するように言う。
「別に彼女は、現実から逃れたいとかでリストカットしている訳じゃないですよ?」
人前で平然と行って見せるのだからそれは、分るとセリスは、両目を細める。
右手首から血を流さなければならないなどと言うエンジンの条件が有るのだろうと容易く考察できる。
しかし、それでも他人が、自らの体を傷つける様を見て気分が良いはずもなかった。
血は、見慣れているがそれは、戦場での話であり日常の場でも普通に流血されるのはやりきれなさが有るのだ。
特に、彼女の様に自らの体を自らの手で傷つける行為は吐気を覚える。
ファンベルンの話によれは、生粋のトランスポーターで有る彼女の弟も似たようなエンジン条件を持っているらしい。
彼の場合は、左手の様だ。 顔面を蒼白とさせセリスは、悲嘆的な表情をして黙り込んだ。
暫く、沈黙が続く。 是で、組織で顔馴染みとなった面子のエンジン条件は一人を除いて理解したことになることに彼女は気付く。
残りの一人は、今、車を運転している彼女の左横に居る女だ。 気になる。 意を決して彼女は聞いて見ることにした。
「あのさ……ファンベルン? アンタのエンジン条件って何なの?」
「あぁ、お嬢には言ってなかったですね。 俺のエンジンの条件は、愛した人とイチャつくこと……ですよ?」
間を見計らうように、周囲を見回し深呼吸をしてセリスは、ファンベルンに問う。
すると、彼女は、少し考えて楽天的な口調で話し出す。 そのエンジン条件にセリスは怪訝に眉根を潜める。
愛した人とは、異性で有るべきはずだと彼女は思っている。
ならば、彼女は常に、男性と任務を共にするのが多いべきではないのか。 思案している内に彼女は、一つの解にたどり着く。
もしかすると直ぐ横に座る女は、同性愛者なのでは無いかという懸念だ。
それならば、ファンベルンが、彼女をパートナーにするのも頷ける。 彼女は、背筋を氷塊が伝うような感覚に襲われた。
そして、それは、間もなくリコイルの言葉により判明する。
「あぁ、何か、問答しているようですので言っておきます。 貴女の懸念は正しいです。
貴女が、ファンベルンのパートナーに選ばれた理由は、貴女が彼女に愛されたから……詰り、彼女は同性愛者です」
「あぁ……やっぱり」
彼女の言葉に、矢張りかと杞憂であれば良いのにと願っていた事が当りセリスは深く、落ち込んだ。
それを見たリコイルは、落ち込む彼女を慮ったのか優しげな言葉を掛ける。
ファンベルンは、マゾフィストだからそれ程、自分から恐ろしい事はして来ないから大丈夫だと言うのだ。
彼女のズレた慰めに、一抹の不安を感じるセリスが其処には居た。
————人間暦二千十四年七月十三日(藍曜日) 十一時二十分
セリス達は、目標のザオの国境線付近へと到着していた。 此処からは、国境線での検問があるため車での移動は、困難になる。
彼女等は、高速道路を降り山中に車を止めリコイルの能力により車両を基地の車庫へと移送させてから、移動を開始する。
国境線付近、裏事業を行っている場所の付近と言う事もあり森林内には、幾つものトラップが仕掛けられている様だった。
中には、武装した兵士の姿も見受けられたりしていたが、多くは、交代の時間の只中ゆえか少し気が緩んでいるようだった。
その気の緩みを利用して気付かせずにアクセル「クールドライブ(安全走行)」を発動させリコイルのテレポーテーションで確実に移動していく。 拍子抜けするほどにあっさりと林道を通過する事が出来た。 通り抜けた先には、山を貫通させるために労働するエージェント達とそれを支配する見張りの者達。 そして、司令塔がそれらから百メートル程度離れた先に設置されていた。
「あの塔の何処かに情報制御室が有るはずです。 其処を発見すれば此方の者です。
雇われている政府直属エージェントのレベルにも多少はよりますがね? あの塔へは、私が一人で侵入します。
その方が動き易いので……貴女方は、私が戻ってくるまで敵に発見されないようにお気をつけて!」
塔を指差しリコイルは、冷静に全容を見詰めて言う。
そして、その作戦は、彼女一人で行うとのことだ。 二人は、唯、彼女の言葉に頷きテレポートで移動する彼女を見送った。
そして、相手に見付からないために、セリスの能力で周りを囲い相手から自分達が、目視できないようにした。
リコイルが移動した場所は、通路だった。 彼女は、目で見た場所にしか移動する事が出来ない。
詰り、外観を確認しているときに窓を通して見えた通路だろう。
向かいの通路から足音が聞こえてくる。 声は、高めだが男のようだ。
独り言の内容からどうやら、交代時間を迎えて休憩室に移動する途中のようだ。
彼女は、その対象の視界に入る前に後ろへと移動し探検をソッと添える。 男の有する通信手段を取って。
「御機嫌よう」
「てめぇ…………侵入者!?」
見たことの無い顔の女に怯えながら男は、問う。 通信手段も取り上げられ急所に武器を添えられている。
叫ぼうとしてもその前に殺される。 男は、内心、体中の水分が沸騰するほどに怯えていた。
「情報処理室は、何処かしら?」
「ハッ! 言われて教えるかよ? って言うか、言わなきゃ殺さねぇだろ! 黙ってりゃ俺の……————」
何の悪びれもなくリコイルは、男に単刀直入に問う。 男は、当然のように沈黙を選択する。
自明の理だ。 情報を聞き出したいのなら情報を聞くまでは殺せないはずだ。
そして、此処は、侵入者で有る目の前の女にとっては敵地。 ましてや、交代時間で人物の移動が激しい時間。
彼から見たら彼女にとって不利なのは明確だった。
しかし、男の言葉に呆れたような視線を送り彼女は、あっさりと男の喉笛を切裂いた。
鮮血が舞い上がり男は。ゴトリと音を立てて倒れこんだ。
ヒューヒューと苦しそうな息遣いをしながら、喉笛を斬られ喋る事も許されず血が気道に溜り息をすることを困難にしていく。
男は、命乞いをするように、大粒の涙を流して息絶えた。
『急がないといけませんね。 彼が、時間が立っても来なければ休憩室の同胞が疑念を抱くでしょう。
それに、いつまでも連絡が取れなければ死体を発見されることになるのは明白……また、足音』
男を殺した事により進入がばれる事を畏れた彼女は、先を急ごうとする。 逡巡していた瞬間、足音が聞こえる。
今度は、向かいの廊下からだ。 どうやら、女性のようだ。
彼女は、瞬間移動し男と同じ様に通信機器を奪取し喉にナイフを添える。
「何……えっ!?」
「彼のようになりたく無ければ教えて欲しい事が有るの」
突然、あらぬ方向から添えられたナイフに、女は心底驚き歯軋りをする。
歯軋りをしながら目を前へと遣るとそこには、顔見知りの同士の無残な姿と血ダマリが有った。
一瞬、絶叫しそうになるが絶叫などしたら殺されると理解し彼女は、ビクビクしながら言う。
リコイルの左手には、嘘発見器が握られていた。 嘘はつけない。
「此処を、曲がって上の解へ進む階段を進んで……
三階程移動して、右に四回……左に二回、右に一回そして、最後に左に二回曲がれば其処よ。 お願い……お願いだから、助け……」
「失礼、気が変りました」
嘘発見器により嘘で無いことを確認したリコイルは、彼女の慟哭を聞き入れる事は無く、喉を切裂いた。
凄惨な血の海が広がった。 彼女は、冷然とした目でそれを見詰め祈りを捧げ移動した。
案の定、その入り口は重要らしく、厳重な扉で護られ他の見張りとは武装が違う兵士が、仁王立ちして居た。
しかし、それは、予測の範囲内だ。 彼女は、懐から透視眼鏡を取り出し中の状況を確認する。
どうやら、余り大金を掛けれる事業ではなく透視眼鏡対策などはされていなかったようだ。
彼女は、安心しオペレーターの男の元へと移動する。 そして、いつもの様に男の首筋に武器を添える。
「殺して情報を奪っても良いのだけれど」
「なっ! 何の情報が欲しいんだ!?」
脅迫するようにリコイルは、言う。 事実、ハッキング技術に優れた彼女なら可能な事だ。
彼女は、裏の世界では有名だ。 裏事業のオペレーターを任せられる程度の存在なら大多数が知っている。
男は、逃れられない事とこの事業の失敗を悟り自分の保身のために情報を提供する事を決めた。
政府の目から逃げながら生きなくてはならなくなるがそれでも死ぬよりはマシだと思ったのだろう。
彼女の言った情報全てを提示する。 事業の始まりは、家族がエージェントを売ったと言う事実。
それの暴露を彼女は男に命じる。 男は、唖然とした表情をするが躊躇いは無く、エージェント達の鬱積とした怨念に火をつけることの出来るその情報を拡声器にて流した。 それを聞き取ると同時に、彼女は、男をトランスポートさせる。
男をトランスポートさせた場所は、塔の天辺に有る電波を受信するための細長い針だ。
男は、当然、体をその針に貫かれ絶命した。 彼女は、瞬間移動し仲間の下へと移動する。
「だって、彼と居ると周りからいやな目で見られるしお金は手に入らないし! 最悪ですよ!
お金になって死んで帰ってくるなら万々歳ですね」
その声は、労働を行っているエージェント達の耳に、響き渡った。
全ての希望が破壊されたようでエージェントたちは途方にくれていた。
其処に、リコイルのテレポートにより彼等の元に、三人は降り立つ。
そして、告げる。 嘘だと信じたくて疑念を抱く者達にあれは、国家の隠した事実で有る事を。
周囲が、動揺する。 突然、現れた謎の三人の女達に、鞭を振るう看守共は一瞬、瞠目するが、直ぐに我に変える。
そして、通信機によって直ぐに、雇ったエージェントに援軍の要請をする。
「さぁ! どうする! 此処で裏切られた事実を知って死ぬか! 戦って未来を勝ち取るか選べ!」
焚付けるようにファンベルンが、身振り手振りを交えて言う。
もう直ぐ、エージェント達が来る。 通信塔に異常有りと報告を受け向かっていたエージェント達が戻ってくる。
それに対し、茶色の短髪の若者が奮い立つ。 鬼の様な形相で黒い炎を巻き上げアクセルを解放する。
「エンジン解放! ラーバベルゼス(炎の爪)! 俺は、戦うぜ! あれは、俺の妻の声だった……」
自分の妻に裏切られたと理解した茶色の短髪の男は、容赦なく近くに居た看守を手に装着された炎の爪で切裂いた。
看守は、声を上げる事も無く鮮血を虚空に撒き散らし倒れこみ燃え尽きた。
「他に戦う覚悟が有る奴は……」
ファンベルンが、周りを見回しエージェント達に問おうとすると皆、既に臨戦態勢に入っていた。
是なら、上手く逃走出来ると安心した彼女だが、それは、直ぐに水泡と帰した。
突然、響き渡たった甲高い男の声によって。
「……どうかしたの? この声が何か?」
「まさか、こんな所にインテルのメンバーが……」
インテル、すなわち政府最高戦力。 その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍り付くような感覚にセリスは襲われた。
インテルのメンバーの一人には、既に会っている。 赤沼幽人だ。
そして、是で二人目だ。 一週間も経たない内に二人ものインテルに遭遇するなど、悲運と言うほか無い。
恐る恐る声の聞こえた方向を見据える。
其処には、金のオールバックに整えられた長髪の歯並びの良い鮫の様な鋭い瞳のスーツ姿の男が居た。
背中に背負った男の身長を超える巨大な両刃の斧が目立つ。
「よぉ、イグライアス諸君。 上手くいったと思っていたか?」
男は、凄絶な笑みを浮べアクセルを解放させる。
炎の色は紺碧。 立ち込める炎の量により能力者のレベルは有る程度理解できるとされる。
その男の紺碧の炎は、膨大で空へと巨大な柱を造った。 絶望的なほどの隔たりが其処には広がっていた。
絶望的な逃走となるだろうとセリスは肌で感じていた。
『何よ……何で最初の任務でこんな死線を経験しないといけないのよ!?』
彼女は、心の中でリーブロのことを深く恨んだ。
Part3へ