ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第一章】それは少年の奇異論理-02 ( No.9 )
- 日時: 2011/04/27 18:30
- 名前: チェルシー ◆n2c8gXP71A (ID: ofW4Vptq)
「……なんか、すいません」
「大丈夫さ、これくらい。若い君が気にすることじゃない、そうだろう?」
目が覚めたら、冷たいベッドに寝かされていた。看病してもらっちゃったようで、申し訳ない。ちなみに目の前にいるのは、おっさん。見た目年齢三十代後半、髪はまだフッサフサなおっさん。人が良さそうで、悪女に騙されそうな顔をしている。多分、シサイサマってヤツだと思う。……危ない人だと思ってすいませんでした。ヤツ、だなんて言葉で言い表してすいませんでした。めちゃくちゃ良い人じゃねーかよ。
ベッドに座っているから、見える範囲は狭いけれど一応、状況は把握しておいたほうが良いだろう。ざっと観察してみますか。
ここは恐らく、シサイサマのお宅。木造の暖かみのある家で、それはそれはアナログの家だった。なにせ、最新機器と呼ばれる家電が一切、無い。エアコン、テレビ、レンジはともかく、水道も無いってどういう事ですか、大親友よ。
「あー、っと」
「おかゆ、食べられるかい?」
「……ありがとうございます」
服は、こざっぱりとしたシャツに替えられていた。少し大きめのサイズだから、シサイサマの私服なんだろう。あー、何から何まで世話になっている俺って。情けない、同時になぜ、ここまで恵まれているのだろうか。これも大親友効果、とか?
シサイサマはお盆に湯気が立つおかゆを乗せ、にこにこと笑いながらこっちに向かってきた。良い人だなぁ、マジで。いや、良い人なんだけど、さ。
「……シサイサマって、」
「あぁ、僕のことは、ルイで良いよ。ルイ=カーレット、ここの教会の司祭を務めている」
色白の右手を差し出され、俺もおずおずと手を握り返す。綺麗に巻かれた包帯を見ると、俺は右手も怪我していたらしい。動かしただけなのに、かなり痛かった。司祭って、教会にいるようなおじさんか。あ、これで謎が解けたぞ。だからこの人……ルイさん、だっけ? めちゃくちゃ良さそうな人なのか。さすが、神に近い人間。
でも、落ち着け自分。ルイ=カーレットって言ったよな? ……ばりばり外国人じゃねーか。俺、英語はなせねーのに、どうして会話できてるんだよ。何コレ、エスパー?
「あの、ルイさん、」
「そういえばキミは、どこから来たんだい? 若き青年の名前を、教えてくれないかな?」
この人、良い人だけどムカつくな。何回、俺の話遮ってんだよ。……じゃない!
確かに俺の存在、怪しいよな。道端にぶっ倒れてて、金髪に青い瞳が普通の容姿である世界に一人、黒髪黒目のザ・日本人だし。ルイさん、ブロンドっぽい髪だけど、瞳は青だし。よくテレビに出る外国人の代表的な人だわ、これ。
で、若き好青年の名前を尋ねられてるんですけど。あれ、なんで俺、答えられな……。
「た、誕生日は八月十一日。血液型はO型。趣味は、サッカー観戦。好きな女子のタイプは、元気で気が強いんだけど俺の前では、女の子〜な女の子にグッときま」
「ストップ、青年くん」
ルイさんに遮られる俺。何回、人の言葉遮ってんだよ……ではなく。今のは、俺が悪い。質問と的外れな答えを口走ってんだから。でも、これはどうしようもないっていうか。俺、これからどうやって生きてけば良いんだって話であって。
「……俺の名前、」
———行方不明なんですけど。
そう言えば、ずっと聴きたかったんですけど。ここ、本当に……俺の知ってる、地球という惑星ですか? というか、ジャパンという響きを知っていますか? ルイさん、これだけ答えてくれれば、俺の未来の行く末がわかるから、御願いします!
「……チ、キュウ? じゃ、ぱん? ……新しいワインの品種かな、若き青年くん」
———さよなら、俺の知ってる世間!