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Re: 〜アビリティワールド〜1話UP ( No.10 )
日時: 2011/04/30 08:16
名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)

〔2.氷嬢〕


  「おいおい……あの2人かよ…………」


 「早くしろって!!珍しい組み合わせだぜ!!」


       「うおっ!?氷嬢と刃物人間か………」


フィールドに奈々と優太が出た瞬間、2階の観客席が一気に慌ただしくなり始めた。
奈々は体操服の上ジャージの袖を腕まで捲り上げ、完全に戦闘モードに入ったようである。
「そういえば、優太と戦うの初めてかな?」
「小学生の頃に喧嘩して………まぁ、あの時は邪魔が入って引き分けだったか。」
2人は昔話をしながら向かい合い、優太は両手を刃物に変え、奈々は両手から冷気を出す。

「先にフィールドから出た方が負けだ。相手への生死に関わる攻撃はなしだ。それでは……始め!!」

剛塚の吹いた笛の音と共に、戦いは幕をあげた。2人は笛が鳴った瞬間にその場から走り始める。
奈々はフィールドの中心まで来ると、両手を地に付けてニヤリと笑った。

「氷のステージに変えてあげる。」

奈々がそう言った瞬間、正方形のフィールドの床一面に綺麗な氷が膜を張る。
優太はジャンプして避けると、両手の刃物を床に突き刺してバランスをとりながら着地した。

「面倒な技だな………。」

「まだまだこれからよ。」

奈々は右手を凍りついた地面に付け、氷地から槍を造り出した。繊細に芸術的な模様まで入っている。
「アイス・スピアとでも名付けとこうかな。」
奈々は氷の槍を両手で持ち構えると、平然と氷の床を走り始めた。
「自分には効果なしってか。負けてらんねえな!!」


    奈々は優太の前に来ると、槍の柄部分を優太の体めがけて振り回す。


が、優太はしゃがんで攻撃を避け、凍りついた床を使って奈々の脇を滑り向けた。


「おぉーーーー!!!」
相手に有利な筈のフィールドを反対に活用した優太の行動に、観客から歓声があがる。
優太は右手の刃物を床に突き刺し止まると、そのまま刃物を自身の右手から分離させた。
「まだまだ行くぜ。」
優太は元に戻った右手を再び刃物に変え、奈々めがけて滑り始めた。
「なめられたら困るね、こう見えても女子の中ではトップの実力持つんだからさ。」
奈々は両手を床に付け、高さ2メートルほどの氷の壁を造り出して優太の行き場を封じた。
「アイス・ウォール。強度はダイヤモンド並み、優太の能力じゃ絶対に壊せないわ。」
氷の壁の向こうにいる優太に、奈々は勝ち誇った笑みを浮かべて言い放った。


 「俺の刃物はダイヤモンドを簡単に切るほどの鋭利さを持っている。」


優太はそう言うと、両手の刃物を振り上げて一気に壁を3等分に切り下ろした。
奈々は一瞬驚いたが、すぐに後ろへ下がり、再び氷の槍を握り直す。
「……十八番だそうかな。優太、あんたの負けでこの試合は終わらせてもらうわ。」
奈々は先程までの表情とは打って変わって一変し、合掌して両手を地面に付けた。
すると、凍りついた床から人の形をした物が4体。正方形の各辺に優太を囲むように現れた。
「私の十八番。さてと、5体1で勝てるかな?」




    「あぁ、俺の勝ちだ。」




優太はニヤリと笑うと、先程床に突き刺した刃物めがけてかかと落としを喰らわした。
奈々は優太の考えていることが分からず、唖然とした表情で突き刺さった刃物を見つめる。
刃物は優太のかかと落としで深く突き刺さり、ほんの少しだけ振動している。と、思った次の瞬間だった。

         …………────ピシピシッ

氷の床に皹が入り、それは床を通じて氷の人形にも皹が広がった。
「これで、お前のオリジナルフィールドはオジャンだ。」
優太は突き刺さっている刃物を足で踏みつける。と同時に、氷の床と氷の人形は一瞬で砕け散った。
辺りに白く輝く綺麗な氷の結晶が舞い、フィールドの視界が悪くなる。
「なっ、なっ、嘘でしょ!?」

   ━━ 「俺の勝ちだな。」 ━━

奈々が我に返った時には、時すでに遅しだった。奈々の腹部に強烈な蹴りが入り、奈々は場外まで吹き飛んだ。
「きゃっ!!」
奈々は床に叩きつけられ、そのまま転がって剛塚の足元で止まった。
剛塚は笛を咥え、体育館に笛の音と同時に歓声があがった。

「勝者は神宮だ。しかし……さっきの氷を割った技はなんだ?」

剛塚は頭部を強打して混乱している奈々の頭を叩きながら、フィールドで安堵の息を漏らす優太に尋ねた。
「俺の能力の特性です。この刃物は振動を伝えやすく、ちょっと何かにぶつかっただけでガラスを割るほどの振動を発生できるんです。それを利用して、氷の張った床のフィールドを壊した。それだけですよ。」
優太は氷の結晶が溶けて濡れた床を気をつけて歩きながら、奈々の元に歩み寄った。
「俺の勝ちだな。夏休みの宿題頼むよ。」
「………女の子のお腹マジ蹴りって………最低………」
優太は奈々の言葉にキョトンとしたが、なぜか笑みを浮かべて奈々に言う。
「勝負はマジだ。気を抜いたらやられるからな。お前の方が、それをよく知ってるだろ。」
「…………」
奈々は拗ねてしまい、無言のまま立ち上がる。
優太はそんな奈々を見て再び笑った。


   *   *   *   *   *   *



    「い〜ねぇ〜、あの子強いじゃん♪」



観客席の後ろ、壁に寄りかかって優太と奈々の試合を見ていた男子生徒は不気味に呟いた。
紫天然パーマが印象に強く残る1-Cの生徒、安堂シンは微笑すると、隣に並んで立っている女子生徒を見る。
「シン、彼も後々邪魔になりそうだから……いざとなったら宜しくね。」
同じく1-C組の生徒である堺花火は、シンにそう言うと観客席から立ち去ろうとした。


    「待ってください。」


花火の目の前に、なぜか光が現れて呼び止めた。
「何?白石君?」
花火はニッコリと微笑んで光に聞き返す。光は疑いの眼差しで花火とシンを見比べる。
「今、優太君が邪魔になるから………宜しくって……………」
「何言ってるの?あなた、それ以上口を開けたら




           殺すよ。」




花火のその一言を聞いた瞬間、光の手足が震え始めた。そして、大量の冷や汗が体中に湧き出る。
花火は微笑みながら光を通り過ぎると、そのまま1階へと降りて行った。