ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 〜アビリティワールド〜6話UP ( No.35 )
- 日時: 2011/05/08 18:26
- 名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)
〔6.夢籠〕
エントランスに呼び出された優太を待っていたのは、見覚えのある顔の人物だった。
「………安堂?」
シンは暗い表情だったが優太の顔を見て表情が笑顔に変わった。シンは優太に駆け寄る。
「よ、よぉ。あのさ、ちょっと相談があってよ。」
「相談って何?」
優太とシンはクラスで仲の良い方で、昼休みなんかは一緒に昼食をすることもある。
「ここじゃちょっと……な。できたらお前の家に行けたら良いんだけど。」
「妹いるけどいい?」
「あ、そ、そうか。ん〜…………まぁ、問題ないよ。」
シンは承諾すると、優太と共にエレベーターに乗り込んで9階へと向かう。
エレベーターの中に一瞬沈黙の空気が広がったが、優太の何気ない一言で沈黙は破られた。
「でも珍しいね。安堂が俺に相談事なんて。普通なら、いつも一緒にいる堺とかにすればいいのに。」
「堺は色々と忙しいからな。それより、相談の内容なんだがよ……………」
「俺でよければ何でも話してくれ。」
「レム…………頼む……………」
シンが呟いた瞬間だった。
後ろからシンが突如、ヘッドロックを優太に喰らわせてエレベーター内で優太のバランスを崩させた。
「な!?お、おい、なんのつもりだ!?」
──────「それじゃあ、夢籠に正体するヨ。」
優太の目の前に、白髪に死人の様な肌白さと生気の無くなった目を持った男性が現れた。
見た目の白さとは反対に、服は全身黒ずくめで黒のロングコートを羽織っている。
レムは両手で倒れた優太の頭を鷲掴みすると、優太の目を見て不気味にニヤリと笑った。
「あ…安堂……………いった………い…………どう……いう…つもり……だ…………」
「お前も白石と一緒だ。このステージの邪魔になるから、席をはずしてもらう。」
安堂の意味の分からない言葉を最後に、優太はガクリと頭を落として気を失った。
と思った次の瞬間、優太の身体は白煙に変わってレムの掌の中心に吸い込まれるように消えた。
安堂は安堵の息を漏らし、レムにグットポーズを見せる。
「あいつが夢籠から出てくることはないよな?」
「あぁ。俺が気絶か死なない限りは絶対に出ることはできナイ。」
「おし………それなら、俺のノルマはクリアだ。後は‘氷嬢’だけだな。」
安堂はそう言うと再び安堵の息を漏らして、ふと上を見上げた。
「レム、監視カメラにバッチリ映っちゃってるけど…………大丈夫だよな?」
安堂はエレベーターの天井の隅に設置された監視カメラを見ながら、レムに聞いた。
レムは鼻で笑い、1階のボタンを押す。
「意味はナイ。どうせ顔は知られるし明日が計画の日ダ。バレやしないし、バレたころには遅イ。」
レムの言葉に安堂は納得すると、再び監視カメラを見た。
「そうか………明日が……計画実行の日……か……。」
* * * * * *
「うっ………痛って……」
頭を手で押さえながら、優太は呻き声をあげて気を取り戻した。
脳震盪の頭を抱えながら必死に立ち上がると、うろついた目で辺りを見渡す。
視界がジワジワと戻り始め、優太は今いる場所がエレベーターの中ではないことに気が付いた。
「ここは……教室か?」
見覚えのある自身のクラスである1-C組の教室。しかし、何かがおかしかった。
「なんか、色が薄いな……」
普段見る机、椅子、教室の中はおろか、全ての物の‘色’が白に近いと言っていいほど薄い色である。
雲が一つもなく青色でも無色でもない空が広がり、木や植物の色は全て白色となり緑色は消えていた。
教室にある時計には針がなく、まるで優太のいる世界は時が止まっているようだった。
「どうなってる、マンションにいたんじゃ…………」
「わぉ。あなたもここに来たんだ。」
教室のドアがガラガラと音をあげて開くと、眠そうな黒の瞳に癖毛の黒髪ボブの女子生徒が入ってきた。
女子生徒はヘッドホンで大音量で音楽を聞いていたが、電源を切って首に引っかける。
見たことのない顔の女子生徒に、優太は首を傾げて尋ねる。
「誰?というか、どうなってる?なんで、色がこんな…………」
「質問攻めって、初対面の人に失礼ね。」
甲斐円の言葉に、優太は一度軽く会釈をして頭を整理する。
「と、とりあえず誰?」
「私は甲斐円。この夢籠の住人の1人よ。」
「夢籠って………なんだ?」
優太の質問を聞いた瞬間、円は一瞬キョトンとした表情を見せ、ゲラゲラと大笑いをする。
「ハハハッ、あんたも‘あいつ’と同じ類の能力者?可哀そうにね、それじゃあ何も知らないわけだ。」
「お、おい、話の意味が分からないし……………」
「ここは‘夢籠’という普段あなたがいる世界と時空の狭間にある世界よ。簡単に言えば異空間よ。」
円の言葉を聞いても、優太には意味を理解することが出来なかった。
円は優太の様子を見てため息をつくと、机に座って窓の外から無色の世界を見渡す。
「あなたは恐らく、早めにここを出ないと行けないわね。」
「出る方法はあるのか?」
「出るというより脱出方法と言った方がいいかも。あるのはあるけど、ちょっと時間がいるわよ。」
「どれくらいだ?」
優太が円に尋ねると円は頭を抱えて悩み込み、手で何かの計算をしながら時間を数える。
「少なくとも1週間。まず今からあなたは‘彼’に会いに行って、現世の情報を聞いて状況を知りなさい。」
円は優太を手招きしながら、教室から出て行く。
優太はとりあえず円の後を追って1-C組の教室を後にした。