ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 〜アビリティワールド 7話UP〜 ( No.42 )
- 日時: 2011/05/16 05:04
- 名前: 崇 遊太 (ID: BZFXj35Y)
そこに待つのは絶望か
それとも
終わりなき永遠か
異空間夢籠編突入────────
【7.ゴールのない迷路】
時が止まった‘夢籠’という疑似世界。全ての万物の色は白色に近い色に変色している。
色のことを考えずに周りを見れば、ここは現実世界と何ら変わりのない場所だ。
だが、違う。
2人は校舎の最上階である5階まで上がってくると、優太は円の後を歩きながら見慣れた教室の前に着いた。
「ここって………音楽室か?」
優太の言葉に円は有無を答えず、音楽室の部屋をノックする。
「甲斐です。入っても宜しいでしょうか?」
「…………………」
円がドアの向こうに呼びかけても反応はない。円はため息を吐くと、結局ドアを開けた。
部屋の中は現実世界と同じ様に楽器が並び、床や壁にある皹までが同じように存在している。
しかし、1つだけ大きく違うことがあった。
「どうして音楽室に液晶テレビがあるんだ?」
優太は音楽室の中央に、どの楽器よりも目立つ大型液晶テレビを見ながら言った。
確かに、音楽室に絶対に存在しない物があることには誰しもが疑問に思う。
「現実世界の情報源よ。このテレビは時空を超えた現実世界の電波をキャッチして見ることができる。」
「な…どうやってそんなことを……………」
「ワシの力ぜよ。円、そいつは誰だ?」
音楽室の奥にある準備室のドアが開き、長いロングコートを身に付けた男性が優太の目の前に現れた。
腰まである白の長髪,全てを見透かした様な鋭い目,そして首に付けている時計の形のアクセサリー。
「さっきこの世界にやってきた者です。どうやら、私達同様で……………」
「そうか。ワシは時川万祭、この疑似世界に随分前からいる者ぜよ。よろしくだ。」
万祭は優太の手を強引に掴んで握手を交わすと、テレビに近づいて電源を入れた。
「さてと、色々聞きたいことがある筈だが、まずはこれを見るぜよ。」
万祭はそう言うと、チャンネルを何回か変えてニュースのチャンネルに変えた。
『速報です。夕方頃に東京超能力高等専門学校で起こった爆発事故で現在も意識不明の重傷となった生徒1名が病院で治療中です。現場となった高校の倉庫には爆発物がないことが判明しており、警察は何者かによる犯行とみて捜査を進めております。………ここで新たな情報が入りましたのでお伝えします。重傷となって現在も政府国立病院で治療を受けている白石光さん(16)の父親である防衛省大臣の白石俊夫大臣が、今夜にも都内のホテルで会見を開く模様です。大臣は…………』
ニュースを見た瞬間、優太の顔が段々と青ざめていく。
優太は万祭と円を交互に見て何かを言おうとしたが、言葉がうまく出てこない。
「これは現実世界の夕方のニュースぜよ。今は知らんが、とりあえず大変なことになってる。」
「どうして……光が……………な…な………何が起こってる?」
「ALONE’Sという、テロ組織集団を知ってるか?」
万祭の口から出た初めて聞く言葉に、絶望の表情からキョトン顔に変わった優太は万祭を凝視する。
「知らないよな。ま、知ってるのはホンの一握りぜよ。それで………君の名前聞いてなかったな。」
万祭は笑いながら白髪の頭を掻きながら優太に名前を尋ねる。
「神宮優太です………それより、一体どうすればここから出ることが……………」
「神宮……優太…………なるほど、君も‘タネ’に選ばれた能力者か。」
万祭は微笑を浮かべながらボソリと呟く。しかし、優太には呟いた言葉が聞こえることはなかった。
万祭は優太の名前を聞き終えると、近くにあった教卓の上に座って話を始めた。
「ここから出る方法は、ワシの超能力である‘時空連結’を使う。」
優太は滅多に聞かない超能力に首を傾げる。
「この能力はこの疑似世界と現実世界のいわば‘橋’を一時的に繋ぐ。つまり時空を超えることができるぜよ。」
「そ、そんなことができるんですか?」
「あぁ。だがもし、失敗して‘橋’を渡り切れなかったり外れたら時空の歪みに引きずり込まれ消滅ぜよ。」
「消滅するって……………」
「時空の歪みは人類が踏み入れてはならない禁忌の場ぜよ。肉体が環境に耐えきれず跡形もなく消えて死ぬ。」
「死ぬ」という言葉を聞いた瞬間、優太は唖然とした表情となる。すると、後ろから円がため息を吐いた。
円は優太の前に来て、近くに置いてあったパイプの椅子に座り、万祭の話の続きを説明し始める。
「しーかも、‘橋’を渡りきれる確率は99%無理。そんなことできるなら、今頃私達はここにいない。」
「そうぜよ。だから、ワシと円はもう1つの方法で抜け出すために、色々と用意を重ねてきた。」
優太は万祭の「もう1つの方法」を耳にして目の色を変える。
万祭は教卓から降り、ほとんど白色に近い色をした黒板に、白いチョークで何かを描き始める。
読みづらいが、集中して凝視すれば読める色の差だ。
「ワシたちはゴールのない迷路に放り投げられた駒だが脱出することは不可能………ではない。」
「ゴールがなければ造ればいい。造る方法はちょっと、面倒だけどね♪」