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Re: 終焉の歌姫が謡う時 4/28 20:46up ( No.20 )
日時: 2011/04/30 23:06
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: hYVgID.t)


『明日の夕方、盗賊ギルドのアジトに火を放つ!』

 ユーリの声が蘇る。
「……どうすれば…!?」
 独り言のように呟き、走りつづけたアレンは何時の間にか盗賊ギルド『ナイトホーク』のアジト前にいた。木製の扉を押し開けたアレンの鼻を酒の匂いが突いた。
「…また飲んでるの? シエン兄さん」
「アレンか」
 質問には答えずに、シエンはアレンを冷めた目で一瞥した。
「奥で、ルルーが待ってるぞ」
「ん」
 金髪が先刻の男と重なった。
 アレンは唇を強く噛み、壁のレンガを1つ強く押した。微かに大地が動いているかのような音が響く。
 壁にある、ギルドの男達の為にある酒瓶が大量に置いてある棚が右にずれた。それを確認したアレンは棚の裏に現れた扉の奥に入っていった。

「アレン」
「お待たせ、ルルー姉さん。買ってきたよ」
 そう言ってアレンはアジトの奥の隠し部屋にある机に持っていた皮袋と背負っていた絨毯を置いた。
「お疲れ様」
 ルルーは皮袋に手を入れて中身を出した。出てきたのは銃・手榴弾・短剣など。
 ルルーがそうしている間にアレンは持ってきた絨毯を指差して言った。
「赤いのがシェリィ、緑のがヴァン、黒いのがルルー姉さんで、黄色のがシエン兄さんのだよ」
「こっちの橙色と青いのは? それから白のも」
 真紅の髪の毛がアレンの前で揺れた。彼女は赤い絨毯を手にとり包まれていた何かを取り出した。その横では男が緑の絨毯を取る。ルルーも同じようにした。
「あ、ランスじゃん! 属性は火かー。アレン、いい仕事したよ!」
「こっちはバスタードか。銀でコーティングされてるし……今回は相当本気だなァ!! ルルー、お前は?」
「……! これは……」
 赤い絨毯を取ったのはシェリィ。真紅の目と髪を持つ、ルルーと同じくらいの歳だとアレンは思っている。ショートカットにしているその髪と同じ長さの前髪を金色の髪留めで左に流してとめている。
 緑のそれはヴァンの物で、包まれていたのはバスタードソードと言う両刃の剣。約二メートルあるそれは長身のヴァンの為のオーダーメイドの物だ。彼は黒い髪と緑の目を持ち、銀縁の眼鏡を掛けている。
 ルルーが取った黒いそれには、
「……『神々の聖杖』だって。これはルルー姉さんにあげるってハンスおじさんが言ってた」
 そしてアレンは残りの3つの絨毯を見て言った。
「橙色のは僕のだよ。白がマリアで青いのはキールさんだよ」
「そういや、マリアとキールとシエンは?」
「シエンは上で見張りしてるわ。マリアとキールは偵察に、」
 その時突然、その場にいたアレン・ルルー・シェリィ・ヴァンの動きが止まった。視線を交わしあい、耳を研ぎ澄ませる。どうか勘違いであって欲しい。そしてもう一度、耳を貫く音。
 アレンは素早くルルーが出していた短剣二本を掴み、黄色の絨毯を背負った。他の3人も各々の武器を掴む。
 怯むな、アレン…———!! 彼は自分に言い聞かせた。
 短剣を握る両手に汗が滲む。
 再び聞こえた金属と金属がぶつかり合う音を合図にアレンは隠し部屋を飛び出した。
 誰かがシエンと剣を交えている。それも、凄まじい殺気を放って。