ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 〜アビリティワールド〜1話UP ( No.7 )
- 日時: 2011/04/29 17:13
- 名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)
〔1.超能力高等専門学校の生徒達〕
「うらぁ!!」────「うわあっ!!」
「そこだ!!」…………────「うっっ!?」
白線で描かれた正方形のフィールド。体操服姿の男子生徒は外野の方へと倒れてしまった。
と、同時に歓声と耳障りな笛が体育館に鳴り響いた。
「そこまで。勝者は神宮だ。相手の隙に入り込んだ良い攻撃だったぞ。」
胸に校章が刺繍された上下黒いジャージを着ている体育教師の剛塚は、フィールド内にいる男子生徒に言った。
セクション‘東京’超能力高等専門学校の1-C組の神宮優太は、安堵の息を漏らしてフィールドから退場する。
「やっぱ強いです、流石です優太君。」
今の戦いで負けた同じクラスメイトの白石光は、眼鏡を掛け直しながら優太に言う。
「いやいや、光の方が技術的には凄いよ。あんな攻撃の仕方思いつかないもん。」
「でも、僕の能力はただの目暗ましに過ぎませんよ。」
光は自身の右手を前に出す。すると、右手から右肩にかけた部分が眩しく発光し始めた。
優太は一瞬クラつき、壁に手を置く。それを見た光は慌てて発光を止めた。
「す、すみません!!大丈夫ですか?」
「大丈夫…大丈夫………相変わらず凄い発光だよ……」
優太は笑みを浮かべて光に言った。その笑みを見て、光はホッとした表情を見せる。
「おーい、ちょっと待てや。」
2人が体育館2階に向かう階段に差し掛かった時だった。
後ろからクラスメイトであり大阪出身の関田紫朗は、優太と光の間に割り込み肩を組んできた。
「凄かったで〜、さっきの試合。やっぱ優太は強いわ。」
「お前の方が能育の成績上だろ?学年2位じゃんか。」
「そうです。紫朗君の方が強いじゃないですか。」
優太と光の褒め言葉に、紫朗は「ガッハッハッハ」と豪快な笑い声と共に2人の頭を軽く叩いた。
「俺なんか、能力が派手なだけや。ほな、俺次試合やから。」
紫朗は2人にそう言うと、振り向いて1階にあるフィールドの方へと走っていった。
* * * * * *
フィールド行われる能力者同士の戦い。簡単にいえば体育に超能力が導入された能力体育。通称‘能育’。
1階での超能力者同士の攻撃が飛び火しないために設置された強化ガラスに囲まれた階段状の観客席。
優太と光は一番後ろの席に座り、他のクラスやクラスメイトの戦いを見物しながら談笑し始める。
「ところで、優太君は部活に入らないのですか?」
「え?どうして?」
優太は光の質問に首を傾げながら聞き返す。
「クラスの全員が部活に入ってます。なのに、優太君だけが部活に入ってないです。」
「俺言ってなかったけ?俺の家、両親がいなくて妹と2人暮しなんだ。だから部活やってる暇がなくてさ。」
優太の言葉に光は「しまった」という様な驚いた表情を見せ、すぐに申し訳なそうな顔を見せて頭を下げる。
「す、すいません……知らなくて………」
「いやいや知らなかったならしょうがないよ。ま、そういうわけだ。」
「優太、妹さんにお熱だもんね。」
2人の後ろから、クラスメイトの鷲尾奈々が喋りかけてきた。奈々は優太の隣に座ると満面の笑みを見せる。
「んだよ。お熱じゃねえし。」
「でもさ、この前未来ちゃんが膝すりむいて帰ってきただけで、キレかけてたじゃん。」
「えっ!?」
奈々の言葉を聞いた光は、小さい声で驚いた。優太は慌てて弁解を始める。
「は?何言ってんの?べ、別にキレてねえよ!!」
「嘘だ。だって私、未来ちゃんに直接聞いたよ。私と未来ちゃんの間では笑える話の栄光の1位だよ。」
奈々が笑いながら言うと、隣に座っていた光も若干だが笑いを堪えているのが分かった。
「お、お前………ふざけんなよ。」
「どうする?次の試合で私と戦う?」
奈々は立ち上がり、両手から白い気体を出してきた。それはヒンヤリ冷たい冷気だった。
─氷嬢の奈々─
奈々の異名である。学年6位の能育の成績を持つ女子の中ではトップの能力者だ。
奈々の能力は一言で説明すれば「氷結」。触れた物は瞬時に凍らせることが出来る。
優太も立ち上がると、利き手である右手を刃物に変形させた。
─全身刃物人間─
とは、彼のことである。
優太の能力は体の至る部分も刃物に変えることが出来る。手だって、足だって、指一本一本だって。
優太の能育の成績は学年10位にも入っていないが、実力は教師の中でも噂になるほどのものである。
そんな彼がなぜ上位に入らないかと言うと、原因は彼の「優しさ」だった。
超能力者と人間は名前だけ聞くと掛け離れた存在どうしであるが、中身は一緒である。
違うのは
能力を持っているか 持っていないか
この2点だけあり、後は全て同じだ。超能力者なんて、超能力という特典が付いた人間にすぎないのだ。
「分かった。次の試合はお前とだ。」
しかし、今回の優太に優しさもクソもなかった。
「じゃあ、負けたら未来ちゃんとの笑い話を校内に広める。それでいいかな?」
「俺が勝ったら、今度の夏休みの宿題を全てやってもらう。」
「………わ、分かった。」
奈々は半笑いで承諾する。2人は1階のフィールドへと向かった。