ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 〜アビリティワールド〜4話UP ( No.29 )
日時: 2011/05/04 18:02
名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)

〔5.動き始める者達〕

高校から歩いて20分の所にある高級住宅街。まるでそこは、外国の街並みの様な場所であった。
レンガ造りの2階建ての家は延々と綺麗に立ち並び、住宅街の奥には9階建ての高級マンションが建っている。

“Government Mansion-01”

と描かれたアーチを抜け、ホテルと思わせるような広大なエントランスが現れる。
エントランスには黒い服に白いシャツというシンプルな服装をしたホテルウーマンらしき女性が2人程いる。
「優太君、おかえりなさい。」
胸元に‘椙浦’と書かれたネームプレートに黒髪ロングヘアーの似合う女性が優太に喋りかけた。
「お疲れ様です、椙浦さん。」
このマンションの管理人であり責任者である椙浦に、優太は軽く会釈をしながらエレベーターに乗り込んだ。


 ここは政府直轄の元に建てられた特別公共‘施設’

西暦最後の事件で家族や家を失った、主に未成年の子供達が暮らしている住まいである。
未成年の子供以外にも、家族を失うことで家も失ったワケありの人々も暮らしている。


「チンッ」という音と共に扉が開いた。
最上階である9階の9-3号室が、優太と中学2年生の妹・未来の自宅である。

「ただいまー。」

「おかえり、お兄ちゃん。」

玄関の脇にある自室に入ろうとしていた未来は笑顔で優太に言うと、そのまま自室に入っていった。
優太は自室に行かずリビングに向かい、鞄をソファーに放り投げながらソファーに寝転がった。
「明日で学校も終わりだな………夏休み、何して過ごすか………」
優太は背伸びをしながら立ち上がり、徐に窓から外の景色を見た。
すると、街中から1本の黒煙が空に伸びていることに気が付いた。黒煙の発煙場所は、見覚えのある場所だ。
「……ん?あそこらへんって………学校か?」
優太が窓に近づこうとしたその時だった。

   『神宮優太様,至急エントランスに御出で下さい。』

自宅内にあるスピーカーから、先程1階で会った椙浦の声が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
優太は学ランを脱いで置くと、そのまま家を出てエントランスに戻った。


   *   *   *   *   *   *


   「おい!!救護班急げ!!」   「負傷者多数です!!内、1人が重体です!!」


  「どいてどいて!!」   「意識がありません!!心肺停止です!!!」


高校の外、中、周りは野次馬に警察,消防隊や救急隊でごった返しになっていた。
正門の前に停車していた救急車に、全身が黒焦げで見るも無残になった重体患者が運び込まれていく。
「光!!光!!!」
「ダメだよ。職員の方、1人付添できませんか!!」

「俺が行く。」

救急隊の人の呼び掛けに応じたのは、アンドリューだった。
泣きながら叫んでいた奈々の頭をポンポンと叩くと、アンドリューは救急隊の人と共に救急車に乗り込んだ。
そして、全身大火傷を負った光を乗せた救急車は赤いランプと耳障りな音を鳴らしながら走り去っていった。
「うっ………うっ……光ぅ……」

「おい!!大丈夫か!?」

アスファルトの上に泣き崩れた奈々に駆け寄ったのは、紫朗とクラスメイトの粟生野雹であった。
「大丈夫か?何があったんや?」
紫朗が奈々に尋ねるが、奈々は首を横に振る。そう、誰も知らないのだ。
ただ、‘校内で爆音が鳴り響いた’そして‘爆発が起こった’というアバウトなことしか理解していない。
「…………しっかりしなさいよ。私だって…泣きたいわよ………白石が………」
雹は一瞬泣き顔になったが、グッとこらえて耐える。
3人の背景には、黒煙と真っ赤な炎に包まれた半崩壊状態の倉庫が炎々と燃え盛っている。
消防車3台が放水で消火活動を行っているが、恐らく時間がかかるだろう。
奈々は唇を噛み締めて拳を握りしめると、一言2人に向かって呟いた。


  「光は、絶対に誰かにやられたんだわ。」


奈々の言葉を聞いた紫朗と雹は顔色を変え、唖然となった表情で言葉を失ってしまった。
「絶対そうよ……許されない……こ…んなこと、許されることじゃない。」
奈々は大粒の涙を流しながら立ち上がると、未だに燃え盛っている倉庫を見ながら誓った。

「光を襲った奴を絶対に殺してやる。」


   *   *   *   *   *   *


高校から離れた所にある老舗のカフェ‘Moon’には、花火とシンが不気味な笑みを浮かべいた。
「堺さ〜ん、あれはやりすぎじゃないの?」
「彼はステージに上がって来てはいけない存在よ。普通なら、殺されているのよ。」


「殺すのはダメだ。彼は‘必要な材料’なのだからな。」


花火とシンが向かい合って座っている席の後ろに、フードを被って顔を隠している人物が座っていた。
声は低く男性であることは認識できるが、どこか声に幼さも混じっている。
「今回の計画の狙いは、政府への宣戦布告と我々の存在を明らかにすることだ。それを忘れるな。」
「分かってるわよ。それで、他のメンバーは明日の計画についてどう思っているの?」
花火が男性に聞くと、男性はブラックコーヒーを一口すすり、大きなため息を吐いて話し始めた。
「全員と言いたいところだが、例の彼だけは納得していない。いや、納得はしているが良くは思っていない。」

「あいつは外すべきよ。計画実行当日に寝返られたら、すべて水の泡よ。」

花火の言葉に男性は無言で頷くと、立ちあがって喫茶店から出て行った。
「計画成功したらさ……堺はその後どうする気?」
シンがコーヒーを飲みながら尋ねる。花火はシンの目をじっと見て言い放った。
「そんなことは決まってるわよ。同志と共に起こすのよ。」







       「革命を起こして、世界を変えるの。」