ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 〜アビリティワールド〜 ( No.20 )
日時: 2011/05/02 06:59
名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)

〔3.ダメ教師の過去〕

チャイムと同時に能育の授業は解散となり、一同はその場で礼をして教室に戻り始めた。
優太は2階に上がり、校舎2階と体育館2階を繋ぐ空中回廊を光と並んで歩いていた。
「優太君。ちょっと………いいですか?」
「ん?」
光は優太を呼び止めると、その場で足を止めた。他の生徒達は2人を避けながら教室に戻っていく。
光は手すりに凭れ掛かり、窓から見える学校脇を流れる川を見ながらため息を吐いた。
優太は光のあまり見ない表情と状態を見て、何か不自然さを感じた。
「どうしたんだよ?」
「さっき、堺さんと安堂君の…………その………」
先程見た光景と2人の会話を伝えようとしたが、光は恐怖と花火の言葉が頭に蘇り、言葉が出ない。




     ─ それ以上口を開けたら 殺すよ ─




花火の言葉が頭を駆け巡る。光は額から冷や汗を一滴流すと、無理に笑顔を作って頭を下げた。
「すいません!!なんでもないです。早く教室に戻りましょう♪」
「…な、なんだよ、変だぞ光。」
「気にしないでください。ささ、HRが終われば帰れますよ。」
光は優太の背中を押しながら教室へと無理に向かう。
優太は苦笑いを浮かべながらも、光と共に1-C組の教室へと戻って行った。



   *   *   *   *   *   *



「おらぁ〜、さっさと座れ。」



全員が体操服から制服に着替え終わって数分後に、1-C組の「変わり者」と呼ばれる担任が入ってきた。
短パンにカッターシャツと言う奇妙な服装、そしてだらしのない口調。無償髭を生やしたボサボサの髪。
優太達の担任であるアンドリュー・トンプソンは、教室の前のパイプ椅子に座り、さっそく話を始めた。
「んじゃ、明後日から俺も楽しみな夏休みだ。明日の終業式は遅刻すんなよ。」

        ……────‘これ’を心から尊敬している生徒は、恐らくいないだろう

しかし、1-C組の生徒達だけはアンドリューの‘人間性’を知っている。
「夏休み間近だからって気は抜くなよ。全員、元気な顔で始業式には来い。んじゃ、ご〜れ〜。」
アンドリューのだらしのない掛け声で、学級員が号令をかけ、HRは終了した。
真ん中の列の一番後ろの席である優太は、豪快に背伸びをして席を立つ。
「それじゃあ、優太君。さよならです。」
「ん?あぁ、生徒会あるんだ。」
優太の隣の席である光は頷き、鞄を持って教室を出て行った。
光とは反対の隣の席に座る奈々は、鞄とバットケースを持って立ち上がる。
奈々は女子ソフトボール部に入部しており、‘1年のエース’である。
「じゃあね。ロリコン。」
「ロ……お前、約束忘れんなよ。」
「はいはい。」
奈々は何も持っていない右手をプラプラと振りながら、教室から出て行った。
特に部活に入っていない優太は、無人の教室を見渡しため息を吐く。



   「まだ残ってんのか?」



優太がボーっとしていると、なぜかアンドリューが教室に戻ってきた。
「あれ?アンディ先生、なんで戻ってきたんですか?」
アンディはアンドリューの呼び名であり、先生や生徒は親しみを込めてそう呼んでいる。
アンドリューは教卓に腰をかけると、窓から見える橙色の夕日を見ながら、胸ポケットから煙草を取り出す。
「ちょ、ここで吸うんですか?」
「校内はオール喫煙だ。校則にねえだろ。」
「………教師失格の言葉ですよ。」
「うるせえ。ケチるな。」
アンドリューは人指先から青い炎を出し、煙草に火をつけた。アンドリューの能力は発火。
こんなダメ教師でも、一応レベル7の成人超能力者なのだ。優太は呆れを超えて、なぜか微笑んでしまう。


「先生は、どうして先生になろうと思ったんですか?」


「は?」
自然に口から出た質問に、優太さえも驚いていた。しかし、優太以上にアンドリューは驚いていた。
一瞬目を丸くして驚いていたが、鼻で笑って煙を吐いた。
「西暦最後の事件の様なことが起きた時、お前達に生き残ってもらいたいからだ。」
アンドリューは煙草を咥えたまま優太の方を向いて、悲しげな表情を見せながら話を続ける。



「あの事件で関係のない人間、能力者、お前らみたいな子供たちが死んでしまった。俺はあの事件が起きて4時間後に、現場の国会議事堂へ緊急自衛隊員として出向いた。だが、そこには血まみれに倒れた人間と虚しく半壊している議事堂以外何も残っていなかった。襲撃した能力者達はすでに逃亡していたんだ。その瞬間に真っ先に疑問に思い浮かんだのは、奴らの目的は一体何だったんだということだ。意味もない罪もない人々を数百と殺し、煙の様に消えて行った。死んだ人の中には、俺の親友や最愛の人もいたんだ。生涯愛し続けると誓った彼女は、虫けらのように殺された。現場から数十メートル離れていない所の自販機に、悲しげな顔で空を見上げて亡くなっていた…………。俺は君達にそんなつらい思いをさせたくないんだ。だから、生き残る術を教える為に、教師になったんだ。」



アンドリューは涙を流し、両手を拳に変えて怒りを露わにしている。
優太はなんて言葉をかけていいか分からず、無言でアンドリューの悔し顔を見つめる。
「お前なんか尚更だ。お前の家族は妹だけだろ、妹を守る力を身につけるんだ。」
アンドリューはそう言い残すと、まだ火をつけたばかりの煙草を握りしめて消し、教室から出て行った。








          「分かってます。アンディ先生………」