ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第一章】それは少年の奇異論理-04 ( No.28 )
- 日時: 2011/05/08 18:07
- 名前: 翠李 ◆n2c8gXP71A (ID: npMPGGPe)
「……薪割り、きっつ!」
目の前に散乱する歪な木の棒たちを眺めながら、腰をグッと伸ばす。空は、青かった。ここに飛ばされたあの日のように。空を見る度に、おぼろな記憶のことを考えてしまう。大親友の行動。この世界の真実。血だらけで倒れていた俺の、本当の素性。
この世界に飛ばされてから、早いこと一週間。怪我は軽い症状がほとんどだったため、無事に完治した。そしてルイさんの好意により教会に居候。薪割りに励む俺……っと。これが、俺の近況まとめ。平和も何もあったもんじゃない。
あ、追加情報有。ルイさんから得た情報だが、この世界には"王"がいて、王族が国を支配しているらしい。電気機器なるものは存在しない。容姿からして東洋では無い。以上の事を踏まえると、俺は"過去"にトバサレタのではないかと思う。今どき、王様がいるんだぞ? ……まあ、無いわけではないが。電気機器が無いのが証拠だ。水道はおろか、"地球"という単語を知らない時代なんて、過去しか無いだろ。
でも、なあ。
この世界は変な事ばかりだ。なぜなら……日本語が主流とは思えない国で、言葉が通じている俺。ゲームじゃあるまいし、有り得ない。そして、この国の動物について。この前、牧場なるものに連れて行ってもらったのだが牛や豚、では無かった。明らかに新種の動物なんだ。薄い黄色の体毛。サイズこそ牛並みなものの、黄色い牛なんて聴いたことがない。
「ここって、パラレルワールドなのか……?」
可能性はゼロじゃない。もしかしたら、異次元に飛ばされたのかもしれないし。つーか、俺可哀相だな。明らかに有り得ない状況下に飛ばされたジャンか。過去だとしても異次元だとしても、どっちにしたって帰り方知らねーし。
空は青い。憎らしいほどに清清しく、消してしまいたいほど綺麗だ。きっと世界を汚すガスなんかが存在しないからだろう。地球温暖化とも無関係ってところか。
「おーい! 昼食の準備ができたよー」
「はい! 今、行きまーす!」
面白い事に、食文化には見覚えがあった。少し見慣れないものの、ベースは俺が知っている料理ばかりなのだ。だから、食べていける。不幸中の幸いってこういうことだよな。
俺は逝くために飛ばされたんじゃない。生きて、相棒と再会するために生かされたんだ。
今はそう信じて、毎日を過ごすしかない。これが、一週間掛けて見つけた結論だ。
そういえば俺、爺さんになるまでこの世界にいるのか? そのまえに平和に過ごせるのかよ。こんな未知の世界でさ。
「……神様、」
いつも「信じてないぜ!」とか言ってすいませんでした。でも今は、すがらせて下さい。
「お願いだから、平和な毎日を下さい! 俺を哀れだと思って!」
風が俺の願いを運んでいくかのように、青い空を吹き抜けていった。
【第一章】それは少年の奇異論理【end……かも】