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Re: 「無限」∞エンジン  Akt1 Part1 更新 コメ求む! ( No.7 )
日時: 2011/09/02 18:24
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
参照: 全力……全力!!全力!!!全力……オー!!YES!!!!

 地球から何万光年も離れた場所,地球と似たような大気構成を持った惑星が有った。
 文明のレベルは地球で言う21世紀と同等程度。 面積は,地球より僅かに大きい程度。 詰り,地球に近い惑星であると言う事だ。 
 此処で,この惑星の説明を少ししておこう。 大陸は中央の大陸フェルア大陸を中心に東西南北に2つずつ,詰り9つ。 国の数は中央に40国,東に35国,最も大きな区分である西に52国,南に44国,最も小さな区分である北に28国の全199カ国である。 
 通貨単位は世界共通でヴェル。 1ヴェルは日本円にして10円となる。 言語は世界共通言語としてシノリア語と呼ばれる言語が使われている。 そして,暦は人間暦と言う地球の西暦に似た暦を使っている。  曜日に関しては月曜日に当る紅曜日,火曜日に当る黒曜日,水曜日に当る青曜日と言った具合に夫々,色の名前を冠している。 曜日は地球の暦と同じで全部で7つ有るようだ。
 
 惑星の名は「ベルセム」。 物語は,この世界で繰り広げられる。


 「無限」∞エンジン  〜Ep1〜 Akt1 エンジン解放 Part1


 

 ____人間暦2014年7月12日(黄曜日) 14時15分  
 この星の北部にある大陸の中の2つの内の1つであるガルサー大陸。 9大陸中,中央に位置するフェルア大陸の次に高い技術力を持った国だ。 その大陸で最も栄えている国,ラスノードの首都カザーロス。 
 7月,それは正に,日の光が雨の様に降り注ぎ大地をジリジリと焼くような炎天下が続く夏の盛り。 北国の者達が最も,苦手な季節だ。 夏の暑さから逃れようと1人の女が,路地裏を足早に歩く。 
 薄紅色の綺麗な長髪の20代程度の色白の美人だ。 女を高層マンションが日差しから守る。

 しかし,矢張り暑い事に変りはなく女は,小さく愚痴を言う。 その時だった。 女の直ぐ横の,曲り角から現れた4人の男達が立塞がる。 男たちは殺気立っていて,唯ならない雰囲気だ。 更に,女を逃さない様にと2人の男が退路を断つように後ろを固める。 恐らくは,最初から付けていたのだろう。 狭い路地に女が入ったので好機と踏み,挟み撃ちにしたという所だ。
 女は,6人を見回して怯えた様子もなく小さく嘆息する。 どうやら,女にとっては日常の様だ。 女は落ち着き払った雰囲気でペットボトルの水を口に含み飲み込む。 そして,挑発的な瞳で男たちに向き直る。
 
「君達ィ? 女1人相手に大の男が複数ってプライドはないのかな?」

「黙れ魔女め!! その姿には騙されんぞ!
貴様を殺して貴様の首を我等が偉大なる母の墓前に捧げる事が我々の最大の誇り!!」 

 女は,男達をネチネチとした口調で挑発する。 男の中心人物と思しき中央に居る男が,声を荒げる。 どうやら,男達は,女に大きな恨みが有る様だ。 
 語調が次第に強くなり,目が怒りに満ちていく。

「OK,OK……良く言った。 死のうか?」
「させるか……よおぉぉぉぉ!!!」

 その様子を見て男達は,復讐心を自分にぶつけているのだと確信して,女は殺す事を宣言する。 自分に降掛る火の粉を払い落とすなら,正当防衛だろうとその目は言外に言っていた。
 男達は,その瞳と女の発する圧倒的な殺気に恐怖し悲鳴を上げるが,すぐにまた,頭は怒りに支配され銃を構える。 女は手ぐすねを引いて体全体に力を入れ始める。 危険を感じたのか男のうちの1人が引き金に力を篭める。
 そして,その一瞬後に引き金が引かれる。 その瞬間だった。 女の体から紅い湯気の様な物が顕現したのは。 女はその湯気が出た瞬間に勝ちを確信したのか,愉悦に歪んだ表情を見せる。


「エンジン解放____」

 銃弾は,地面へと無機質な音を立てて落ちた。 男が引き金を引いたのは余りに遅かったのだ。 紅き湯気の正体,それは,この星に住む者達の中の僅かな人間,凡そ10万人に1人程度が発生するとされる力,アクセルだ。
 そのアクセルを行使するのに,必要なのがエンジンと呼ばれる力の根源だ。 エンジンは人夫々,一様に違い性的欲求を伴う行為から得る場合や物欲から得る場合等様々だが,多くは何らかの行為を行う事によって得られる様だ。 エンジンが蓄積されていなければアクセルを解放する事は出来ない。
 アクセルの行使者達は「エージェント」と呼ばれ人智を超えた特殊能力を有する。 その力は,当然悪用も出来,種類によっては完全犯罪や大量殺戮も可能だ。 

 それゆえに,彼らは恐怖と差別の瞳で一般人たちからは見られる。 古い書記には魔女狩りの如く,無抵抗なエージェント達を公開処刑していた事が記されている程だ。
 それ程にエージェント達は危険視され実際,強大な力を有していた。 強力な者になると現在の兵器など遥に上回るのだ。 今となっては逆に,その圧倒的な戦闘力を欲し,多くの国家が,エージェント達を雇い特殊部隊を設立している。 無論,政府の意向に従わないフリーなエージェント達も居る。
 それらの多くは危険人物の対象として扱われ少し,目に付く様な行為を行うと直ぐに賞金がつけられ捕縛或いは処刑の対象となる。 そんな彼らには,息苦しい世界だからこそか。
 彼らの中には,その圧倒的な力を使い自分達,エージェントの楽園を造ろうと,妥当世界を目論む者達が居る。 彼女,セリス・ヴェルトレストもそんなエージェント達の1人だ。
 
 相手は,恰幅の良く動きの鋭さから見るにそれなりの場数を踏んだ戦士達の様だった。 しかし,アクセルの力も持たない普通の人間など恐れるに足らない。 見えない風の壁で銃弾を防ぎ,カマイタチで切り刻む。 
 容易く,リーダー格以外の男達は切り刻まれ血塗れになり地面に蹲った。 だらしなく血が流れ,アスファルトの地面を汚していた。 最後の1人は,圧倒的な死の姿に怯えながらも最後の銃弾を発砲した。
 銃弾は,不可視の壁に邪魔される事はなく彼女の脳天を貫いた様に見えた。 しかし,実際はセリスは無傷で,逆に長身の男の肩の辺りをを不可視の弾丸が貫いていた。
 男は,一瞬理解できず逡巡する。 後から来る鋭い痛みに嗚咽しながら止血しようと肩に手を当てる。 痛みに顔は引き攣り,意気が上がっているのが分る。  
 息の感覚が短い。 鼓動の感覚も……男は圧倒的な恐怖に苛まれていた。 
 もう直ぐ,倒れている骸となった仲間達と同じく死ぬのだろうと男は悟り仲間達を一頻り見渡す。 しかし,良く見ると皆,微かにだが動いていた。 もしかしたら殺す気が無いのか男は,一縷の希望を持った。
 セリスは,一歩……また一歩と男に近付いてい来る。 彼女の目には少しの躊躇も無い。 男は先程の希望は,単なる希望的観測だと悟る。 長身の男の手持ちの武器は既にナイフしか無かった。
 男は形振り構わずナイフを振り翳すが,そのナイフがセリスにとどく事は無かった。


「是で終りね?」
「くそおぉぉぉぉ!!! お前等,絶対ろくな死に方しねぇ!!!」

「それがどうしたのかしら……今をエンジョイ出来れば私は十分なのよ?」
「グゲッ!」

 何も出来ず怯える長身の男の頬に,セリスはソッと手を当て耳元で囁く。 男は,怯えて失禁して絶叫する。 その男の言葉に,セリスは一瞬,目を細め,余りの的外れな言葉に失笑する。
 男は益々,怯え地面に膝を突く。 男の下半身が濡れているのが分る。 セリスは見っともないと嘆き,男の頭に人差し指を添える。 そして,指先から不可視の風を放つ。 
 男の右肩から左足太ももに掛けて大きな切り傷が出来,鮮血が舞い上がる。 男は,悲鳴を上げることも出来ず倒れこんだ。 直ぐに,セリスは6人の男達の脈を取り始めた。 倒した順から1人ずつ,全員の生存を確認すると,セリスは男達の左の瞳を抉り出す。
 死掛けていて喚く体力も無いほどに衰弱した男達だが,瞳を抉られる瞬間は夫々,苦悶の声を上げていた。 女は,男達の目玉を1口に頬張り勢い良く飲み込んで行く。 それを6回繰り返し,水を飲みセリスは呟いた。

「何度,経験しても慣れないな……本当に」
 
 セリスのエンジンそれは詰り,生きた人間の左目を抉りそれを食する事である。 実は,エージェント達にとってエンジンを枯渇させる事は死へと直結する事だ。 それ故に,どの様な嫌な条件でも彼らはそれを遂行する。 例え他者を傷つける,或いは他者を殺害しなければならない条件でも。
 命が大事と如何に教え込まれ様と自分の命が一番大事だ。 小さな頃は,名家の令嬢として扱われていたお陰か,役立たずの使用人や家長である父が,警察との密約で手に入れた大罪人達の目を拝借していた故,自分で人を傷つける事は無かった。 だが,数年前に父が難病に掛かり,事業にも失敗し破産した。 
 彼女を保護しようとする使用人やメイド等居なかった。 それ以来,彼女は力を保つ為に,命を保つ為に多くの人間を手に掛けてきた。 誰も,好き好んで目玉を差し出してはくれない。 
 力で叩きのめして動けなくして目玉を抉る。 多くの人間は絶命した。 辛くて悲しくて,何時からかマフィアや悪党を狙う様になった。 それでも最初は,辛かったが何時の間にか当たり前になっていたのを覚えている。 生活の一部と化していたのだ。 
 その行為を行わなければ命を繋げない。 能力を保てない。

 しばらくの間,目を眇め感傷に浸っていると大通りの方からサイレンの音が響いてきた。 是もまた何時もの事だ。 実家が倒産してから10年近く,このサイレンの音を聞かない日はない。
 彼女の力は,攻撃的で,エンジンの条件は凶悪な部類に分類される。 そんな彼女を,警察が無視する筈は無い。 懸賞金の掛けられたエージェントを殺し賞金を稼ぐ賞金稼ぎ達も居る。
 彼女の,日々に安息は無い。 安穏と暮らす人間達が恨めしいほどに。
 
 
「あ〜あ〜……ファンが多いと大変ね」

 セリスは,マンションの住民が連絡したのだろうと即座に気付き逃げ出すのだった。 胸ポケットから懐中時計を取り出し時間を確かめる。 セリスは,14時30分にこの路地裏を抜けた通りである人物と落ち合う約束をしていたのだ。 今の時間は14時28分,駆け足で走りギリギリで間に合う程度だろう。 
 其処に,落ち合う予定の相手が居れば確実に逃げ切れる。 警察達が大通りの路肩に車両を止め路地裏に入るのが視界に移る。 しかし,それと同時に指定の車の姿が視界に入った。

「おやおや,いきなり警察さんと鬼ごっことは中々楽しい新人さんですね?」
「黙れ……ん? お前,まさか……」

 セリスを運転手が確認したのか車の扉が開く。 セリスは,急いで助手席に乗り込む。 何事も無く静かな面会を出来ると思っていたのか運転手はセリスをからかう様な口調で言いながら車を発進させる。 
 それに対して,セリスは眉根をピク付かせながら怒気の篭った声で一括する。 一括すると同時にセリスは,顎に手を当てる。 聞き覚えのある声に,見覚えのある顔立ち。 
 黒髪に前髪の一本に紫色のメッシュのをしたサングラスの中性的な顔立ち,スタイルの良い燕尾服の女性。 セリスは彼女に見覚えがあった。

「いやぁ,お嬢とはもう,2度と会わないと信じてたんですがねぇ,間違えないですよ……執事のファンベルンです。 この度は,お嬢様のパートナーになりました。 宜しく!」
 
 運転手の女は,少し苦笑交じりの顔を造りセリスの言葉を肯定する。 全体的に,楽しんでいる様なおちょくっている様な口調だが,「2度と会えない」と言う時,少し悲しそうな表情をしているのがセリスには分った。 ファンベルンは言い終わり拳をセリスに向ける。 セリスは,その拳に拳を合わせた。
 

「貴女,そんな性格だったけ?」
「どっちが素かなんてどうでも良く有りませんか? どっちも素かも知れませんが!」

 セリスは,妙に軽妙で感情豊かなファンベルンを暫くの間,傍観して過去を振り返り始める。 昔のファンベルンは,真面目で主人である父に何時も怯えていたのだ。 何故,こんなに変ったのかとふと疑問が湧いた。
 その疑念をセリスは,ストレートに口にする。 するとファンベルンはバツの悪そうな顔をして,昔の自分が本来の自分なのか今の自分が本来の自分なのか,判然としないと自分を観察する様な物言いをした。

 セリスは,ファンベルンの言葉に賛同するように頷くのだった。 セリスはファンベルンが恐らくは後天的なエージェントだと認識したのだ。 後天的なエージェントは,多くその代償となるエンジンの供給に慣れる事が出来ず人格が変化するのだ。 酷い条件の物の場合は人格が破綻し異常者になる場合も多い。
 先天的なエージェントは,幼少からそれが,当然と脳内にインプットされている為,精神異常を来したりする場合は少ない。 最も,セリスの様な温室育ちの場合は,性格に変化も現れる事も当然,有るが。

「所でお嬢! 俺の名前をフルネームで言って下さい」
 
 沈黙が流れる。 当然だ。 昔,家に仕えていた者だと言ってもそれ程の関係が有る筈でもないし,セリスにとっては大した興味のある存在でもない。 一方,ファンベルンは,静けさを嫌うタイプなのか苛々とした雰囲気が,全体から発散されている様だ。 ファンベルンは遂に,自分から話題を切り出すのだった。

「ファンベルン・フェーネ・フォードルラース。 長ったらしいムカつく名前だから良く覚えてるわ?」
「憎ったらしさが素敵です! 流石,お嬢!!」

 突拍子も無い質問に,怪訝な顔をしながらもセリスは律儀にファンベルンのフルネームを答える。 ファンベルンはまさか,正確に覚えているとは思って居なかったのか唖然とする。 するとその様子を見てセリスは欠伸をしながら嫌味ったらしく覚えていた理由を言う。
 それに対して,鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をしていたファンベルンはすぐさま平静を装い,咳払いしてセリスを茶化すのだった。 
 


「貴女こそムカつく言い方がお上手ね?」
「じゃぁ,今度はお嬢……精一杯,エロい声」

 気が短いのかセリスは,青筋を立てて荒げた口調で喧嘩を売るようにファンベルンに言う。 ファンベルンは,意にも介さず名前を覚えているのなら今度は感情を篭めて言って見てくださいとからかって来る。 
 セリスは,脳内で何かが千切れる音を確認すると同時に,彼女の顔面にパンチするのだった。 それと同時に,ファンベルンの運転していた車が一瞬,反対車線に飛び出した。

「…………」
「いひゃい!!」
 
 必死で,ハンドルを切り元の斜線に車を戻しファンベルンは嘆息する。
 

「黙れよ……雌豚!! 片手運転とか反対車線運転とか下手な事してんじゃねぇぞ!!」
「はい……ビッチ女王!」

「もっ……やめて」
  
 それを見たセリスは尚も言葉攻めを続ける。 片手運転は確かにファンベルンの責だが,反対車線に飛び出したのは,セリスが殴ったのが原因だ。 それなのに殴られた挙句に罵倒されるなんてとファンベルンは心底嘆きながら謝った。
 しかし,言葉遣いの悪さゆえに,謝って直ぐに殴られる羽目となったファンベルンだった。



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