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Re: 終焉の歌姫が謡う時 ( No.16 )
日時: 2011/04/26 23:29
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: hYVgID.t)


 時は第8次世界大戦時代。
 空には飛空艇が飛び交い、魔導師のローブは精霊が吹かせる風にはためく。
 剣士は月光を背に剣を交え、荒地では各国の軍旗が翻り、雄たけびが天を貫く。
 戦火が街に及ぶ今は、孤児になり、夜の町を走り抜ける事も少なくない。
 アレン・ルル—・シエンもその中の人間だ。数ヶ月前に帝国に侵略され、それぞれの両親は殺された。アレンの左胸に向けられた血に染まった凶刃の前にシエンとルルーが立ち塞がらなかったらオレンジの髪に蒼い目を持つアレンの命はなかった事だろう。
 幼馴染だった彼らはその時からずっと一緒に行動している。
 闇夜を駆ける盗賊(ナイトホーク)として彼らは今まで生きてきた。
 10代後半のルルーとシエンがまだまだ人として未熟なアレンを支えていた。盗みを働く時はシエンが侵入し、ルルーが魔術で援護する。
 アレンは横でいつも見ているかシエンと一緒に駆けていた。いつか1人で生きていけるようになるまで。そう思ってルルーとシエンはアレンに『仕事』をさせなかった。穢れた『仕事』に手を染めないようにと、アレンを思っての事だった。
 大切に、思ってきた。
 ……それが間違いだった。
 そう思ってきた結果がこれだ。ベテランのナイトホークでも躊躇うような、街一番の巨大な屋敷に真昼間からアレンが単独で侵入した。
 他の2人が気付いた時には屋敷の警鐘が鳴り響き、何事も無く解決、と言う選択肢は消えた。そして、屋敷の中にたどり着いたときにはもうアレンのいるであろう部屋には警備兵が迫っていた。
「アレンッ! そっち行ったぞっ!!」
 思わず叫んだシエンの声をルルーは必ず聞いていたことだろう。
 そこからはシエンが手榴弾を投げ、ルルーがアレンを保護する。それから3人で住処に戻る筈だった。

 夜になり、警備兵の追手も撒いた。
 ルルーは窓辺に座り、シエンはベッドに横になっている。
 しかし、そこにアレンの姿は無い。
「———…」
 ギシリ、と音を立ててシエンが立ち上がった。ルルーはそれを見てゆっくりと立ち、コートを着る。
「アレンは、」
 そう言って、ルルーは溜息をついた。
「どこに行ったのかしら?」
 呟いたその言葉を聞いている者はいない。かわりに答えるようにギィと木製の扉が鳴った。微かに開いているその扉から漏れる月光に、ルルーの影が重なった。