ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第一章】それは少年の奇異論理-03 ( No.12 )
- 日時: 2011/05/01 20:21
- 名前: チェルシー ◆n2c8gXP71A (ID: 0y/6MWPS)
ちょっと落ち着こうか、自分。この世界は波乱に満ちているのだよ。それを理解した上で、変なとこに飛ばした大親友、恨もうぜ!
まず俺は、この世界のどっかにある教会の司祭様のとこに運ばれた訳で。食事もさせて貰って、服も貸して貰えて。文句なんてこれっぽっちも無い。ルイさん、めっちゃ良い人だし。まあ、女子から見たら良い人止まりだなって感じだけど……関係無いな、うん。
飛ばされた理由。よく知らないけど、大親友が救ってくれた(らしい)命だ。精々、大切にしよう。……本音を漏らせば、もっとマシな世界——できれば現代の日本希望だけど——に飛ばされたかった。でも、こんな状況でそんな事は言ってられない。生きてた。ただ、それだけだ。でも、あんな呪われた世界から脱出してきた俺は、生きなくちゃいけないから生かされた訳で……この台詞、厨二臭がぷんぷんするんだが。
ま、とりあえず。
「ルイさん、俺のことは適当に呼んでください。名前、行方不明中なんですよ」
「そう、なのか? ……名前が行方不明? いや、失礼。きみも色々とあったんだね、表情が苦労に満ちているよ」
「……ルイさん!」
青春ドラマ疑似体験を済ませた俺は、おかゆを頂戴することにした。右手は相変わらず、痛くて痛くて堪らない。でも、空腹という名の欲望には逆らえなくて。痛みに耐えつつ、空腹を満たす。かぁ、おかゆウメェ! 母ちゃんのおかゆより美味い! 母ちゃんのことも覚えてないけど!
「きみは、大変なことに巻き込まれたようだね。名前も素性も覚えていないのか……」
「いえ、行方不明なだけです」
「……これは失礼」
一応、訂正をし、再びおかゆにがっつく。ああ、俺くらいの歳になると自然と身体が動物性たんぱく質を求めるんだ。耐えろ、俺。この世界、俺の知ってる世界じゃねーんだぞ? エアコンもテレビも電話も水道も無い世界だぞ? 信用できるかってんだ。易々と気を許したら、イノシシの肉とか出てきそうで怖い。しばらく、大人しい病人のふりしてないと。俺、腹黒いなぁ。自分が怖い。
「自分に関する情報は行方不明、この世界の情報も行方不明かい? ……失礼、知らないんだったね。遠い地方からの流れ者だったのかな? 若いのに、大変だね。え、違う? ……コホン。それはともかく、若き青年よ。ぜひ、家に泊まっておいでよ。行く果ても無いのだろう? 遠慮なんかしなくていい。贅沢はさせてあげられないけど、そこそこの援助ならしてあげられるから」
これも、神が僕等に与えた何かの縁だしね。
ルイさんは、清清しい程キッパリと言い切ってくれた。聖母マリアを思わせる笑顔。めっちゃ良い人じゃん。さすが司祭様。人間として出来上がっていらっしゃる。さて、俺はどうする? 良い人には見えるけど、よくわからない、言うなれば異世界の人に頼っちゃっても大丈夫か? ま、平気とか危ないとかそーゆうのよりも、大切な事があったりして。
だって、俺さ。今は、身寄り一人もいないんだぜ?
「……是非、御願いします! できる事は自分でやるし、聖歌は歌えないけど仕事のほうも手伝うんで!」
ありがとう、そう言って微笑むルイさん。アンタが神様じゃないのかいってくらい良い人。まあ、とにかく食料は確保だ。寝場所も確保。多少の力仕事ならどんと来い! これでも成長盛りの男子だから、力には自信がありますぜ! ……俺、虚しい人間だな。
大親友に飛ばされて、どっか可笑しな世界に来ちゃって、ザ・良い人な司祭様に助けて貰っちゃって。俺の人生は、人の斜め上を辿る一方だけど、とりあえず時の流れに身を任せるしかない。これで死のうが生きようが、心配してくれるはずの人間なんて、今、俺の傍にはいないんだから。……ルイさんは、心配してくれるかもしれないけど。
まあ、とりあえず、この世界で明日を迎えよう。駄目だったら、仕方が無いって事で。穏やかに笑うルイさんを見て、ぼんやりとそう考えた。
「……きみは、"利用"できそうな人材だよ」
誰かがぽつり、呟いた事にも気付かずに。