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Re: 終焉の歌姫が謡う時 ( No.21 )
日時: 2011/05/02 00:50
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: hYVgID.t)


「シエン兄さ…ッ!!」
 短剣を構え、ダミー部屋に駆け込んだアレンの目に飛び込んだものは壁に散った鮮血だった。シエンの身体を見るが怪我はしていないようだ。すれば襲撃者か? とっさに前方を見つめる。そこにいたのは、
「……ザ、ジ…———」
「…俺の名前を知ってるのかい? ああ、さっき人の気配を感じたな。君だったのか」
 馴れ馴れしい態度に苛つく。その時ルルーが口を挟んだ。
「ライトニング!」
 閃光が弾け、電撃がザジを襲う。シェリィは思わず目を閉じた。しかし彼は軽く右にそれをかわした。レンガの破片が舞い、陽光が反射した。ザジは軽く笑って何かをアレンに向かって投げた。
「!?」
 アレンの手の中に収まった物はペンダントだった。三日月を象ったそれは蒼いクリスタルで出来ており、神秘的な輝きを放っていた。貰っておいてよ、とザジが言った。
「おいっ」
 シエンの叱声が飛んだ。
「今日はこの辺で失礼するよ、あまり歓迎されてないみたいだしね」
「お前っ、待てッ!!」
 シエンの声はザジに届かなかった。突然煙のように掻き消えたザジの笑顔がアレンの脳に張り付いた。彼はフードを被ったままだったが、顔はよく見えた。どこかで見たことがあるような気がするけど…———。
「シエン、怪我はねェのか?」
 ヴァンの低い声がアレンの思考を止めた。

「ちょっと待って、アレン。あなたはザジ、と言う男に会ったことがあったの?」
 暫く考え込むようにアレンの話を聞いていたルルーが言った。
「ううん、違うよ。会った事はないんだ。あいつと、帝国軍隊長が話してるのを聞いただけ」
「そう…」
 壁に付いていた血は結局誰の物か分からなかった。シエンは怪我をしておらず、剣にも血は付いていなかった。

「結局、何でお前は屋敷に入ったんだ?」
 シエンが尋ねる。
「あいつらの注意を引こうと思ったんだ」
「は?」
 アレンは溜息を吐いた。
 自分の思っていた事が最も伝わる言葉を探しながら話した。
「注意を引こうと思ったんだ。アジトに火を放つ気が無くなるくらい、価値のあるものを盗んでやろうと思って。皆に言ったら止められると思って、一人で行ったんだ。それで、見つかっちゃった」
「見つかっちゃった、って…」
「捕まってもいいと思った。もしかしたら僕1人が捕まっただけで皆が助かるならって思った」
 シエンとルルーの目を真っ直ぐ見つめて話すアレンの目は、今までに無いほど大人びていた。

「お前の言いたい事は分かった。だけど、今度からちゃんとギルドの誰かに言えよな」
「ごめんなさい」
 素直に謝るアレンの横で、ルルーがポツリと呟いた。
「でも、火を放つって……」
「———…!! おいッ、あれ!!」
 シエンが指差した方向にはギルドがある。月が輝くのは漆黒の空であるべきで、
「!」
 紅い空ではない。