ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 終焉の歌姫が謡う時 ( No.3 )
- 日時: 2011/04/24 23:24
- 名前: 玖織 ◆f8ZRFO1MkY (ID: hYVgID.t)
「アレンッ! そっち行ったぞっ!!」
「っ!?」
アレンと呼ばれた10代に見える少年は、その声に弾かれたように飛び上がった。
——やばい、捕まるっ!!
騒々しい足音が段々と近づいてくる。彼に襲い掛かる、死への恐怖。逃げ口は……そうしている間にも何かが迫る。
腕一杯に抱えている食料や水、金品を捨てていけば逃げられる。しかし、自らの命を賭して手に入れたものだ。みすみす捨てるような真似はしたくない。
「くそっ」
意を決してアレンは窓に突っ込んだ。ガラスが割れる音と共にアレンが隠れていた部屋のドアが蹴り開けられた。
「ちっ、逃げられた!! 外だっ、門を塞げっ!!」
警備兵隊長らしき男の声を聞きながら、アレンは手入れが行き届いた庭に着地した。
跳ね起きたアレンは脱出を試みて門を目指して走り出そうとした。が、屋敷の影から突如として現れた3人の警備兵に防がれる。
「いたぞ! 撃てっ!!」
銃撃の雨がアレンを襲う。咄嗟に木の陰に隠れたが、長く持ちそうにない。このままじゃ殺やれる、強行突破か……?
様子を窺い、足に力を込めた。
その時。
「頭下げろっ、アレンっ!」
聞き覚えのある声に一瞬頭を上げかけるが、彼の言う事だ。頭は下げる。その方が賢明だろう。アレンは出来るだけ頭を下げてこれから始まる何かに備えた。
そして轟く爆音。
彼が手榴弾を投げたのか? 考える間もなく誰かに腕を引かれた。
振り向くと、女性が1人。
「ルルー姉さん! ってことは今のは」
「アレン!」
「やっぱり、シエン兄さんっ!」
アレンの腕を引いたのはどこか不思議な雰囲気の漂うルルー。恐らく10代後半の彼女は紫色の長い髪を下ろしている。その髪と同じ色の切れ長の目にアレンはいつも見とれてしまう。
そして次に現れたのはシエン。ルルーと同じく10代後半の彼は武器全般の扱いに長けており、先刻の爆発も彼だと思われる。日に焼けた肌は彼の金髪と同じく金色の目とバランスがいい。
「アレン、無理はしないで」
頭に置かれたルルーの手と冷徹とも取れる彼女の声から溢れる優しさを感じたアレンは少し目を逸らし、謝った。
アレンのオレンジ色の髪に指を滑らせるルルーをシエンが苦笑しながら止めた。
「おっと、無駄話は後にしようぜ。さっきの爆弾に他の警備兵も気付いただろうしな。さっさと逃げようぜ」
「ん」
アレンは短く返事をして、先に走り出したルルーとシエンに続いた。
門まで辿り着いた時、後ろの方で警備兵が怒鳴り始めた。どうやら追いかけてくるようだ。再び銃撃が彼らを襲う。
「ちっ、アレン。お前の所為だぞ! 勝手に1人で盗み何かしようとするから! まだ無理だって言っただろ……!!」
「———…」
思わずアレンは俯く。ルルーはたしなめるようにシエンに言った。
「私たちの意識が薄かったのよ、シエン。アレンだけの所為じゃな、」
「ごめん」
アレンはルル—の声を遮る。
「僕が悪かったよ、ごめんなさい」
「アレン」
ルル—が止める声も聞かず、アレンは先に走り出してしまう。後姿は直ぐに雑踏に飲み込まれて見えなくなった。
シエンは気まずそうに俯く。
「もう……。…———ファイアーウォール!!」
ルル—が叫ぶ。
言下に火炎の壁が門の前に立ち上がり、警備兵達の足を止めた。
「シエン、アレンに謝りなさいよ」
そう言ってルルーの姿は掻き消えた。
シエンは一度振り向き、先刻までいた荘厳な屋敷を一瞥した。